20160912-kano

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8月の終わりが近づいた頃、新聞のこの見出しに目がとまった。

満1歳で入園、予約制 認可保育所に導入、厚労省が支援へ 年度途中OK、育休とりやすく
http://www.asahi.com/articles/DA3S12525440.html
(朝日新聞デジタル)

「保活」の現場では、0歳代の4月に合わせて育休を切り上げて保育園に申し込むという現象がある。そもそも年度途中の入所が難しい上、1歳児の枠は0歳からの進級でほぼ埋まってしまうので、入所のチャンスを最大に生かすためだ。なかには「本当は1歳直前まで育児したい人」もいる。


こうして無理に4月に合わせなくとも、育休切れの満1歳(※1)直前に年度途中で入所できる「予約」制度を作るというのだ。
【※1:現在、夫婦でずらして育休をとるなど一定の条件が整えば、1歳2ヵ月まで可能。保育所に入れないなどの場合1歳6ヵ月まで延長可能】

■「比較的」守られている人が、さらに守られる


これはこれで悪いことではない。0歳児保育には、1〜3歳の保育に比べて倍の保育士が必要で施設側の負担が大きい(※2)。入所のチャンスを増やすために0歳児保育の枠が膨らんでいるのだとしたら、その状況を避ける意味はあるだろう。
【※2:「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」(第三十三条 2)で定められた保育士の人数は、「乳児おおむね3人につき1人以上」「満1歳以上満3歳に満たない幼児おおむね6人につき1人以上」(満3歳以上省略)】

でも、なんだろう、なんでまたここなんだ、結局、もともと「比較的」守られている人がさらに手厚く守られるだけじゃないか……正直なところ、そんな気持ちにもなった。判定基準が同じである限り、これで「予約」できる人は、現在の保活でも優位な高得点層であることには変わらない。子どもの生まれ月による有利/不利が多少是正されたとしても、ベースの考え方として「優位な人の構造」はやっぱり変わらないんだよなぁ……。

■求職中のひとり親家庭はフルタイム勤務夫婦に点数で負ける現実!


そんなことを思っていた時、保育園に入れなかったあるお母さんの経験を聞いて驚いた。判定の点数が、ひとり親で求職状態だと、夫婦フルタイム勤務の点数にはとても届かない、というのだ。

ひとり親は相応の加点がされるイメージを持っていたのに、どういうことだ?

認可保育施設の利用認定は、各自治体ごとに定めた基準で世帯ごとに点数がつき、それで優先順位が決まる。試みに、東京都内のいくつかの区の点数基準表で実際にカウントしてみた。

たしかに、求職中のひとり親世帯は、フルタイム勤務夫婦世帯の点数を越えられない……!

うーん、明らかに緊急性が高いと思われる状況なのに点数が低くて入れないとは、どこか、なにか、おかしい。

●どうしてそうなる?
例えば新宿区の「利用調整基本指数」(平成28年度)の場合、基本指数(ひとり20点合計40点)を父母合算して、そこに調整指数を足して世帯の点数を出す。

◆フルタイム勤務夫婦
 父フルタイム20点+母フルタイム20点+調整指数0点(※3)=合計40点
 (育休は勤務扱い)

◆ひとり親求職中
 父不存在20点+母求職中7点(※4)+調整指数5点(※3)=合計32点
 (父母逆でも同じ計算。)

【※3:調整指数は、等しく可能性があると考え、求職中のひとり親家庭ならではのものだけを加算した。 ・ひとり親かつ、保育可能な祖父母・同居人無し:4点(有りなら2点) ・生計中心者の失業:1点 の計5点】
【※4:「求職」で「就労未定」の場合「求職活動のため外出を常態」で7点】


となるのだ。新宿区に限らず私がたまたま見た数ヵ所は、どれも似たような構成で、求職中ひとり親家庭の「負け」だった。

■「求職中」の点が致命傷レベルだった!


話を聞いたときは、「ひとり親」への配慮不足があるのだと思っていた。でも、実際にカウントして点数表を眺めていたら、むしろ「求職中」の点数が致命傷レベルに低いことの方に問題を感じ始めた。

例えば、ひとり親がフルタイム勤務なら、その配慮は効果を発揮するのだ。

◆ひとり親フルタイム勤務
 父不存在20点+母フルタイム勤務20点+調整指数5点(※3)=合計45点

「求職中」の低さは、ひとり親ではない例で見るとわかりやすい。

◆育児専業からの求職
 父フルタイム20点+母求職中7点(※4)=27点

……これが、子育てしながら新規で仕事を始める壁の高さだ。

「保育を必要とする」をジャッジする視点としては、「すでに職を持っている人」が圧倒的に優遇されていて、「単なる求職中」の人は重視されていないのが点数表に出ている。

■ダイバーシティに逆行してないか


これでは、保活で高得点を得ようとするなら、「出産前にそこそこまともな会社で働いて育休をもらって手放さない」のが一番いいってことになってしまう。

「一旦仕事を辞める」という選択や状況は、妊娠・出産で身体を使う女性にとって珍しいことではない。その先にあるはずの「また働く」が重視されていない。これじゃあ一度辞めたら「家に入って辞めっぱなし」モデルだ。「辞めないですむ」対策ばかりで「辞めたけれどまた働く」道への配慮が保活の点数表には見えない。

働くことの前提が、どこか「同じ会社で働き続ける」ことや「会社ありきの働き方」になっている。

会社の中の、今いる社員の多様な生き方を「認める」「守る」のがダイバーシティかというと、それだけではないだろう。仕事を辞めること、育児をしながら再就職すること、週2〜3回働き始めること、個人で仕事を受けること、家を仕事場にすること……男女問わず、休止も方向転換もスロースタートもする、そういうこと全部がダイバーシティのはずだ。

でも、これらはたいてい、保育園に入る点数上、不利に働く。

この点数構成のまま予約制が導入されたところで、ますます「つかんだ育休は手放すな」と安全パイにしがみつきたくなるだけだ。一方、育児をしながら仕事ゼロからのスロースタートを切るのが難しい状況は変わらない。フルかゼロか、そういう傾向が促進されてしまう。

むしろダイバーシティから遠ざかっている。

■ひとつの入り口でジャッジするのは限界かも


とはいえ、「求職中の人」こそ守られて「復帰しなければ失業する有職の人」が守られないというのもおかしい。病気や障害など他にも配慮しなければいけない要素がたくさんあって、様々な指標をどうにか公正に得点化しようとしているのが点数表を見ると伝わってきて、なんだか頭を抱えてしまう。

今回見た点数表の場合、例えば、世帯の収入が反映されるようにすると、ひとり親の求職中など「思わぬ低得点」が救われる可能性はあり、改善の余地はあるだろう。

でも、そろそろ「保育を必要とする状態」をひとつの点数表でジャッジするには限界があるような気がする。

すべてのニーズをひとつの入り口で受け入れ続ける限り、潜在的な待機児童はいつまでもじわじわ増え続け、ゼロにはならないだろう。今の点数構造のまま保育施設の数を増やすだけではきっと解決しない。

保育の質と安全の確保が必須なのは大前提として、別のニーズには別の保育スタイルを用意し別の点数基準で入れるようにすることも必要だと思う。

保育園ほどフルでもなく一時預かりほど短時間でもない、週3回だけとか、毎日半日だけとか、そういうニーズもある。例えば、働き方には制限のある保育スタイルを設定し、曜日決めや時間決めの短時間固定で入所できる保育施設や、保育機能のあるコワーキングスペースなどが選択肢としてあれば、広がりが出そうだ。

同じ子育てをする者同士なのに、保育園に入れた人が「うちは幸いにも入れたけれど」と前置きをして気を遣ったり、入れなかった人が憤りを感じる一方だったりするようないびつな構造は、早くどうにかしなければいけない。

狩野さやか狩野さやか
Studio947でデザイナーとしてウェブやアプリの制作に携わる。自身の子育てがきっかけで、子育てやそれに伴う親の問題について興味を持ち、現在「patomato」を主宰しワークショップを行うほか、「ict-toolbox」ではICT教育系の情報発信も。2006年生まれの息子と夫の3人で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者資格有り。