氷の中に浮かぶように咲いている“フローラルアイス”の絶妙な立体感と繊細な色合いが美しい

写真拡大

氷の中に浮かぶように咲いている“フローラルアイス”。電動ドリルと氷で制作されたとは思えないほど絶妙な立体感と繊細な色合いが美しいと話題を呼んでいる。

絶妙な立体感と濃淡つけたぼかし技法

この作品を制作しているのは、静岡県浜松市の“氷工房にはし”の氷彫刻家・二橋 一幸さん。

まるで氷の中で咲いているような幻想的な姿と、濃淡をつけたぼかしのやわらかな色合いが瑞々しく美しい。

氷工房にはし

氷工房にはし

今回は二橋さんに、フローラルアイスを制作し始めたキッカケや制作する際に気を使っていること、そして濃淡をつけたぼかしの技法を考案した理由などに関して伺った。

香りまで感じてもらえるような氷

――フローラルアイスを作り始めたキッカケは?

13年から14年位前、東京・帝国ホテルの平田 謙三氏が初めに作りました。

毎回、テレビ撮影やスタジオ、新聞でもこのお話しをしていました。しかし、いつもカットされてしまうために私が始めたように思われています。

私の名前だけが紹介されてしまうので、先輩であり尊敬する平田氏にはいつも申し訳なく思っています。

氷工房にはし

氷工房にはし

このことは、氷彫刻をされている方々は皆さんご存知のことです。また、もともとはアメリカで始まったとも聞いていますね。

『TVチャンピオン』(テレビ東京系列で放送されていた競技型バラエティ番組)の中で放送された当時、氷彫刻をやっている方々の間で一気に流行しました。

私の氷彫刻の師匠・清水 三男氏に伺ったところ、専用のドリルビットがあれば簡単にできると聞き、すぐに送ってもらって始めました。同時期に多くの方が制作し始めたと思います。

氷工房にはし

氷工房にはし

他の氷彫刻をやっている方々とのいちばんの違いは、実物を見る機会が無かったこと。

そして、自分で作ってみて“もっとリアルに見えるよう”に、また“氷の中に入っているよう”にできないものかと思い、自己流で作り続けてきたことだけです。

以前から、婚礼のキャンドルサービスに使う“アイスキャンドル”を制作していましたので、その彫刻と一緒に展示できるように試作を続けました。

氷工房にはし

氷工房にはし

それから、“フローラルアイス”という名前は私の造語で“香りまで感じてもらえるような氷”という意味で名付けました。

メディアで紹介していただくたびに「(この作品の)名前は?」と質問されることが多くて考えたものです。

初年度は年間6千個ほど試作

――フローラルアイスは色付けが非常に難しいそうですが?

着色の原料になっている元の氷は、5日間かけて作る“舞阪純氷”という良質の氷です。

この氷はお客様に触れてもらうものなで、当初から安全なように食用色素と食品に限り配合して作っています。

氷工房にはし

氷工房にはし

もともとは調理師だったため食用色素は使うことがあったので、他の原料は考えませんでした。

“ドリルで花の形を彫り色を入れる”という作業は同じですが、リアルに見えるにはどうしたらよいかで悩み続けて、初年度は年間6千個ほど試作しました。

氷工房にはし

氷工房にはし

3年ぐらいでやっと今の花の形になりましたが、きれいな色が思うように入らず、さらに2年ぐらいかけてやっと色付けの仕方がわかってきました。

制作をし始めた頃の画像もありますが、他の方々と同じようなものだと思います。

その後は、今の淡い色付けとぼかしに合う食用色素と食品を探すのに、やはり3年ほどかかりました。

氷工房にはし

氷工房にはし

動画でもごく短時間に色付けするので、難しさはまったくわからないと思います。

フローラルアイスの作り方を学ぶ生徒たちは、20日間ぐらい(約150個以上)練習すると上手に作成できるようになり、(フローラルアイスの)完成品の制作方法がわかるようになります。

しかし、自分自身の思ったように色が入らず、そして色止め(色落ちを防ぐこと)ができないのがわかってきて、皆さん諦めてしまいますね。

氷工房にはし

氷工房にはし

それでも、趣味としてパフォーマンスするのであれば充分にきれいに制作できますし、その後も年に数回、生徒たちは練習に来て自己流にならないように続けています。

私も今でも神経を使って作っています。

形がわかるように頭と身体で記憶

――氷の中に花を彫刻をする際に気をつけていることは?

気をつけていることは、中心がずれやすいので何度も繰り返し試作します。

また裏側から彫刻するので、作りたい形を試作するときは途中で何度も表面を確認しながら作り、パフォーマンスのときには表面を見なくても形がわかるように頭と身体で覚えます。

(25cmぐらいの)大きなものでも1分30秒から2分以内で彫らないと、きれいな色が入らないので迷わず一気に作ります。

できるだけドリルの穴を小さく作成

――まるで花が氷の中に浮かんでいるように美しく立体的な姿を表現するため、難しい部分や工夫していることは?

「どうやって色を入れて凍らせてありますか?」と様々な方々によく聞かれます。

いちばん気をつけていることは、ドリルを差し込んだ穴を1つだけにして“できるだけ(ドリルの穴を)小さくして作る”ことですね。

そうすると、花が氷の中に入っているように見えます。

氷工房にはし

氷工房にはし

穴を小さくすると氷の中に削った雪(かき氷)が詰まりやすく、きれいな色が入りやすくなります。

長時間持つようにするために考案

――濃淡をつけたぼかしの技法を考案されたとのこと。そのアイデアはどのようにして浮かんできたのですか?

職業として氷彫刻をしているので、作品として販売するためにきれいに作ることだけでなく、長時間持つようにするために濃淡をつけたぼかしの技法を考えました。

当初は他の方々と同じように彫って着色しただけなので、冷凍すると数日で色が抜けてしまい白っぽくなりました。

氷工房にはし

氷工房にはし

着色料が凍るときに、空気が入ったままで水が動かないので自然と白く凍ってしまいます。

さらに冷凍してから取り出し、常温の状態で飾り氷が溶けはじめるとすぐに色が溶け出してきました。

また、着色料を多く入れるとべったりとして平面に見え毒々しい色になり、立体的に見えなくなってしまいます。

氷工房にはし

氷工房にはし

3年ほどかかっていろいろ試したので、どうやって浮かんだのか忘れてしまいましたが、かき氷を足して指の感覚で強く詰めていくと、色が止まりその先をぼかせることがわかりました。

ただ同じところを何度も強く圧縮すると、かき氷が水になり色が入らなくなるので、同じ場所は4回以上は叩きません。

和洋菓子制作のプロの方々や着色料の専門誌の方々ともお話しさせてもらって、参考に“寒天・ゼリー・ジュース類”なども試して色を捜しました。

しかし、ピンク色や淡い色を付けても変色しないものを探すのに2年もかかってしまいました。

氷工房にはし

氷工房にはし

また白い着色料が無いので、安定していて安価なもので冷凍しても変色せず、溶けてもきれいなものというと限られてしまいますし、それを見つけるのに苦労しました。

実在しないオブジェとして

――花々のモチーフはどのように選択されていますか?

実際の花の形はドリルでは物理的に彫れませんので、氷の中に彫ってきれいに見える形やお客様がご覧になって花に見える形(イメージ)を作成しています。

そのような理由もあり、“実在しないオブジェ”としても“フローラルアイス”と名付けました。

氷工房にはし

氷工房にはし

制作経験者の方はわかりますが、サクラやツバキなどの花びらの枚数の少ないものの色付けは非常に難しくなります。

色を入れるだけでなく、長持ちさせるために何年も挑戦していますが、未だにサクラは“思ったように色付けする方法”が完成していません。

できるだけ長持ちさせるように彫る

――氷彫刻作品とフローラルアイスの制作では、製作日程や工程などどのような部分に違いがありますか?

まったく違うように思われますが基本的には同じです。

彫刻時間に差はありますが、完成してから冷凍し、常温に出してからできるだけ長持ちさせるように彫ること。

氷工房にはし

氷工房にはし

どちらも氷が溶ける前でなく、劣化する前に素早く彫刻することです。

氷彫刻も彫刻する前に氷を積み上げたり、張り付けて形を作ってから彫っていきます。

氷工房にはし

氷工房にはし

完成後もいろいろな加工がありますが、文字を入れたり彫り込んだりすると時間も日数もかかってしまいますね。

秋口から冬の間が練習に最適

――フローラルアイス講習会を開催されていますが、参加者はどのような方々ですか?初心者でも参加できますか?

地元の調理師学校では年に1回は講習会を開催しており、工房では通年いつでも受付しています。

一般的に氷彫刻は夏のものというイメージがありますが、氷が溶けてしまうため体験にはよいですが練習には適しません。

できれば秋口から冬の間が練習に適しています。私も夏の間のフローラルアイス制作は大変気を使い、気温が落ち着く夜間に制作しています。

氷工房にはし

氷工房にはし

参加者は、初心者や一般の方どなたでもけっこうです。

また、講習会(もしくは体験講習会)は2時間30分から3時間で、講習料はドリルを持っている方は7千円、持っていない方は1万円となっています。

使用するドリルビットは1本の価格が3万円以上もします。その上、研ぐことができないので1度チップしてしまうと使えなくなるため、気をつけながら体験をしてもらっています。

たゆまぬ努力と探究心の賜物

すべて氷で制作されているにもかかわらず、長時間の展示ができるように制作しているフローラルアイス。

二橋さんのたゆまぬ努力と探究心の賜物が、その美しく繊細な色合いを生み出している。

気になるフローラルアイス講習会の開催スケジュールだが、ブログから確認できるという。

氷工房にはし

氷工房にはし

また、フローラルアイスの講習会以外にもイベントでの実演パフォーマンスや氷彫刻作品の通信販売もしているとのこと。

ひと味違ったプレゼントを探している方やフローラルアイスが気になる方は、ぜひホームページをチェックしてみてはいかがだろうか。

二橋さんがフローラルアイスを制作している動画はこちらから▼