私が働いていた中国の大学の日本語学科には、管理職として外国語学院(学部に相当)の副院長と、日本語学科の主任がいた。資料写真。

写真拡大

私が働いていた中国の大学の日本語学科には、管理職として外国語学院(学部に相当)の副院長と、日本語学科の主任がいた。副院長は男性で、主任は女性だった。着任して日が浅い日本人教師は、日本語学科で一番偉いのは副院長と考え、仕事上の要望や不満を彼を通じて解決しようとする。

しかし実際に、日本語学科を掌握しているのは主任の方で、例えば彼女が日本人教師を解雇すると決めたら、副院長のとりなしもほとんど効果がない。

日本と中国は、肩書や役職に関して「部長」「副○○」など共通する言葉が多い。「副○○」が必ずしもナンバー2でなく、時には出世レースに敗れた人の名誉職的ポジションであることは日中ともに同じだが、同じ肩書なのに組織内のポジションが違う例もあり、その典型が「主任」だ。

中国の「主任」は重く、行政機関だと部長より上であることも珍しくない。ところが日本の主任は、管理職になる前の平社員のリーダー的なイメージが強い。日本人と中国人のビジネスの場で、中国人側の部長ばかり持ち上げていたら、実際の決裁権限者は主任だったという話は、中国ビジネスの初歩的知識として語られることが多い。

大学勤務4年目のある日、私は日本語学科の主任に呼ばれて、「これまでの貢献への感謝を込めて、あなたのために主任外国人教師という役職を作りたい」と打診された。ありがたいのはありがたいが、名刺交換の機会はむしろ日本の方が多い私は、前述の事情を説明し、「日本の主任はそんなに重いポジションでないので、むしろ客員教授とか、そんな方がありがたいんですけど」と答えた。主任は「ええ?中国では主任と言えば、誰だって権限の大きさが分かりますよ」と当惑していた。

中国の経済ニュースでも時々主任がコメントしているが、あの人たちのコメントはほとんど組織としての見解と言っていい。

もう一つ、日本との重さが違う肩書は「秘書」だ。中国語の経済ニュースを翻訳していると、企業の業績や新しい法律について、「秘書長」が名前付きで解説していることがあり、私も「○○秘書長はこう解説した」と翻訳する。コンクールの審査員にも、その組織の代表として秘書が出てくることがある。

日本では一般的に秘書と言えば、幹部のスケジュールを管理する若くてきれいな女性というイメージで、資格試験の秘書検定も、ビジネスマナーを測る試験である。これに対し中国の「秘書」は、日本の大手企業の社長室長や広報部長に近く、時には経営者の“右腕”的存在でもある。

日本も中国も、商談相手に誰が出てくるかで先方が自分たちをどう見ているかを判断する文化がある。このように表記は同じなのに、組織での位置づけが違う肩書も少なくないので、漢字の罠に陥らないよう注意したい。

■筆者プロフィール:浦上早苗
大卒後、地方新聞社に12年半勤務。国費留学生として中国・大連に留学し、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のメディア・ニュース翻訳に従事。日本人役としての映画出演やマナー講師の経験も持つ。