台風10号(ライオンロック)による大雨で甚大な被害が発生した北朝鮮の北部国境地域。北朝鮮当局は、これら地域への通行証(旅行許可書)の発行を中止した。その理由は道路や鉄道の寸断によるものではない。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が詳細を報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、9月初めから中央の指示で国境地域への通行証を発行を中止した。従来はワイロさえ払えば発行してもらえたが、今ではそれもできなくなっている。

脱北を恐れ

通行証と鉄道の切符があっても、保衛部(秘密警察)の10号哨所での検問で、ことごとく追い返されてしまう。商人はもちろんのこと、出張に向かう役人ですら通行は認められていない。

その理由について情報筋は、大雨で国境監視塔などの国境警備設備が流され、脱北がしやすくなっていることを挙げた。

咸鏡北道会寧(フェリョン)市と川を挟んで向かい合う、中国吉林省の龍井市の住民によると、大雨による増水で、会寧税関の前から南陽までの区間で、多くの監視塔、潜伏哨所(身を隠して警備にあたる場所)、鉄条網が流されてしまった。当局は、警備が緩くなった隙を突いて、多くの人が脱北することを恐れているのだという。

また、国境地域への出入りを統制しないと、現地を訪れた商人を通じて、被害の状況が口コミで全国に広がる可能性がある。生活必需品の多くを中国からの輸入に頼っているため、国境地域で甚大な被害が発生したことが伝わると、不安心理を煽り、物価の高騰をまねきかねないからだ。

一方、両江道(リャンガンド)の情報筋は「ワイロさえ払えば、なんでもできるのがわが国」だと、国境地域への旅行完全禁止説に反論している。

ワイロの相場が2倍になっただけで、10号哨所にワイロをきちんと払えば、いくらでも通してもらえるというのだ。

朝鮮半島では秋夕(チュソク、旧盆)を迎えるが、帰省で移動が増加するため、いつまでも旅行禁止にしておくのは難しいだろうと情報筋は見ている。当局者は、今のうちにワイロをせしめておこうとの魂胆だろう。

川向うの中国の被災地では、人民解放軍の兵士のみならず、都会の住民が多数やってきて、家の片付けや泥やゴミの撤去などのボランティアを行っているが、北朝鮮ではそれもできなさそうだ。