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神戸市にある飲食店で7月31日未明、駐車場の地面に寝ていた高校生が、この店の従業員の車にひかれて意識不明の重体となる事故が起きた。高校生は前日、友人と一緒に近くの海水浴場に遊びに来ており、夜を明かすために駐車場で寝ていたという。

報道によると、車を運転していた従業員は、仕事を終えて帰宅するところだった。警察の調べに対して、「人が寝ているのに気づかなかった」と話したという。事故から1カ月以上経つが、その後、高校生の容体がどうなったかどうかは明らかでない。

今回の従業員のように、本来、人が寝ているとは考えられないような場所で、人をひいてしまった場合も、法的な責任を負わなければならないのだろうか。吉岡大司弁護士に聞いた。

●刑事責任を問うことは難しい

「まず、刑事上の責任についてですが、駐車場での事故とはいえ、運転中の事故で人を死傷させた場合、過失運転致死傷の罪を問われることになります。

過失運転致死傷の罪には、『運転上必要な注意を怠ること』(過失)が要件とされています。今回のケースでは、従業員に過失があるか、過失があったとしても刑事責任を問うほどのものか、が問題となると思います。

駐車場であっても、運転者は、進行方向に人がいないかを確認しなければなりません。今回のケースでも、運転者が注意すれば、進行先に人がいることは認識し得ただろうと思います。

しかし、駐車場は、車を駐車させることを目的とし、車が走行することが当然に予定されている施設です。走行中の運転者が、横になっている人を発見して回避することが困難であることはいうまでもありません。しかも夜間であり、発見すること自体が困難といえます。

こうした事情から、今回のケースについては、運転者に『過失があった』といい切ることは問題でしょう。また、仮に過失があったとしても、注意義務違反の程度は一般の交通事故とくらべて小さいと判断されるでしょうから、刑事責任を問うにはハードルの高い事案ではないかと考えます」

●民事上の不法行為責任が問われる可能性がある

「民事上の責任としては、まず不法行為による損害賠償義務があるかが問題となります。

今回のケースで、事故による高校生の重体という結果があることは問題がないところでしょう。ここでも、従業員の不法行為責任があるか否かについては、事故の発生について、従業員に『過失があるか』が問題となります。

私は、民事上の不法行為責任に関しては、従業員に『過失はある』と考えます。

駐車場を走行する程度の速度で、自分が運転する車の進行方向の安全を確認すれば、そこで横になっている人がいたとしても、発見することは不可能であるとまではいえないからです。

ここで『刑事責任を問いうる程度の過失責任はないのではないか』と、先ほど述べたこととの整合性に疑問を持たれる方がいるかと思います。

しかし、刑事責任を問うということは、国家が財産・自由などの個人の権利に重大な制限を科すということですので、民事の問題にくらべて謙抑的な判断がなされる傾向があります。実際に交通事故で傷害などが生じた場合でも、刑事手続がとられず、民事上の問題としてのみ争われることはよくあることです。

ただし、従業員に過失があるとしても、高校生に生じた損害について、従業員がすべて賠償すべき結果にはならないと考えます。高校生にも、事故の発生について、相当程度の落ち度があるといえるからです。その落ち度は『過失相殺率』として判断されることになります。

したがって、高校生にも事故発生の責任の一部があるとされ、従業員は、事故の発生について自己の責任の割合に応じた賠償をするということになると考えます。

今回のケースで、双方の過失割合がどの程度となるのかは、先ほどの事情のほか、事故の発生時刻が店の営業時間内であったかどうかとか、事故のあった場所の見通しの状況などの具体的状況も検討する必要があると思います。

なお、その判断の方法ですが、事故の特殊性から本件独自の過失割合を決めるのか、あるいはこれまでの裁判例を参考に類型的に判断していくのか、意見のわかれるところだと思います。

駐車場内の事故の話ではありませんが、参考までに歩行者と車両の事故についてお話します。一般に、道路中央部分の歩行者と車両の事故の場合、歩行者の過失割合は10%程度です。一方、路上横臥者と車両の交通事故の場合の過失割合は、横臥者の責任が重く問われ、夜間であれば、横臥者の過失割合は50%とされることが多いようです。

なお、駐車場内の歩行者と車両の交通事故の過失割合についても、一般的には歩行者側に『10%の過失がある』とされることが多いようです。」

●車の通行が予定されている場所で休息をとることは避けるべき

「路上などで意識のないまま横になって車両にひかれてしまうと、通常の歩行中の事故にくらべて身体に重大な結果が生じてしまいがちです。そのために、地方によっては、横臥者の事故が社会問題化しているところもあると聞きます。

事故によって、身体に重大な結果が生じた場合、本人のみならず家族にも著しい精神的・経済的負担が生じます。ひいてしまった方にも、その後の暮らしに重大な影響が生じます。

歩行者は路上や今回のケースのような駐車場など、車の通行が予定されている場所で安易に休憩することは避けるべきです。

また、運転者もそういう場所だから『まさか人がいないだろう』などと気を抜くことなく、安全を確認して運転して、このような悲惨な事故が発生しないようにしたいものです」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
吉岡 大司(よしおか・たいし)弁護士
交通事故を含め、損害賠償に関する問題を多数扱っております。また家族に関する事件、賃貸借関係等の事件も常に業務として行っております。
事務所名:京葉浦安法律事務所
事務所URL:http://www.keiyo-urayasu.jp/