恋も仕事も…ドロ沼から抜け出すには

写真拡大


執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)


自分でもダメだとわかってるけど変えられない、やめられない、抜けられない・・・。

恋でも仕事でも、そんな“つらい”経験のない人は、もしかしたらいないのかもしれません。どうしてハマってしまうのか、どうしたら抜け出せるのか、そんな知恵を心理学から取り入れてみませんか?

精神疾患の人は何かに「とらわれている」「ハマっている」

うつ病や不安障害など、昨今よく知られるようになった精神疾患。
そのメカニズムについては、たとえば、うつ病のときには神経伝達物質のセロトニンが不足しているとか、不安障害の人は大脳辺縁系にある偏桃体が過敏になっているとか、脳科学が発達して、さまざまなことが解明されてきました。

その結果、「ココロとは脳だ」という説が今、注目されています。

それでも病者の体験に注目すると、うつ病の人は概してまじめで、「最近の自分はたるんでいる」とか「みんなに迷惑をかけて申し訳ない」などと、周囲の人がそんなに気にしていなくても、自分だけのドロ沼にハマって苦しんでいることはよくあるのです。

そして病気でなく、仕事や恋においても、危機状態に陥ったときには、同じように「とらわれ」たり、「ハマって」苦しむことがあるのではないでしょうか。

治療法としての「認知行動療法」

精神疾患の治療には、薬物療法や古典的な心理療法などもありますが、認知行動療法(CBT:Cognitive behavioral therapy)は、医学的根拠のある信頼性の高い心理療法として認められ、日本でも2010年から保険適応の治療法として承認されています。

簡単に言えば、認知行動療法とは「認知(考え方、とらえかた)と行動(ふるまい)を変えることで、つらい感情を軽減する心理療法」とも言われています。

「ドロ沼にはまった」危機状態への認知行動療法の応用

本来、認知行動療法は心理療法という病者の治療法として開発されてきましたが、それに限らず、仕事や恋などでドロ沼にはまってしまった「危機状態」を打開するためのトレーニング法として応用することが可能でしょう。

実際に、メンタルヘルスの予防に活用されたり、考え方や行動を変えるためのセルフトレーニングにも用いられています。

治療としてこれを用いる場合には、専門家の指導の下に行う必要がありますが、危機状況に置かれたときの考え方や行動変容のヒントに、認知行動療法の考え方を取り入れると、有効な気づきが得られるかもしれません。

できごと→ 認知 → 感情 → 行動 : 人間心理のしくみ

たとえば、友人に電話をしたら何度かけても出てくれない(できごと)。

それを「友人が私をきらっているからだ」と判断(認知)し、落ち込んで(感情)しまい、以来、その友人への連絡はしなくなってしまった(行動)。

というように、「できごと」を受け止め、それに対する気持ちが入り、自身のアクションに影響を及ぼすことは、日常生活ではよくあることではないでしょうか。

このことは言い換えれば、何かの出来事に遭遇した時に、その人なりのパターンで認知し、それがその人のフィルターを通って感情をひき起こし、その後の行動に影響を与えるというリンケージ(連鎖)は、通常の「人間心理のしくみ」とも言えるでしょう。

認知の構造:自動思考とスキーマ

しかしよくよく考えてみると、この時何度電話をしても友人が出なかったのは、スマホをどこかに置き忘れて出かけていたからかもしれません。また、仮に最近ケンカをしていたとしても、「そのうちまた仲良くなるだろう」と楽観的に考えて、落ち込まない人だっています。

ですから、上の事例の「認知」は、その人の悲観的でものごとを悪く考えようとする傾向から、いわば反射的に出てきたものと理解できます。

認知行動療法では、このような傾向を「スキーマ」、そしてスキーマから反射的に出てくる認知を「自動思考」と呼んでいます。

このスキーマと自動思考を、ハマってしまうパターンから、その状況に適応的に取り組めるように修正していくのが、認知行動療法のねらいということになります。

あなたの認知を変えてドロ沼からの脱出を!

つまりは「起こっている状況をどのように受け止めるか」によって、気もちやその後の行動が悲観的にも楽観的にもなりうるということ。

その状況を「ドロ沼」にしてしまっているのは、「あなた自身の認知・感情・行動に他ならない」というのが、認知行動療法の立場です。

もちろん一足飛びに、現状認識を楽観的に変えることはできませんが、自分の認知の癖を見直し、改善することで、ドロ沼化を予防したり、たとえドロ沼状態に陥ってもたくましく乗り越えていくことが可能になることでしょう。

自動思考やスキーマは、通常は自分では気がつかないまま、無意識的に行ってしまっています。それだけに、自分独りでこれを改善していくよりも、誰かにコーチ役を引き受けてもらい一緒にトレーニングしていくことが効果的です。


<参考>
福井至、貝谷久宣監修『やさしくわかる認知行動療法』ナツメ社、2016.


<執筆者プロフィール>
山本恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長