Sergiy Tryapitsyn / PIXTA(ピクスタ)

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上司:前に話した資料だが、明日の午前中までに、完成させてくれ
部下:とても無理です
上司:なに!四の五の言わずにやれ!
部下:しかし、今晩は外せないプライベートの予定が……
上司:予定があろうがなかろうが、やれと言ったらやれ!
俺がお前くらいの時は、徹夜三連荘なんて当たり前だ!甘ったれるな!
部下:体調が悪くなりましたので、帰ります。

――これは、課題解決力向上のための分解スキル・反復演習の中で、参加者が挙げた実例だ。この例に限らず、「上司が部下をマネジメントできないので、なんとかならないか」という相談を受けることが実に多い。「どのようにして言うことを聞かせたらよいかわからない」、「反発を受けずに従わせることはできないか」という悩みが絶えないのだ。

 実は、こうした課題は、上司と部下だけではない。先輩が後輩にコミュニケーションしづらい、セールスが顧客をハンドルできない、本社が現場をコントロールできない、彼が彼女を/彼女が彼を引き付けることができないなど、相手を巻き込もうとした時に必ずと言っていいほど提起される。そして、演習参加者の反応をふまえると、ここ10年、年を経る毎に、この課題の深刻度合は増大しているように思えてならない。

 一方で、ごく少数ではあるが、「この人に指示されると、俄然やる気が出る」、「この人と話をすると、その気にさせられる」と言われる人が、どの職場にも一人くらいいるものだ。部下と話をするたびに、険悪な雰囲気になる上司と、部下の気持ちを引き付ける上司、いったい何が違うのだろうか。演習を積み重ねる中で、その違いは、たった一つのことを把握できるスキルがあるかどうか、そしてそのことを表現できるスキルがあるかどうかにかかっていることがわかってきた。

◆モチベーションエリアを見極めると格段に改善する

 部下の気持ちを引き付ける上司が持っているスキルとは、相手のモチベーションエリアを見極めるスキルであり、モチベーションエリアに応じた表現スキルである。人にはそれぞれ、その人自身のモチベーションが上がりやすい領域や、上りにくい領域がある。それを、私は、モチベーションエリアと名付けている。

 例えば、前出の上司は、徹夜三連荘だろうがなんだろうが、なにがなんでもやり遂げたいと思い、「目標達成」することにモチベーションエリアがある。一方、外せないプライベートの予定が気になってしまう部下は、公私のバランスをキープすることが意欲の源泉であり、「公私調和」にモチベーションエリアがあると言える。

 その他、任されると俄然やる気が出る「自律裁量」、責任ある仕事を担えば担うほど気持ちが高まる「地位権限」、周囲と協調することが大事な「他者協力」、安定していることがパフォーマンスを生む「安定保障」の6つに、私はモチベーションエリアを区分している。「目標達成」、「自律裁量」、「地位権限」の3つを牽引志向と名付け、「他者協力」、「安定保障」、「公私調和」を調和志向と名付けている。「牽引志向」は狩猟型、「調和志向」は農耕型とも言えるだろう。

 どのモチベーションエリアを持っているか、どのモチベーションエリアに左右されやすいかということは、良い悪いという問題ではない。人それぞれの性格や経験により作り上げられたもので、一朝一夕に変わるものではない。上司に言われて、変わるようなものではないのだ。だとすれば、顧客だろうが、彼/彼女だろうが、そして部下だろうが、モチベーションエリアを見極めて、それに応じた表現をしていければ良いことになる。

◆相手のモチベーションエリアに合わせた表現力を身に付ける