『こいいじ』1〜4巻(志村貴子/講談社)

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 子供の頃「大人になったら何でもできる!」と信じていたことはないだろうか?
 大人になればきっと、人間関係で悩むことはなくなるし、適齢期になれば結婚もできるはず。中身も伴って、落ち着いた人間になれるはず……! なんて思っていたことはないだろうか?

 実際はいくら歳を重ねても、これらの問題から解放されるのは難しい。大人になると、愛想笑いが上手くなるだけで、人の心の機微に気づきやすくなる分、人間関係で頭を悩ませることは増える。恋愛だって、相手の立場や環境を考えると、上手く行かずに終わることも多く、切なくなる一方だ。良くも悪くも、子供の頃思い描いた「理想の大人」になることは難しい。理想を手に入れるためには、大人だって無我夢中に、時には涙や鼻水を垂らしながら、泥臭くぶつかっていくしかない時もある。

 志村貴子作のマンガ『こいいじ』(講談社)は、大人の不器用な片思いが描かれている作品だ。主人公は、下町の銭湯「すずめ湯」の娘・まめ、31歳。優しくてほんわかした雰囲気を持つ彼女だが、なんと子供の頃から20年、5歳年上の幼馴染・聡太に片思いをしている。聡太は、1年前に最愛の妻・春さんを病気で亡くし、小学生の娘・優を、喫茶店を経営しながら、大切に育てている。彼は今も亡くなった奥さん一筋で、まめの入る隙はなさそうなのだが、恋心は理屈では割り切れないようだ。

 まめは、これまでに何度も聡太に告白してフラれている。しかも、周囲の友人はどんどん結婚していき、焦る気持ちもないわけではない。聡太にフラれたショックで、大学生の時に同い年の幼馴染と付き合ったこともある。だが、いつも結局、聡太のことが忘れられないままなのだ……。

 そんな時、まめの姉・ゆめが、研究で訪れていたブラジルから久しぶりに帰ってくる。ゆめは、聡太の初恋の人で、小悪魔系の美人。ゆめが帰国して、明らかに動揺する聡太を尻目に、自分は妹のようにしか思われていないことを再確認したまめは、心機一転、離れた町で一人暮らしを始めることを決意する……!

 本作では、下町を舞台に、様々な人の「恋意地」が描かれる。腹に一物抱えていそうなゆめ姉ちゃんの秘密の恋愛や、まめが一人暮らしを始めた先で、ちょっと気になる男性として登場する、バツイチ子持ちの不動産屋店長・河田さんの恋心。また、聡太の弟で、まめの同級生である、金髪のイケメン・駿(シュン)の恋も描かれる。

 どの恋愛もスムーズには行かず、頭を抱えてしまうようなものばかりなのだが、彼らは皆、もがきながらも、ゆっくりと着実に前へと足を踏み出していくのが印象的だ。

 恋をすることでどうしても湧き上がってしまう、醜い感情と、厳しい現実に向き合い始めたまめたちの恋は、もう一波乱起きそうな予感。大人になっても誰かを好きになることは、こんなにももどかしくて切ないのか……と、読んでいてポロポロと涙が出てくる。ここまで来ると、20年に及ぶ片思いは実ってほしいような気もする。どこまでも柔らかく美しいタッチの絵に、胸がじんわりしめつけられるはず。ぜひ読んでみてほしい。

文=さゆ