「週刊ポスト」(小学館)2016年9月16日・23日号

写真拡大

 今月5日、六代目山口組の司忍組長が山口組総本部で開かれる定例会に出席するためJR新神戸駅に到着すると、対立する神戸山口組の組員らが大声をあげ警察官と小競り合いを起こすトラブルが発生。神戸山口組系組員らは司忍組長に向かって「サインください」と挑発したとのことで、多くのメディアで大々的に報じられた。

 発生してから1年が過ぎたが、いまだ収束のメドはたっていない山口組分裂騒動。そんな状況下、「週刊ポスト」(小学館)2016年9月16日・23日号に興味深い記事が掲載された。「現役ヤクザ100人世論調査「山口組分裂から1年、あなたのシノギは?」」と題されたこの企画は、100人の現役ヤクザ(そのうち47人が山口組関係者)に、山口組分裂による影響や、今後のシノギについてアンケートを行い、赤裸々な回答を引き出している。

 まずは気になる「山口組の分裂騒動はしばらく続くと思いますか?」という質問から。これに対しては、「はい」が85人、「いいえ」が7人、「どちらともいえない」が7人、「ノーコメント」が1人という結果になっている。

 1年前にこの山口組分裂騒動が起きた当初は、普段、暴力団関係の記事を扱わない一般メディアが「山一抗争の再来か!?」などと煽り立てる一方、ヤクザ報道に詳しい実話系週刊誌は一貫して山一抗争のときのような血で血を洗う戦争にはならないだろうと予測していた。というのも、暴力団対策法(暴対法)などの影響で現在のヤクザはもうかつてのような抗争をすることはなくなっているからだ。ジャーナリストの溝口敦氏は著書『暴力団』(新潮社)のなかで、こんな象徴的なエピソードも紹介している。

〈兵庫県下の繁華街で、山口組系の組員二人が客引きの若い男たち五人に囲まれ、ぼこぼこに殴られたことがあります。組員二人は組事務所に取って返し、包丁や金属バット、ヌンチャクなどを持って客引きに復讐しようと飛び出したところ、組の上層部に引き留められたそうです。
「絶対やるな。殴られたら殴られ放しで帰ってこい。それで正解だ。仕返しして、もし親分が謹慎など、上から処分を受けてもいいのか」
 組員二人は歯がみをして悔しがり、「仕返しできんようなヤクザなら、ヤクザやってる価値なんかあらへん」と親分にもらった盃を叩き割って、組を出てしまったそうです〉

 ただ、この1年間なんの暴力もなく平和が続いているかといえば、そんなことはまったくない。周知の通り、対立抗争が原因とされる殺人事件も発生しており、今年5月にはいったん和解交渉につきそうだとも報じられたが、結局はそれも決裂してしまっている。今後、この分裂騒動がどうなっていくのか? 「週刊ポスト」のアンケートに答えた組員はこのように語っている。

〈自分たちにはなんのアナウンスもないのでなんともいいにくい。毎週ヤクザ記事を載っけてる週刊誌だけは事務所で読むようにしてる〉(六代目山口組組員)

 抗争の渦中にいる当のヤクザ自身ですら、週刊誌から情報を得なければならないほど混沌とした状況がいまでも続いている。今後、事態がどう動いていくのかは神のみぞ知るといったところなのだろう。

 そういった緊迫した状況であるから、当然、警察からの目も厳しくなっている。「山口組の分裂抗争以後、警察の取り締まりは厳しくなりましたか?」という質問には、「はい」が67人、「いいえ」が9人、「どちらともいえない」が22人、「ノーコメント」が2人と答えていた。

 先月10日には、兵庫県警が山口組総本部の向かいに「特別警戒所」を設置。特定の暴力団を監視するための拠点を設ける措置は全国の警察組織でも初めてのことで、このような例をとってみても、約7割の人が「警察の取り締まりは厳しくなった」と答えたのもうなずけるのだが、一方で「ポスト」のアンケートではこのように答えている人もいるようだ。

〈山口組が分裂しなくても取り締まりは年々厳しくなっている。法律はそのままでも解釈を変えて起訴し、有罪になってしまうので打つ手がない〉(西日本独立団体幹部)

 この独立団体幹部が答えている通り、現在のヤクザは今回の分裂云々がなくても、暴対法や暴力団排除条例の煽りを受け年々強くなる世間からの風当たりに苦しんでいた。「ポスト」アンケート内「経済活動(シノギ)は順調ですか?」という質問に対しての、「はい」17人、「いいえ」65人、「どちらともいえない」12人、「ノーコメント」6人という答えがそれを雄弁に物語る。

 周知の通り、現在、暴力団のシノギは厳しい状況にある。繁華街の飲食店からの「みかじめ料」や地上げなどで稼ぐこともできなくなったうえ、銀行に口座をつくることもできなくなり、挙げ句の果てには「密接交際者」となることを嫌がる斎場が会場を貸すことを渋るため組長の葬儀すら行えないといった事態まで起きているという。「ポスト」のアンケートでもこのような回答が掲載されていた。

〈もうヤクザでは食えない。八方塞がり。人間関係を食いつぶしているが、いつまで持つかわからん〉(広域組織組員)

「人間関係を食いつぶしている」とはすごい表現だが、彼らをとりまく状況はそれだけ切迫したものなのだろう。溝口敦氏の『続・暴力団』(新潮社)にはこのようなデータも記されている。

〈警察の統計を見てもこうしたことは裏付けられます。暴対法施行から二十年後の現在、暴力団犯罪では恐喝が半減し、窃盗がほぼ倍増だそうです。
 恐喝は暴力団であることを前提とした犯罪です。窃盗はどこの誰とも知られずに犯す犯罪です。罪種の変遷は暴力団が単なる犯罪者へと零落していることを語っているのではないでしょうか〉

 このような厳しい風当たりに晒されるのはヤクザ本人だけではない。彼らの家族も同様だ。上野友行『ヤクザライフ』(双葉社)には、組長の男との間に2人の子どもを抱える愛人の証言としてこんなエピソードが紹介されている。

「2番目の子が保育園に入ることになったんですけど、直前になって急に断られて。お兄ちゃんも入ってたとこなのに、『理由は申し上げることができません』ですよ。それからお兄ちゃんは小学生なんですけど、『あの子の父親はヤクザだから付き合うな』とか露骨にハブられ(仲間外れにされ)てるみたいで。文句言いに学校乗り込んだら、『やっぱヤクザの女だな』とか噂されるに決まってるし」

 こういった状況を受け、前述『ヤクザライフ』では、二次団体組長の立場にいる男がヤクザ稼業の未来に関してこんな悲観的な弁を漏らしている。

〈「これからどうなるんでしょうね、ヤクザ」
 すると組長はいつもの馬鹿笑いではなく、ハハッと軽く笑った。そんなことはいつも仲間内で話題になっていて、とっくに回答は用意している。そんな感じの笑いだった。
「まぁ、壊滅でしょうね。犯罪組織に特化して生きながらえる残党や、一部の過激派のようなグループは出てくるでしょうけど、既存のヤクザのスタイルは存続できませんよ」〉

 では、今後彼らはどうやって生活していくつもりなのだろうか? 「堅気(カタギ)になれるなら引退しますか?」という質問には、「はい」が16人、「いいえ」が47人、「どちらともいえない」が34人、「ノーコメント」が3人という結果が出ているが、厳しい状況にある割には意外にも「いいえ」と「どちらともいえない」が多い。それにはこんな理由があるようだ。

「元ヤクザを雇ってもトラブルの元になる。そんな会社はあってもまともじゃない。これまででかい顔して生きてたのに、いまさら頭を下げて生きるなんて無理」(西日本の独立組織幹部)

 現在、暴力団離脱者の社会復帰を助けるため、「社会復帰アドバイザー」制度があり、元警察官が社会復帰アドバイザーとして支援を行っているが、芳しい成果が出ているとは言えない。

 山口組分裂というのは一つの契機でしかなく、これから先も暴力団を離脱したいと考える人は増えこそすれ減ることはないだろう。しかし、そのための道が閉ざされているのであれば、犯罪組織化してマフィアになるしかなくなってしまう。今回の騒動をきっかけに実のある議論が求められている。
(井川健二)