仕事のメールは24時間対応?(shutterstock.com)

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 過労死事件の場合、勤務時間外の電話連絡やメールを受けていた事例が大半だという。家庭の事情も時間帯もいっさい無視して叱責する上司の声や、取引先からの非情なクレーム案件などがどれだけのストレスを生んだことか......。

 まるでON/OFFの仕切り塀を突き破るかのごとく、事実上の「24時間ON状態」を強いられているに等しい今日のデジタル社会。従業員同士のLINE繋がりは「急なシフト変更」や「キャンセル待ちの就労希望」に活かされるなどの利点も多いが、私生活まで土足で踏み込まれるような案件にはできる限り応えたくないもの。

 事実、就業時間外も仕事関係のメールをチェックしなければならなかったり、返信が義務づけられたりする日常環境では心労が必至。その結果、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス:work-life balance)」が害されるという研究報告が、先日、ある学会で発表された。

 米カリフォルニア州アナハイムで開催されたアメリカ経営学会(AOM)の年次集会で、「就業時間外のメール対応はワーク・ライフ・バランスに有害」という主旨の成果を公表したのは、リーハイ大学(ペンシルベニア州ベスヘレム)経営学准教授であるLiuba Belkin氏らの研究班だ。

 Belkin氏らは報告の中で「電子メールを完全に禁止せよ、とは言えないまでも、少なくともバランスはとるべきである」と、現代社会への警鐘を鳴らしている。

心労がON/OFFの壁を決壊させる

 この研究は、さまざまな業界に従事する成人労働者297人の協力を得て行なわれた。

 まずは「就業時間後の電子メールに関する職場規定」を問うと同時に「通常時、就業時間外で電子メールに費やす時間はどれくらいか?」についても回答を得た。

 そして、対象者それぞれのOFFの本音を引き出すべく、私的時間帯には「仕事のことは全く考えたくない」とか「仕事(の延長案件)に感情を消耗させられていると思う」などの選択肢も設けて答えてもらった。

 次いで1週間後、今度は本題のワーク・ライフ・バランスへの影響を究明するために追跡調査が実施された。「あなたは仕事上の要求と、家族をはじめとする仕事以外の要求との均衡を、上手にとれていると思うか?」などの項目を、微に入り細に入り尋ねたようだ。

 そして集計結果を解析したところ、回答者の年齢差や性差、業界や職種の違いを問わず、ある共通の傾向が読み取れた。それは仕事と家庭生活(私生活)の区別に関する志向性の個人差をも越えて、総体的に認められる結果だった。

 つまり、就業時間後にも「電子メールへの対応」を期待されることは、その人が電子メールに費やす時間と「正の相関(positively linked)」を示し、仕事と家庭の調和については「負の相関(negatively linked)」を示したのだ。
デジタル社会と反ストレス法のせめぎ合い

 折しもフランス政府は今年、オンライン仕事にともなう「働き過ぎの悪影響」を減らすため、労働法の一部を改正した。その内容は、デジタル関連業務が従業員の私生活に及ぶのを制限する規定を呼びかけたもの。具体的には、従業員50人超の企業に対し、就業時間後の電子メールを「制限する」よう求めている。

 近年はドイツ最大の人口をほこるノルトライン=ヴェストファーレン州でも「反ストレス法」の制定が議論を呼んだが、日本の労働基準法上でも「時間外の業務連絡」が禁止されている事実を御存じだろうか。

 違反した場合には使用者への罰則規定もあり、労働問題の専門家からみれば、22時〜翌朝5時までは「深夜労働時間帯」に当たり、「割増賃金を支払う義務」が定められている。

 ところが、労働時間の延長や残業・休日出勤も労使間で可能としている「36(サブロク)協定」が蔓延るニホンでは、そのあたりの法律遵守も曖昧放置が現実だ。

 労働基準法は、労働時間・休日について、1日8時間、1週40時間(第32条)および週1回の休日の原則(第35条)を定めている。

 これに対して同法第36条は「労使協定をし、行政官庁に届け出た場合においては、(32条、35条の規定にかかわらず)、その協定に定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」とされているのだ。

 いずれかの近い将来、どこかの先進他国で「ネットに繋がらない権利」が可決でもされ、世界の趨勢にならない限り、スマホ天国ニッポンの労使環境は変わらないかもしれない。その日まで、せめて休日くらいは電波の鎖を自ら断ち切る勇気を持とう。
(文=編集部)