勝新、初のヒット作にして、今東光の同名小説を映画化した『悪名』

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(…前編「ケンカが強くて情に厚い、昭和の大スター・勝新の魅力とは?」より続く)

【男達の遠吠え】『悪名』後編
「わいは死んでも、わいのど根性は死なへんわ!」

昭和を代表する大スター、勝新太郎のあたり役となったのが1961年に公開された大映映画『悪名』に登場する八尾の朝吉だ。同作には、朝吉の妻・お絹役として、翌年に結婚することとなる中村玉緒が出演しており、当時、婚約中だった二人の微笑ましいやりとりが見られるのもこの映画のポイントのひとつだ。

中村玉緒、結婚後に女優復帰で悩んだ過去を告白

泊まりの旅行先で、布団に押し倒そうとする朝吉に向かって笑顔で、「一冊入れてほしいわ。せやないと嫌や」と迫るお絹。ちゃっかり「あなたを一生の妻にします。右、まさに相違なき候」と一筆書かせることに成功する。笑顔から一転、朝吉が一筆したためる様子をジーッと、真剣な表情で見つめるお絹の顔が実にいい。近年ではバラエティー番組での顔がよく知られているが、この映画を見ると、女優としても希有なる才能を持っていることがよく分かる。

本作ではもうひとりのヒロイン、水谷良重演じる松島の女郎、琴糸も登場。「弱い、かわいそうな者を見ると助けたくなる人」と朝吉の資質を見抜いた琴糸は、「助けてほしいわ」とポツリ。今の仕事にほとほと嫌気が差している琴糸に「逃げたらいいやないか」という朝吉。ため息をつきながら「ダメよ。でもあんたが連れて逃げてくれるなら、命賭けてもいいけど」とつぶやく琴糸に、「逃げてやろうやないか」。

しかし、不幸な身の上の琴糸を救出するためには、朝吉自身、筋を通さないとならない。そして紆余(うよ)曲折あって、朝吉は、浪花千栄子演じる因島の女親分と話をつけることとなる。「わたしは(他の親分とは)ちょいとばかりワケが違うよ」と語る浪花千栄子の迫力たるや。朝吉を座らせ、「血ヘドを吐くまでステッキを受けろ!」。ステッキでのせっかんに、朝吉の頭からは血が。それでも容赦なくたたきのめす親分は「参ったと言わんか!」。しかし朝吉の目は死んでいない。歯を食いしばりながら、「わいは死んでも、わいのど根性は死なへんわ!」と吐き捨てる。そんな男に、男は惚れるのだ。(敬称略)(文・絵:壬生智裕/映画ライター)

壬生智裕(みぶ・ともひろ)
福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、特に国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても映画祭パンフレットなどの書籍も手掛ける。