(右)コミックスマート取締役 上河原圭二氏、(左)GANMA!編集部副編集長 瀧口さとみ氏

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 Webコミックアプリ発のコンテンツが好調だ。単行本化に加え、アニメ化、グッズ化、メッセージアプリのスタンプ化など様々な展開が広がっている。

「マンガ家を、子供達の憧れの職業にしたい。」をミッションとしているコミックスマートが配信するWebコミックアプリ「GANMA!」では、掲載されている80以上のタイトルのうちなんと25タイトルが単行本化され3巻、4巻と巻を重ねている作品も多い。

 そんなコミックスマートで、事業立ち上げ時から設けられていたマンガ家支援プログラム「Route M」がリニューアルしたという。「Route M」のこれまでの成果と、リニューアルの狙いを取締役・上河原圭二氏と、立ち上げ時からのメンバーで『武蔵くんと村山さんは付き合ってみた。 』『ユメクイ 』などの編集を担当していた「GANMA!」編集部副編集長・瀧口さとみ氏にうかがった。

マンガ家になるまでの“ヒト・モノ・カネ”と、その後の成長を支援する「Route M」

――まず「Route M」とは何かについて説明をお願いします。

上河原圭二氏(以下、上河原):「Route M」は、マンガ家として成長するために必要な“ヒト・モノ・カネ”を支援するプログラムです。

 例えば作品作りの指導やアドバイスをする編集者、様々なレイヤーのマンガ家同士の交流などが“ヒト”に挙げられます。また、マンガ制作のための環境整備などが“モノ”、そして、マンガ制作に専念するために提供される制作支援金が“カネ”に当たります。

 この“M”は“マンガ家”のイニシャルで、「マンガ家への道」がその由来となっています。始まったのはコミックスマートが創業した2013年で、作品を掲載するプラットフォーム(「GANMA!」)もなかった頃でした。

――そもそも、なぜこのプログラムを始めよう、という話になったのでしょうか。

上河原:インターネット業界では、起業家に対してベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が資金援助をするというのは割と一般的になっていますが、「同じような仕組みをマンガ家向けに作れないか」という発想が始まりでした。

 マンガ家さんには、アルバイトや作家のアシスタントをしていて、限られた時間の中で創作活動をしている方が多くいらっしゃいます。しかし、それではなかなか成長速度が上がらない。早い段階で作品を発表し、人の目に触れるようにすることで感想や評価を得て、ブラッシュアップのサイクルを加速させていく。そうした成長を促進する支援プログラムを作ろうということになったんです。

瀧口さとみ氏(以下、瀧口):セプテーニグループが人材育成に力を入れているというのも大きいですね。

上河原:セプテーニグループでは、付加価値の高いサービスを提供し続けていくために、社員の能力開発やモチベーションアップに力を入れています。

 同様に、個々のマンガ家さんに対しても成長を支援することで作品制作スピードや創作意欲を向上させることで、マンガ事業全体の加速につながると思っています。

モチベーションアップにつなげるためのリニューアル

――母体となっている会社の考え方が色濃く反映されたブログラムだったんですね。ところで、この「Route M」は2013年に創設されてから2014年に1度、そしてこの7月にまたしてもリニューアルしていますが、何がどう変わったのでしょうか。

上河原: 2014年のリニューアルでは、成長過程に応じて未来を見せていきたい、ということもありM1〜M5までのステージ制を設け、報酬額を含め段階に応じた支援を行ってきました。

 今回のリニューアルでは、“カネ”と “モノ”の部分をバージョンアップしています。

 1つは広告収益の一部を専属作家に還元すること、もう1つは液晶タブレットの無償貸し出しというものです。

 今まではステージに応じて一律の支援金をお支払いしていたのですが、それだけでなくGANMA! が得ている広告収益の一部をマンガ家さんの貢献度に応じて還元いたします。これにより更に成長を促していきたいと考えています。

 また、以前は弊社のオフィス内にマンガ家さんたちが画材を自由に使える制作スタジオを設けていたのですが、首都圏在住の作家さんは6割程度で、それ以外は地方に住まれている。その人たちの創作環境も整えたいという思いから、スタジオを廃止し、液晶タブレットを無償で貸し出すことにしました。

――もし壊してしまったら、どうなるんですか?


瀧口:すぐに代替機を提供します。マンガ家さんの創作活動に支障がでないようサポートいたします。

――みなさん、使いこなせるものなのでしょうか。

瀧口:もちろん、貸し出しして終わりというわけではなく、液晶タブレットの使い方、セルシスのクリップスタジオ (※) の使い方などを含めたデジタルコミック制作の勉強会も開催しています。 (※)イラスト・マンガ制作ソフト

 勉強会では、「暖かいので“猫が液タブの上に乗っちゃって壊れる”ということがよくあるから注意しましょう」というような話もされますよ。猫に注意です(笑)。

――いろんな意味で制作の手が止まってしまいますものね(笑)。

Webコミックは稼げる時代へ

――今回が2度目のリニューアルですが、その狙いはどこにあるのでしょうか。

瀧口:インターネット関連のアプリケーションサービスであれば、広告での収益と還元は一般的なことと考えるものですが、マンガ家さんたちにしてみれば、「GANMA!は無料で提供されているのに、どうやってマネタイズしているのか」と気になっている方も少なくありません。そんな心配をよそに、広告を中心に収益化するビジネスモデルとしても順調に成長し続けています。

 一方で、マンガ家さんにとって、それが実感できる体制になっているか? と考えたときに、今までの仕組みでは十分ではありませんでした。

 今回のリニューアルによって、「Webコミックって儲からないんでしょ?」と思われているマンガ家さんにも「儲かる仕組みが構築されています!」と胸を張って言うことができるものになりました。

 これにより、これからプロになりたい人だけでなく、すでに作品を発表しているプロの作家さんでも「挑戦してみようかな」と思っていただける方が出てくるのではと期待しています。

 実際、数名のマンガ家さんは月収が100万円を超えており、また、「以前は生活が大変だったのに、今では実家に仕送りできるほどに余裕が出てきた」と話す方もいらっしゃいます。

――100万超えですか!

瀧口:まだ「Route M」に所属している50人の専属作家の中でもトップクラスの人に限られますけどね。それでも、GANMA!で連載する前はアルバイトをしながら描いていたのが、今はマンガ制作に集中できるようになり、クオリティも上がったという変化が見られるのはうれしいですね。

 やはり、「企画を出しても通らない」ということを繰り返していては、いつまでたっても作品が仕上がらず成長を実感できませんが、GANMA!では毎週または隔週ごとに本番がくるので、数をこなしていく必要があるため上達が早いんです。

上河原:成長という面でいえば、ステージM3以上のマンガ家さんにはアシスタントをつけていますが、これまで自分一人で制作していた方でも、人をディレクションするという経験をすることによって、正確に意図を伝えるための指示出しの仕方などを学んでいるということもありますね。

 これは、より良い作品を量産できるようになるためにも必要な成長過程だと思っています。

――マンガ家への道を支援するプログラムということですが、今後はどのようなマンガ家さんに募集を呼びかけていくのでしょうか。

瀧口: 先ほど触れたように、Webコミックは実力に応じて稼げる時代になってきています。「Route M」にあるステップは、必ずしもM1から踏まなければいけないということではなく、それまでの実績も考慮してM3からはじめていただくということもありますので、他媒体で経験を積まれてきた方にもぜひチャレンジしていただきたいと考えています。

――今以上の収入が得られるかもしれない、ということですね。今後「GANMA!」が果たす役割について最後にお聞かせいただけますか。

上河原:掲載作品を単行本化して、ネットユーザーだけでなく多くの人たちに手に取って読んでもらえるように、という目標は今までと変わっていません。

 加えて、ネット時代・スマホ時代のマンガ家の新しいマネタイズ手段を構築し、多くのマンガ家がこのプラットフォームを通じて成長できるエコシステムを作りたいと思っています。その中から、日本を、世界を席巻するヒット作を誕生させたいですね。また、有名マンガ家になる夢を諦めかけてしまっている人でも再チャレンジでき、「マンガ家であり続けて良かった!」と思ってもらえる場所にしたいと思っています。

取材・文=渡辺まりか