このところ、中国とバチカンが関係構築のための対話を続けている。バチカン市国は欧州で唯一、中国と外交関係を結ばず、台湾を承認している国だ。台湾側は今のところ、バチカンとの関係維持についての自信を示している。写真はバチカン。

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このところ、中国とバチカンが関係構築のための対話を続けている。バチカン市国は欧州で唯一、中国と外交関係を結ばず、中華民国(台湾)を承認している国だ。台湾側は今のところ、バチカンとの関係維持についての自信を示している。

台湾と外交関係を維持する国は全世界で20カ国あまりだ。アジアで台湾との外交関係を持つ国はない(例外として、ブータンは中台いずれとも正式の外交関係を持たない)。そして、欧州で唯一、台湾との外交関係を維持しているのがバチカンだ。

周知のように、バチカンは規模が極めて小さい国でありながら、カトリックの「総本山」であるために、世界全体に対する影響力は極めて大きい。中国とバチカンが外交関係を持てなかった最大の理由は、ローマ法王(教皇)による司教の任命権という、双方にとって「大原則」にかかわる問題があったからだ。

ローマ教会は中世において、神聖ローマ帝国皇帝など世俗権力との熾烈(しれつ)な争いを繰り返し、神聖ローマ皇帝を破門するという非常措置(1076年、カノッサの屈辱)まで発動して、司教の任命権などを確立した。中国を「特殊な例外」として司教の任命権を放棄したりしたら、法王の権威そのものに疑問を持たれかねない。

一方で、中国は国内における宗教関連の問題で「外国勢力の干渉は受け入れない」ことを大原則としている。この原則は、「かつてキリスト教宣教師らが中国の国内政治に干渉し、列強による植民地化を推進する力にもなった」との認識にもとづく。中華人民共和国は成立直後にバチカンと外交関係を結んだが、1951年に「内政干渉がある」として断交した。

仮に、ローマ法王が中国国内の司教を任命したとしても、現状では中国の国内政治に干渉できるとは思えないが、共産党が「原則」として打ち出した以上、譲歩は難しい。そのため中国は独自に「中国天主教愛国会」を設立し、カトリックの組織とした。もちろん、バチカンも世界各地のカトリック組織も、カトリックの組織であるとは認めていない。

双方が非難を応酬する事態もあったが、2013年に就任した第266代フランシスコ法王は、中国との対話に力を入れてきた。2016年1月ごろからは、「中国側が司教の候補者リストをバチカンに示し、その中から教皇が最終的に司教を選出する」との方法で、双方が合意したとの報道も見られるようになってきた。

現在も最終決定に至ってはいないとみられるが、かつてとは様相が異なり、互いに「建設的な方向」を目指して協議を重ねていることは間違いない。

ここで問題になるのが、中国がこれまで、他国と外交関係を樹立する際に、相手国が中華民国(台湾)との国交断絶することを、「絶対の条件」としてきたことだ。台湾で5月に民進党・蔡英文政権が発足したことで、中国が現在も台湾と国交を維持する国の「切り崩し」に力を入れていることは、想像に難くない。

台湾側の動きとしては、陳建仁副総統が9月2日から8日まで、蔡総統の特使として故マザー・テレサの列聖式に出席するためにバチカンを訪問した。陳副総統は敬虔なカトリック信者として知られており、バチカンへの派遣はまさに適任だったと評することができる。

陳副総統に会見したフランシスコ法王は「台湾の人々のために祈ります。あなた方も私のために祈ってください」などと述べたという。一方の陳副総統はフランシスコ法王に台湾訪問を呼びかけた。陳副総統はさらに、フランシスコ会の創設者、聖フランシスコ生誕の地として知られるイタリア中部・アッシジを訪れ、世界と台湾と中国大陸の平和のために祈った。

陳副総統の祈りは、本人の宗教心に発したものだろうが、中国大陸と台湾の関係についてそれほど理解していない欧州やカトリック界の人々に対しての政治的アピールとしても、かなり有効だったと考えることができる。

中国によるバチカンへの働きかけについて、中華民国外交部(台湾外務省)の呉志中政務次長は8月28日、「台湾とバチカンの関係は安定している。そして(われわれは)バチカンと北京が対話することに反対しない。よいことだ」などと発言。

陳副総統もバチカン訪問中に、台湾とバチカンは良好で永続的な関係を維持していると表明した。台湾側はバチカンとの関係維持について今のところ、自信を示している。(9月12日寄稿)

■筆者プロフィール:如月隼人
日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。