中国のビジネススクールに留学していた頃、日系家電メーカーに勤める同級生に頼まれて、会社の人事組織図の翻訳を手伝った。資料写真。

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中国のビジネススクールに留学していた頃、日系家電メーカーに勤める同級生に頼まれて、会社の人事組織図の翻訳を手伝った。

彼女の最初の質問は、「部付部長って何?」だった。
「部付部長って部長なの?」
「部長だね」
「営業部長と営業部付部長は何が違うの?」
「……」

言われてみれば、「部長付」「部付部長」だけでなく、日本には日本人から見ても序列が分からない役職が多くある。ある会社の広報室には、「室長代理」と「室長補佐」、「副室長」がおり、名刺交換だけでは誰がそこのナンバー2なのかさっぱり分からなかった。

管理職ポストが管理職適齢期の人数に追いつかず、苦肉の策として、部下のいない部長が登場し、「副」や「代理」が量産される。最近は「参事」という役職もよく見るが、これも外部からは「何となく管理職の上の方」くらいしか分からない。

中国と米国の経済ニュースを翻訳する際、肩書はなるだけカタカナでない日本語に訳す努力をしているのだが、これが意外に難しい。役職は、その国の社会や文化の反映でもある。企業の歴史が浅い中国の場合、ニュースに出てくる肩書は日米ほど複雑ではないが、「辞書」と「実情」が違っているものもある。

経済ニュースで最もよく出てくる肩書は「董事長」だ。これを日本の辞書で引くと、だいたいは「会長」と表示される。そして「総経理」が「社長」であると、辞書には書いてある。中国に拠点を置く日中合弁企業では、董事長が中国側、総経理が日本側から選ばれていることが多い(その反対もある)。

では、日本人は企業の「会長」と聞いて、どんな人を思い浮かべるだろうか。大企業の場合、「社長を引退した人が就くポジション」というイメージではないだろうか。時に、社長をしのぐ権力を持っている会長もいるが、基本的には社業を統括するのは社長だ。

一方、中国語の董事長は、現役バリバリだ。設立後年数が浅い民営企業の場合は、董事長は創業者であり、オーナーであり、社業の最高責任者であることがほとんどである。董事長と総経理がいる中国企業の場合、董事長と総経理の権限の差は歴然としており、総経理は董事長の手足でしかないことすらある。

アリババ、テンセント(騰訊)、ハイアール、それにシャープを買収した鴻海。世界で知られる中国企業の中で、「総経理」がトップを務める会社は一社もない。アリババのジャック・マーは董事会主席(つまり董事長)であり、鴻海の郭台銘も中国版ウィキペディアには「董事長」と紹介されている。日本メディアで彼らは「会長」との肩書で紹介されるが、それらの会社に、他に社長がいるわけではない。

中国語で「董事」は「取締役」、「董事会」は「取締役会」を指す。だから董事長を実態通りに訳せば、「代表取締役」だろうか。彼らは海外向けでは「CEO」という肩書を使っていることが多い。総経理は「ゼネラルマネジャー」だし、無理やり漢字にすれば社長ではなく、「現場長」といったところだろうか。

■筆者プロフィール:浦上早苗
大卒後、地方新聞社に12年半勤務。国費留学生として中国・大連に留学し、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のメディア・ニュース翻訳に従事。日本人役としての映画出演やマナー講師の経験も持つ。