進撃のスペースX、商業打ち上げに黄色信号



スペースXのファルコン9ロケットが爆発、炎上した。前回のコラムでも解説した通り、ファルコン9ロケットの打ち上げは遅れが続いており、今後の打ち上げ予定がさらに遅れることは避けられない。打ち上げを待つ衛星運用企業は、ビジネスの根幹を揺さぶられている。


スペースXは2018年末までの2年半に、48機の打ち上げを予定している。仮に打ち上げ再開が年明けと考えると、2017年、2018年の2年間は年20機以上のペースで打ち上げなければならない。2015年は7機を打ち上げて6機成功、2016年は9機目が爆発したことを考えると、スペースXの計画を素直に信用するのは難しい。もし年10機ペースの打ち上げとなったら、48機目の打ち上げは2021年になってしまうし、2019年以降に計画されている打ち上げはもっと後になってしまう。


1年で10機打ち上げたことがないのに、2年で40機?



しかも、ファルコン9の打ち上げの中にはNASAから受注した、ドラゴン宇宙船の打ち上げが、2018年までに13機含まれている。国際宇宙ステーションへの食糧や物資の輸送を滞らせるわけにはいかないから、こちらが優先されるだろう。さらに、空軍のGPS衛星や国家偵察局の偵察衛星の打ち上げ予定もある。いったい何機のファルコン9を、商業衛星打ち上げに割くことができるのか。


こうなると、ファルコン9の打ち上げを諦め、別のロケットへ乗り換えようという企業が出てきてもおかしくない。いくら格安と言っても、何年も待たされては衛星ビジネスが破綻してしまうからだ。実際、今回のロケットごと衛星を失ってしまったイスラエルのスペースコム社は経営危機に直面している。


いつまでも空港の出発ロビーで「遅れ」の表示を眺め続けている衛星たちは、そろそろ他の航空会社のカウンターが気になりだしているはずだ。しかし、飛行機と違ってロケットは、客が予約してからフライトを準備する。今から隣のカウンターに駆け込んだら、どれくらい先の便で飛べるのだろうか。運賃はいくら取られるだろうか。


2010年代後半の宇宙ロケット打ち上げは、混とんとした状況になりつつある。


ファルコン9にあぶれた客はH-IIAに乗り換える?




出発ロビーにはたくさんの航空会社があるが、そのうちのひとつが我が日本のH-IIAロケットだ。ファルコン9が予定通りの打ち上げを実施できないとなれば、日本のH-IIAロケットに顧客を獲得するチャンスが巡ってきたのだろうか。


ファルコン9の最新型「フルスラスト」の静止衛星打ち上げ能力は、8.3t。これに対してH-IIAロケットは4.8tと、かなり非力だ。ただし「フルスラスト」が能力一杯の衛星を搭載することは稀で、2016年に打ち上げた8機の衛星のうち、4.8tを超えていたのは1機だけだった。残りの7機は、単純計算ではH-IIAロケットでも打ち上げ可能な重量だ。


次は納期だ。H-IIAロケットは2013年に受注したテレサット社の通信衛星を2015年に打ち上げており、概ね2年程度の納期で対応できている。もし三菱重工業が年内に打ち上げを受注できれば、2018年内に打ち上げできることになり、スペースXが2018年までに抱えすぎている打ち上げ契約の「横取り」には充分間に合うだろう。


2018年はH-IIAロケットの「穴場」



H-IIAロケットの打ち上げスケジュールはどうだろうか。あまりH-IIAロケットの打ち上げ予定が集中している時期だと、新規の打ち上げを割り込ませるのは難しい。


宇宙基本計画で予定されている2018年度のH-IIAロケットの打ち上げは、情報収集衛星が1機。それと宇宙ステーション補給機を打ち上げるH-IIBロケットを合わせても2機しかない。2016年度は5機、2017年度は6機もの打ち上げがあるのに、明らかに生産設備や発射設備を持て余している状況だ。ちなみに2019年度は5機の予定で、うまいことに日本政府の打ち上げスケジュールがちょうど、2018年度だけ空いてしまっているのだ。


となると、三菱重工業としては2018年度に最大4機程度の商業打ち上げをこなす余力があると考えることができる(現場は悲鳴を上げるかもしれないが)。少なくとも現計画の2機では明らかに過少で、余剰の能力を活かすことができる商業受注は喉から手が出るほど欲しいはずだ。


三菱重工業が受注できそうな衛星はあるだろうか。ファルコン9の打ち上げ予定リストのうち、NASAのドラゴン宇宙船や国家偵察局の偵察衛星、空軍のGPS衛星が回ってくることはあり得ない。一方、これらの衛星は優先的に打ち上げられるだろうから、商業通信衛星やアメリカ以外の政府衛星はさらに後回しになるおそれもある。2017年後半以降に打ち上げを予定しているこれらの衛星に、三菱重工が営業攻勢を掛けていることは想像に難くない。


H-IIAロケットの限界とH3ロケット



三菱重工業がチャンスをものにすることを期待したいところだが、H-IIAロケットには限界もある。先に述べた通り、H-IIAで打ち上げ可能な静止衛星打ち上げ能力は最大4.8tで、ファルコン9フルスロットルを下回る。また強化型のファルコンヘビーはさらに大きな衛星を打ち上げることができるので、こちらの衛星は受注できない。


価格の差もある。ファルコン9のカタログ価格は、1ドル100円として62億円。ファルコンヘビーでも90億円だ。一方、H-IIAロケットの価格は公開されていないが過去のJAXAでの打ち上げ実績から、商業衛星打ち上げ用の204型は120億円程度、さらに大型のH-IIBは140億円程度と推定できる。ファルコン9と比べるとかなり高い。


ただ、通信衛星の価格は数百億円もするので、衛星通信企業にとっては総額数百億円のビジネスが何年もストップすることの方が大きな損失だ。またファルコン9は事故続きで保険料率が上がっていると思われるため、実質的な打ち上げ費用の差が縮まっているかもしれない。


H-IIAロケットの能力と価格は、ファルコン9にあと一歩及ばないものの、致命的ではない。だからこそ商業受注を獲得できているのだが、より対等に近い条件で戦うにはロケットそのものの革新が必要だ。そこでH-IIA登場から約20年ぶり、原型のH-IIロケットからは25年ぶりとなるフルモデルチェンジが、H3ロケットだ。


(後編へ続く)


Image Credit: SpaceX、JAXA、内閣府