【福田正博 フォーメーション進化論】

 日本代表はW杯アジア最終予選の初戦でUAEに1−2で逆転負け。以前からこの連載でアジアと日本のレベル差は縮まり、日本代表のアドバンテージは小さくなっていると警鐘を鳴らしていたが、不安が的中する形になってしまった。

 ただ、多くのメディアで言われている「アジア最終予選を初戦黒星スタートの代表チームは、過去にW杯へ出場した確率0%」というデータは、今回は当てはまらないだろう。

 このデータは従来の8カ国が2グループに分かれて最終予選を戦っていた頃のもの。今回は12カ国が2グループに分かれて6カ国総当たり戦(ホーム&アウェーで10試合)のため、まだまだ挽回の余地は大きい。それだけに、2戦目にアウェーでタイに2−0で勝利できたことは大きかった。

 それでも、敗因はしっかり分析しなければならない。UAE戦の敗因は、ハリルホジッチ監督の日本サッカーの置かれた状況への理解不足にほかならない。それは試合終了の笛が鳴った後の監督の落胆ぶりが如実に物語っていた。「悪くても引き分け」くらいに高を括っていたのではないだろうか。そうでなければ、代表チームの指揮官たるもの、あれほど落ち込む姿を見せたりはしない。

 UAEとは2015年アジアカップで対戦してPK戦で敗れていたが、そのときは日本が優位に試合を進め、相手を一方的に押し込んだものだった。それもあって、ハリルホジッチ監督だけではなく、選手にも油断やスキがあったのではないか。たしかに、浅野拓磨のゴールラインを割っていたシュートは幻となり、不可解な判定もあった。しかし、それを言い訳にできないほど、日本代表はサッカーの内容そのものが悪かった。

 UAEが最終予選に向けて2カ月の合宿を張ってコンディションを整えてきたのに対し、日本代表は準備不足だったことは否めない。ここにこそ、ハリルホジッチ監督の、日本サッカーが置かれている状況への認識の甘さがあったように感じられる。

 現在の日本サッカーにとって大きなネックになっているのが、欧州から見て「極東に位置する」という地理的問題と、アジアでの戦いと、W杯での戦いで相手のレベルが異なる「ダブルスタンダード」のふたつだ。

 日本は、サッカーの本場である欧州から見て極東に位置する。そのため、ヨーロッパ組はW杯予選のたびに長い距離と時差を乗り越えての移動を強いられる。スケジュールに余裕があれば、問題はないだろうが実際は、欧州組はリーグ戦を終えてすぐに移動しなければならず、しかも代表戦の1日前や2日前にチームに合流する。そのため、どれだけ技量の高い選手であっても、それを発揮するための土台であるコンディションが、100%ではないまま代表戦に臨むという問題がある。

 ハリルホジッチ監督は、日本人選手にヨーロッパでプレーすることを望み、海外移籍を奨励しているが、レベルの高い環境に身を置くと、選手個人のレベルが向上するというメリットがある反面、レベルの高さゆえに日本代表の中心選手でさえ、出場機会を失う危険性をはらんでいる。これも、チームに欧州組が増えることのデメリットだ。

 たとえ控えであっても、「練習でレベルの高い環境に身を置いた方が選手は成長する」と考える人もいるかもしれない。しかし、私はそうは考えていない。選手は、真剣勝負の実戦を経験して初めて成長できる。試合で経験した課題を改善するために練習に取り組み、その課題を克服して、次の試合で結果を出す。この繰り返しがあって選手は成長していく。

 これは若手に限ったことではない。本田圭佑のような百戦錬磨の選手であっても、クラブで試合に出場しているかどうかは重要だ。どんなに実績がある選手でも、実戦から離れていると、試合勘は鈍り、体力は落ちていく。練習でどれだけ追い込もうと、相手が死に物狂いで向かってくる試合と、チームメイト同士での練習では、おのずと差が生じる。わずかな違いとも言えるが、それが1シーズン積み重なると、大きな差になる。ベンチを温める試合が増えれば増えるほど、選手はコンディション調整が難しくなっていく。

 つまり、代表選手に欧州組が増えるということは、コンディションに不安を抱える選手が増える可能性もあるということ。そのため、ハリルホジッチ監督に求められるのは、「全選手のコンディションの見極め」になる。これは、あらゆる国の代表監督にとって重要な資質だ。

 しかし、UAE戦を見る限り、それができていたとは言い難い。最終予選の初戦は難しい試合なだけに、本田、香川真司、岡崎慎司、長谷部誠、清武弘嗣、吉田麻也らの経験値に期待した面は理解できるものの、彼ら欧州組のコンディションは良いとはいえず、ベストパフォーマンスからはほど遠かった。それが敗因のひとつだった。

 他に選手がいないのなら、それも仕方がない。しかし、経験値では劣るものの、今季の齋藤学(横浜F・マリノス)のように、Jリーグで高いパフォーマンスを発揮し続けてコンディションの良い選手もいる。コンディションの悪い選手を起用するより、そうした選手をひとりかふたり起用するだけでも、チームは生まれ変わる。タイ戦はまさにそういう試合内容だった。浅野拓磨、原口元気というコンディションの良い選手を起用したことで、苦しんだとはいえ勝利することができた。

 ハリルホジッチ監督の就任から1年半、アジア2次予選であれば、対戦相手はこちらのコンディションが多少悪くても勝ててしまう格下がほとんどだった。親善試合であれば選手交代が6人まで可能なため、長距離移動で疲れている欧州組を次々と交代させて何とかなっていた。しかし、最終予選は対戦相手のレベルが上がり、交代枠は3人。ハリルホジッチ監督は、今回UAEに負け、タイ戦で苦しんだことで、日本が抱える問題の本質がやっと理解できたのではないだろうか。

 もうひとつの問題点である「ダブルスタンダード」についても、ハリルホジッチ監督はようやく実感したのではないか。世界の強豪にはチャレンジャーとして戦いを挑む日本代表だが、アジアで戦う相手は自分たちより格下、または互角であり、相手国を押し込む展開が多い。一方、W杯では格上との対戦ばかりで、相手が攻め込んでくる。そのため、前線にスペースが生まれ、ハリルホジッチ監督が標榜する「縦に速い」サッカーはハマりやすい。しかし、こうした戦いをアジアでやろうとしても、相手は自陣に引いて守ることがほとんどなので、堅守速攻はハマりにくい。

 ハリルホジッチ監督は就任前から日本サッカー協会関係者からこうした説明を受けていたとは思うが、そのことをこの2戦の難しさを体験したことで実感できたのではないだろうか。

 また、若手起用についても課題は残っている。成長著しい選手を抜擢して、その選手が狙い通りのプレーができなかったからといって、バッサリ切るようなやり方は控えてもらいたい。たとえば、UAE戦にボランチで先発した大島僚太は、失点に絡むミスをして、攻撃でも期待されたような働きはできなかったが、だからと言ってすぐに評価を決めるのではなく、じっくりと長い目で成長を見守ってほしい。

 大島は日本にとって貴重な才能だと私は思っている。放っておいても若手が次々と台頭してくる欧州や南米の強豪国とは違い、日本は才能豊かな若手を大事に育てなければならないレベルにある。UAE戦での大島に、川崎フロンターレや五輪代表で見せるような攻撃のスイッチとしての役割を求めたのは理解できるが、縦パスを入れるか、サイドに開いて展開するかを判断することは、非情に難しい仕事。Jリーグやリオ五輪で大島が活躍できたのは、風間八宏監督や手倉森誠監督が、相応の時間を費やしたからこそ。ハリルホジッチ監督は、能力の高い若手を試すだけではなく、うまく成長を促すという気概を持ってもらいたい。

 この2戦を振り返って収穫だったのは、原口元気と浅野拓磨だろう。ふたりがゴールを決めたからだけではなく、原口と浅野がピッチに立つことでチームにもたらす「躍動感」は貴重なものだからだ。彼らはまだまだプレーの粗さが目立ち、ともすると雑にも見える。しかし、言い方を変えれば、それは「荒々しさ」や「推進力」ということでもあり、今の日本代表に欠けている要素だ。彼らは車にたとえれば、アクセル。ベテランが増えてブレーキ役になる選手が多い日本代表にとって、アクセルになれる若手はまだまだ少ないといえる。

 もちろん、若いからといって誰もがアクセルになれるわけではない。たとえば大島などは、若いがブレーキ役の選手だ。チーム全体を見渡し、バランスを取れる。それに対して、原口や浅野は、縦横無尽に突っ走る反面、チームのバランスを崩す動きになることもあるが、こうした動きこそがチームに勢いを与えることにもなる。

 チームの躍動感は、バランスをとる選手ばかりでは生まれない。若手が遮二無二プレーするからこそ、ブレーキとなるベテランの存在意義も増す。若手のプレーは危なっかしい部分も併せ持つが、そこは長谷部ら経験豊富な選手がブレーキをかければいいだけのこと。若手にはアグレッシブなプレーを期待したい。

 私自身は、ハリルホジッチ監督の目指す「縦に速いサッカー」は世界の強豪と戦う時に生きてくると思っている。世界の舞台でその良さを発揮するためにも、まずは謙虚にアジアでの戦い方を研究し、10月ラウンドからは、この2試合で得た教訓を十分に生かしてもらいたい。

津金一郎/構成