US(全米)オープンテニス準決勝で、第6シードの錦織圭(ATPランキング7位、8月29日付け、以下同)は第3シードのスタン・ワウリンカ(3位、スイス)に、6−4、5−7、4−6、2−6で敗れ、2年ぶりの決勝進出はならなかった。

 準決勝の序盤から、「(ワウリンカは)スライスを多用する選手なので、前へ行かないと、という気持ちは少なからずあった」という錦織が今大会で自信をつけていたサーブ&ボレーやネットプレーを多用した。

「圭は、試合のスタートが本当によかった。動きもよかったし、本当にアグレッシブだった。僕は解決の糸口を見出せず、コート上で居心地が悪かった。彼はネットにも出てきたしね」
 
 このようにワウリンカを惑わせたが、短時間でポイントを決める錦織の戦術は、なるべく錦織自身が体力の消耗を抑えたいという思いもあったのかもしれない。

「2ブレークはしておきたかった。そこを取っていれば、もうちょっと気持ち的にもプッシュできた」と振り返った錦織は、第2セット第7ゲーム0−40から、ほとんど自分のミスで、ワウリンカのサーブをブレークできなかった。このゲームをきっかけにして、錦織の集中力が徐々に落ち始め、第2セットでは第7ゲームで4回、第9ゲームで2回、合計6回のブレークポイントを錦織はふいにした。

 さらに「足がかなり重かったです」という錦織に追い討ちをかけたのが気候だ。気温は30℃を超え、湿度も約70~80%と、ニューヨークらしからぬ蒸し暑さでタフなコンディションとなり、彼の足かせのように体力を蝕(むしば)んでいった。

 逆に「少しずつ速く、少しずつ重く」と語るように徐々にプレーが上向いてきたワウリンカは、得意のシングルバックハンドストロークで、ダウンザラインやクロスへ打ち分け、錦織をコートの左右に走らせた。

 試合の後半になると、「疲れて思考能力が低下した」という錦織は体力が落ちるとともに、状況判断能力も落ち、ネットプレーに偏り過ぎる形になった。本来、相手の意表をつくネットプレーをミックスしながらポイントを取るのが錦織であり、それがツアー屈指のショットメイカーの魅力なのだが、今回に限ってはやや単調になった。

 第3セット第7ゲーム後に、降雨によって屋根が閉められ、空調の効いたインドア状態になって蒸し暑さは解消されたが、疲労した錦織に本来の思考能力は戻らなかった。結局、錦織のセカンドサーブのポイント獲得率は第3セット31%、第4セット25%まで落ち込み、さらに試合の後半にワウリンカのミスは減ったが、逆に錦織のミスは増え、最終的に47本のミスを犯した。

 リオ五輪を含めて、いつも以上にタフな夏の北米ハードコートシーズンだったが、錦織はUSオープンにピークを合わせてきた。大会第1週目はややもたつきがあったものの、第2週目に入ってギアアップし、準々決勝で第2シードのアンディ・マリー(2位)を倒してベスト4入りを果たした。この意味では、USオープンでのピーキングがうまくいったと評価できる。

「ここまで来られたのは、すごく自信にはなります。特に今1、2番に強いマリーを倒して、ここまで来たので。多少言い訳にはなりますけど、(マリーと)5セットをやっていなかったら、もうちょっと元気に戦えていましたし、もちろんドロー運もあるので何とも言えないですけど......。こうやって今日も多少なりチャンスがありながら戦えた。最近トップの選手に勝てるようになってきているので、もっともっと自信を持って戦っていきたいですね」

 実は、今まで錦織はUSオープンで、トップ10プレーヤーと対戦して負けたことがなかった。2008年3回戦ダビド・フェレール(当時4位)、2014年4回戦ミロシュ・ラオニッチ(6位)、同年準々決勝ワウリンカ(4位)、同年年準決勝ノバク・ジョコビッチ(1位)、2016年準々決勝マリー(2位)と、このように強敵に5連勝していて、ニューヨークでは1位と2位から勝利を挙げるという日本男子選手としての快挙を成し遂げた。

 今回ワウリンカに記録を止められてしまった錦織だが、そこで課題となるのは、トップ3を連破する力が足りないことだ。マリー戦での錦織は持っている実力を最大限に出した、いわば"フルパワー錦織"だった。だが、フルパワーのプレーは、当然体力もメンタルも大きく消耗するため、5セット1試合は戦えても、なかなか連続でプレーするのが難しい。逆に今回は、故障が起こらずに済んでよかったとも言える。

「フィジカル的にはもっと強くなりたいという気持ちがありますけど、(マリー戦で)あれだけの4時間もの試合をしてしまったので、なかなかドーピングしない限りは、(回復は)難しい」

 錦織は冗談を交えながらそう話すように、ギリギリの戦いであったことは認識している。まもなく27歳という年齢を踏まえると、トレーニングをして今から劇的な体力向上を望むのはあまり現実的ではない。そうなると錦織にとっては、グランドスラム2週間におよぶ5セットマッチが続く中で、どう勝っていくかが重要になってくる。すなわち、グランドスラム第1週目での試合をなるべくストレートで勝ち、しかも短時間で勝ち上がる必要がある。ジョコビッチやマリーと戦う時までに、少しでも力を温存しておきたいところだ。

 理想としては錦織がマリーやジョコビッチにストレートで勝てればいいが、それにはもう少し時間の経過が必要だ。マリーらの強さも永遠ではない。もちろん錦織も、最低限今の強さを保たなければならないし、グランドスラム優勝となれば、多少の運も必要だろう。

 錦織は、USオープンベスト4によって、ランキングポイント720点が加算されるため、大会後にランキングが7位から5位に上がり、昨年8月31日以来のトップ5に返り咲く。2017年のオーストラリアン(全豪)オープンでの優勝争いを見据えると、錦織は今シーズン中にランキングを4位に上げておきたいところだ。そして、シーズン成績上位8人しか出られないATPワールドツアーファイナルズの出場権をめぐるRace to Londonでは、錦織は3位につけており、3年連続出場に向けて視界良好だ。

「グランドスラム決勝に戻ってこれるチャンスは、またいつか出てくると思います」

 ニューヨークでつけた自信を携え、そして新たに見つけた課題を克服できれば、錦織はまだまだ強くなれる。彼が見据える目線の先にあるものは、あくまでもグランドスラムの頂点だ。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi