週に1回、視聴者に夜食テロ&癒しのダブル攻撃を繰り出すアニメ『甘々と稲妻』。妻を亡くした高校教師の公平(演:中村悠一)が5歳の娘・つむぎ(演:遠藤璃菜)のために、教え子の小鳥(演:早見沙織)と一緒においしいごはんを作って食べるお話だ。


深夜アニメにしては異例のヒットとも言われている『甘稲』だけど、せっかくなら子どもも見やすいゴールデンタイムに放送してほしい気がしないでもない。たとえば、土曜の夕方6時半(かつて『モグモグGOMBO』をやってた時間帯)なんてよさそう。

などと勝手なことを言いつつ、先週放送の第10話「夏休みと猫とアジ」を振り返ってみよう。なんだか牧歌的なタイトルだけど、実は深遠な内容だったり……?

現実世界では夏は過ぎ去ってしまったようだけど、物語の中ではしっかり夏! 公平(演:中村悠一)と5歳の娘・つむぎ(演:遠藤璃菜)は海へ来ていた。ところが、つむぎの様子が少し変だ。いつもは元気いっぱいで頑張りやさんのつむぎなのに、はしゃぎもしないし、元気もない。海にも入らず、父親の公平に抱っこしてもらう始末。

「つむぎ、今、ネコだから自分でできない……」

先に両手をニュッと出して、抱っこを求める仕草がリアル。ウチの娘(つむぎと同じ、年中さん)はしょっちゅう機嫌を損ねて、こうやって抱っこを求めてくる。甘えるつむぎを怒ったりせず、そのまま受け止める公平は優しい父親だと思う。いつも以上に静かな出足なので、軽快なOPテーマ「晴レ晴レファンファーレ」が始まっても、なんだかテンションの落差についていけない感じ。

さて、親友のしのぶ(演:戸松遥)と一緒に、夏の暑さでぐだぐだになっていた小鳥の元に公平からメールが届く。メールは「釣りたてのアジを料理したい」という内容だった。公平たちは結局そのまま帰ることにしたのだが、釣りをしていたご近所さんに偶然出会って、釣果のアジをおすそ分けしてもらったのだ。こういうご近所付き合いっていいですよね。

クーラーボックスに横たわる3匹のアジを見て、「おいしそう〜〜」と目をうるませる小鳥。さすが料理研究家を母に持つ食いしん坊エリート。しのぶも「早っ」と呆れ気味だ。なお、つむぎはこのカットまで、まだ目すら見せてない。

というわけで、今日のお料理テーマはアジのなめろうと、それをハンバーグ状にして焼いたさんが焼き。その前に、公平は生まれて初めての魚捌きに挑戦する。かなり料理レベルが高くなってきた……!

ズドン、と落とされたアジの頭を目の前で見るつむぎ。怖がったりすることなく、目を見開き、固唾をのんで、公平が苦労しながら魚を捌く様子を見守っている。

「怖くないか?」
「平気! 今、ネコだから!」

理屈はよくわからないが、とにかく強い興味を持っているようだ。今回のエピソードは、本当に丁寧に魚を捌く過程を描いている。ウロコを取り、頭を落とし、内蔵をかき出し、中骨の血合いもきれいに落として、三枚におろす。本当にそれだけでかなりの尺を使っている。

深夜の刺身テロ勃発!


なんとか三枚におろしたら、大人のお楽しみ、新鮮なアジの刺身の試食会だ。小鳥を筆頭に公平としのぶもテンションが上がる。しょうがをすって、しょうゆをつけて、パクリ。ク〜ッ、これは深夜の刺身テロ! いや、刺身と日本酒テロだ! 画面には出てこないのに、なぜか飲みたくなるのは酒飲みのサガ……。あと、小鳥って将来、絶対に酒飲みになりそう。そして、3人の様子を見ていたつむぎもつられてパクリ。もちろん、おいしい! すると、急激にテンションアップして叫びはじめる! 

「あれ(アジ)が、こうなって(切り身)、ここ(お腹)に来て……ってね。すごくないっ!? わかる!?」

「?」という顔をする小鳥としのぶだが、つむぎは続ける。「こわいし、おもしろいし、すごいんだよっ!」。公平はつむぎの言葉にしっかり頷く。

「つむぎ、生まれたときはすっごくちっちゃかったんだよ。お父さんは心配でドキドキしたけど、ママは大丈夫! って笑ってくれた。お魚もお肉も野菜もぜんぶ大事に食べて、どんどんお姉さんになってく。本当にすごいことだね!」

つむぎはきっと、生命をいただくことの大切さと神秘を直感的に理解したのだろう。生命あるものが死に、それを口にすることで自分の生命になる。こうやって書くと大げさかもしれないが、誰もが日々繰り返している大切な営みだ。そして、生命が育まれていく様は、一種の奇跡である。公平が言うように「本当にすごいこと」なのだ。小さな子どもを育てている親たちは、それを日々実感している。

公平に顔をムギュッとされ、小鳥としのぶにも「すごいね!」と言われて、すっかり元気を取り戻したつむぎ。つむぎの応援のかいもあって、なめろうとさんが焼き、そしてアジのアラを使った味噌汁とごはんも完成! 公平の友人の八木(演:関智一)もやってきて、アジパーティーだ! 

もちろん、どれもおいしいに決まってる。つむぎも大満足だ。初回は白いごはんを炊くのが精一杯だったのが信じられない成長ぶりである。

「今日すごいねっ! 海もねっ、魚もねっ、すごいおもしろかった!」

公平の膝に乗って、うれしそうに言うつむぎ。公平はうれしそうにつむぎの頭にあごを乗せて、「そうだね、面白かったね!」と返事をする。この、頭にあごを乗せるところは原作にないアニメならではの細かな動作である。公平の深い愛情が伝わってくる、さりげないけど良い芝居だ。

おいしいごはんは生命の源


今回のエピソードはほとんど原作そのままで、セリフさえほとんど一緒である。もっとも大きな変更点は、海で元気のないつむぎが公平に抱っこされるシーンだ。

原作では、抱っこされたつむぎが公平にギュッとしがみつくところで、公平はつむぎが「ママ、こないし…」と泣いた前回のエピソードのことを思い出している。ところが、アニメではその回想シーンがない。

筆者は原作を読んでいたのと、公式ページのストーリー紹介にあった「ごはん会で作った“おうちカレー”を食べて、ママを思い出し、甘えん坊になったつむぎ」という一文を読んでいたので、つむぎが前半で元気がないのは前回のエピソードの大号泣をひきずっているからだと理解していた。ところが、今回のエピソードを観ている視聴者の中には、つむぎが元気を失っている理由がわからなかった人も少なくなかったようだ。

「つむぎちゃんどうしたんだろ?」
「つむぎ、海嫌いなの?」
「車弱いのかな?」

などという声がタイムラインに相次いだ。つむぎが元気をなくしているのは間違いなく、前回ママを思い出して大泣きしたことを引きずっているからなのだが、スタッフ側はあえてその部分をぼかしているようだ。

『甘々と稲妻』という物語には、常に死の影がさしている。ママを亡くしてからまだ1年も経っていない公平・つむぎ親子にとって、死というものは分かちがたく日常に存在している。

その影に光をあてるのは、食べることそのものだ。おいしい料理には、死の影を跳ね返す生命力がある。その生命力の根源は、料理の素材が持っている生命の力であり、食べる人のことを想って一生懸命料理する人の心である。そのことを端的に示したのが、今回のエピソードだ。

ただ、スタッフは少しだけつむぎの肩の重荷を外してあげたのかもしれない。1週間もいなくなったママのことを思って悲しんでいたというわけではなく、ただ、ちょっと元気をなくした子どもが、おいしいごはんを通して、食べものの中にある生命の神秘と成長の奇跡とごはんを作ってくれる人の気持ちに気づいて、元気になる。それだけのお話でも十分じゃない? と。

もう一つ、原作と異なるのは、EDテーマの後に公平と八木がイチャイチャする(?)シーンが付け加えられていたことだ。うん、楽しそうで良いのではないでしょうか。ちなみに、八木が公平の好きな甘いものを聞いた理由は、原作5巻を読めばわかります。八木ってば、いいやつなんだ。

本日放送の第11話「おゆうぎ会とさつまいもクレープ」。さつまいもといえば、季節はもうすぐ秋……。ということは、『甘々と稲妻』も終わっちゃう!? 
(大山くまお)