「思い出したくない記憶」を忘れる方法はありますか?

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執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)

「記憶」とともに生きている私たち人間にとって、「記憶」とどうつき合っていくかは重要なことですよね。

楽しかった記憶、よく笑った記憶、とても嬉しかった記憶。あるいは辛かった記憶、よく泣いた記憶、思い出したくもない記憶…。

今回は「 忘れたい記憶 」について考えてみました。

脳科学的な記憶の仕組み

外部からのさまざまな刺激は、視覚・聴覚・嗅覚などの感覚器を通して、脳に送られます。まず「大脳皮質」の感覚野でこれらは処理され、大脳辺縁系の「海馬」に情報が集められます。


そして整理統合され、残されたり消去されたりするのです。海馬は記憶の司令塔です。残されることになった記憶は、大脳皮質に「長期記憶」として保存されます。

「知識」と「思い出」

記憶にはさまざまな種類があります。「記憶とは忘却なり」と言われてきたように、もともと放っておけば記憶は忘れられるようにできています。

そんなすぐに忘れられてしまう記憶を「短期記憶」と呼び、ずっと覚えつづけられる記憶を「長期記憶」とよびます。長期記憶には代表的なものとして、「意味記憶」と「エピソード記憶」があります。「意味記憶」はいわゆる「知識」に該当します。エピソード記憶は「思い出」です。

では、こうした特徴を押さえて、“嫌な記憶を忘れる方法”について考えていきます。

思い出す暇をつくらない

たとえば、PTSDの人にとって、悪夢のような経験はできれば思い出したくもないのに、自分の意思とは無関係に思い出してしまうということがあります。

これと同じように、実は「悪い記憶」を消したい人も、無意識的に引き出しから出して、思い出してしまっていることがあるかもしれません。そのため、何か別のことに集中して、思い出す暇をつくらないことが奨励されます。そのように思い出すことを止めることで、早く忘れることができます。

ネガティブな経験ほど冷静に記憶

感情、とくに「恐怖」に関連していて強い感情をともなった記憶はなかなか忘れにくいと言われます。


これは、記憶を長期化させる「海馬」と、記憶時の強い感情による「偏桃体」の刺激とを結びつけて、神経回路を設定してしまうからだという説があります。ですから、覚える時に「強い思い入れを込めない」ことは、記憶が残りにくい要因になるでしょう。可能であれば、ネガティブな経験ほど冷静に記憶しましょう。

「悪い記憶」を「良い記憶」に変えられる?


時々思い出さないと生々しい「エピソード記憶」は、辞書のような「意味記憶」に変貌します。ですが、実はこれ、過去の出来事に現在の解釈を加える「リセット」にも似た作業です。この時、悪く解釈すれば、記憶はどんどん悪いものとして「エピソード化されていきます」。

「悪い記憶」というものは、実はそのたびごとに、自分で悪い解釈を増長している可能性もあるのです。


思い出すたびに悪く解釈するのでなく、“良く解釈する”ことで、より良い記憶になっていくという作業は、心理療法などではよく行われます。

より良い記憶に変える大切なコツ!

そうは言っても、悪い記憶を自分一人の解釈で「良い記憶」に変えることは至難のことです。下手をすると自分自身をごまかすことにもつながります。「作話」と言って、記憶をねじ曲げてしまうようなことにもなりかねません。


そこで、自分の話(記憶)を、他の人に話すことで聞いてもらい、他者の目で解釈してもらう、ということが行われます。自分では「悪い」と思っていたことが、他者にはそうは見えていなくて、それを受け入れると、記憶自体が以前ほどネガティブなものではなくなるということも起こるのです。そうした、記憶の受容作業を心理療法では行うわけです。

良いも悪いも、どちらにしても長期記憶(思い出)があることが人間であることを思うと、悪い記憶も無理をして消す必要はないだろうとも思います。

しかしそれでは辛すぎるという方には、上に述べたような可能性を探ってみてください。


<参考>
岩田 誠 監修『プロが教える脳のすべてがわかる本』ナツメ社
篠原 伸禎 監修『美しい脳図鑑』笠原出版社

<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長