吐き出されるのは水蒸気だが……(shutterstock.com)

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 電子タバコの場合は煙ではなく蒸気(vapor)なのだから、それを嗜む方々も「愛煙家」ではなく「愛蒸家」とでも呼ぶべきなのだろうか――。

 彼らにその味覚や満足度を問うと、決まって「(副流)煙や灰が出ず、臭いも少ないから」云々と、なぜかメーカー受け売りの前説(利点)から饒舌に語り出す。次いで有害性や安全性を問えば、途端に黙り込んでしまうのも「愛蒸家あるある」の共通点だ。

 ところが医者に同じ問いを投げかけた場合も、患者への明確な答えはいまだ統一されていないという。そんな電子タバコの「グレーゾーン」ぶりを象徴するような研究報告が、8月26日の『American Journal Medicine』(オンライン版)に掲載された。

 論文を執筆したのは、米スタンフォード大学予防研究センター(カリフォルニア)内科准教授のJudith Prochaska氏らの研究グループだ。研究に際しては、電子タバコに関する医師と患者の500件以上のやりとり(オンラインディスカッション)が対象に選ばれ、その質問と回答傾向が分析された。

禁煙の補助手段だとしても......

 患者の質問内容で最も多かったのは、やはり電子タバコの「副作用および危険性」についてのもので、全体の約34%を占めた。次いで「全般的な安全性」を問うものが27%、電子タバコを「禁煙ツールとして使うのはどうか?」という関心事項も19%にのぼった。

 一方、医者が取り上げた患者との話題でも、その「副作用や安全性」に関する内容が多く、専門家の立場から「ニコチン依存症への懸念(可能性)」を示唆する医師の比率が高かったようだ。

 実際、電子タバコに関する患者側の問いに対し、約半数の医師が「否定的な見解」を示し、そのリスクに着目する前提から「使わないよう」に勧めている実態が浮き彫りとなった。

 反面、今回の分析結果でも、電子タバコを「禁煙ツールとして有用」とする肯定派の医師も約20%はいることが判明。加えて、各人の肯定度合いは定かでないものの、禁煙関連の患者質問に対し、54%の医師が電子タバコを「ひとつの補助手段」として挙げる立場を取っている点も明らかにされた。

 昨年の夏、英国公衆衛生庁は、従来のタバコの喫煙に比べて「電子タバコの有害性は95%低い」との公的見解をPRした。繰り返すが「95%OFF」、つまり「煙のタバコに比べてみたら21世紀のデバイスは僅か5%の害に過ぎないのだよ、紳士淑女諸君!」というわけだ。

 この95%安全説に関しては、英国議会でも「わが国民の半数がその事実を知らないのでは!?」という質疑が交わされ、当時の首相も「電子タバコは喫煙を置換しており、国民の健康を改善するための正当な方法であることを明確に説明するべきだと考えている」と答弁している。
「吸う人はチョット...」の先入観を霧散できるか?

 だとしても、その有害性/安全性をめぐる「残り5%」という微妙な見解の相違については、今後の受け止め方にも国民性の違いが出てくるような気もする。

 たとえば、日本の最近の消臭剤CMで、東幹久さん扮するアッシー氏の誘いに喜びつつ、クルマに乗りかけた美女(=菜々緒さん)が「タバコの臭いはチョット......」と躊躇する場面がある。

 いかに「煙も灰も臭いも出ない」が売る側のうたい文句でも、こうした「吸う人はチョット......」という(誤った!?)先入観から電子タバコが脱せられるかどうか。

 ネット投稿をみると、新幹線車内で愛蒸家を発見して呆れた女性乗客が車掌を呼んで注意してもらおうと考え、念のために「電子タバコの分煙問題」についてネットで検索。結果、あまりにもグレーゾーンである現状が判って行動を躊躇したという逸話が出ている。

 実際、いわゆる路上喫煙禁止条例上の電子タバコの扱いに関しても、解釈は自治体ごとにさまざまだ。大阪市や名古屋市は「やけどの恐れがない」などの理由から罰則対象外としているが、東京・千代田区や横浜市では紙タバコ同様に禁止対象とされている。

 前出のProchaska氏らも論文中で、「既存研究の範疇では、電子タバコが禁煙に役立つという知見はいまだ示されていない。従来のタバコと比べた際の電子タバコの安全性についてはわれわれも今後さらに調べていきたいと考えている」と述べている。

 論文の共著者のひとりも「たとえ、電子タバコにリスクの可能性があるとしても、患者に対しては断定的な言い方を避けて話すべきかもしれない」と、やりとり上の慎重論を提案している。

 専門家でさえ明確な答えに窮している電子タバコの有害性/安全性の問題。2020年の東京五輪までには、世界標準の「正解」が出るのだろうか。日本のおもてなしが左右される重要な問いである。
(文=編集部)