「へんないきもの」シリーズの早川いくをさん 全米ベストセラー「進化くん」を超訳したワケ

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ベストセラー「へんないきもの」シリーズの著者、早川いくをさんが全米ベストセラーになった生物写真集を翻訳した。タイトルは「進化くん」(飛鳥新社)。奇妙な生物たちを軽妙な文章で表現し続けてきた早川さんにとって、「進化の擬人化」というあり得ないアイデアは大変刺激的だったようで、「初の翻訳にして超訳」に至った。早川ワールド満載の本書ももちろん爆笑の連続である。

常に意表をつく視点で奇妙な生物たちを観察してきた早川さん。冗談とも本気ともとれる軽妙な語り口が独特のユーモアを生み出す。今回は100種類以上が写真とともに紹介されている。

まず、本書を見掛けた人は「早川さんの『へんないきもの』シリーズの新作が出たぞ」と手に取るだろう。たくさん出版されている類似本のひとつと思うかもしれない。「おや、今回は翻訳か」などと読み進めるうちにやがて疑問が湧いてくるのである。

著者のマラ・グランバム氏は果たして実在するのだろうか?

「進化の擬人化」という新境地をより効果的に演出するために作り出した架空の人物ではないかと深読みするのだ。デザイナーでもある早川さんならお手のものだろう。そもそもこんな奇妙なことを考える人が早川さん以外にいるわけがない。インタビューはこの疑惑の解明から始めなければならない。

――著者というか原作者のマラ・グランバム氏について教えてください。

早川:おかしな疑いをお持ちのようですが、マラ・グランバム氏はちゃんと実在します。足跡だって写真だってあるし、住民税の納付書の写しだってほらここに。すべてはグランバム氏が実在することの動かぬ証拠です。

――実在したのですね。てっきり……いえ、何でもありません。かねてから奇妙な生物の進化に感嘆されていましたが、すべて「進化くん」の仕業だったことが判明して、さぞかし衝撃を受けたのではないでしょうか。

早川さん:この本を読み「進化とは膨大な時間の蓄積の結果で、それを人は奇跡と呼ぶのだ」なんて、さも知った風なことを言ってきた自分は何だったのかと思いました。進化論も創造論もまったくのまちがいで、進化は「進化くん」の手内職の結果だということが明白になった今、科学というものの立脚点自体が揺らぐこととなりました。これからは科学者、特に生物学者の皆さんには眠れぬ日々が続くのではないかと思います。

――初めての翻訳にして大胆にも超訳に挑みました。工夫された点を教えてください。

早川さん:この本は基本的に「進化くん」と友人の「生物多様性くん」の会話がほとんどを占めます。情熱、憤激、悲しみ、そして時には驕慢、怠惰など、彼らの生物に対する偽らざる思いが、そこに凝縮されています。なので私としてはただひたすら、彼らの肉声を正確に伝えるべく腐心した次第です。進化くんがいいかげんな気持ちで進化させたダンボタコに、生物多様性くんが異議を唱えると、進化くんが終電だからと帰ってしまうくだりは圧巻で、思わず手に汗を握ります。

――では原作に忠実にやられたのですね。

早川さん:いえ、それがこの本は相当マニアックでして、ヘビやらイモムシに愛着をもつ私ですらもさすがにこれは、と思わざるを得ない生物も掲載されておりました。具体的に言いますと、あのう、そのう、ええと、つまり…………に、そっくりな貝とか、さらにもっとそっくりな両生類とか。そのあたりは割愛しましたので、お年寄りからちびっ子、男性、女性問わず、安心してお読みいただける明るく楽しい一冊となっております。

――本書を読むまで、生物を創造するのも進化させるのも神様の仕事だと思っていました。酔っ払ったり、落ち込んだり、進化くんがあんなに人間臭かったことに驚きです。奇妙な生物を失敗作と考えれば納得できますね。

早川さん:神が生物を進化させてきたなんて、非科学的にもほどがあります。進化は進化くんが司ってきたんですからね。そしてその仕事は、当然彼のメンタリティによって左右されます。ウミウシなんかは飲み会の最中に考えて、しかもその事を覚えてなかったらしいんですね。ウィーディー・シー・ドラゴンのあの訳のわからない形態も、追い込まれて思わずやらかした結果みたいですし、まあ我々もそういうの色々あるじゃないですか。だから進化くんの、あんな仕事やこんな仕事も、温かく見守ってあげられればと思います。

――遊び心をたっぷり持って「神様の領域」に踏み込んでいた進化くんですが、大失敗やスランプを経験するうちに意固地になってしまいます。年齢を重ねるとともに才能が枯渇していく人間のようで見ていられませんでした。

早川さん:同じ仕事をずっと続けてると、やはり慢心とかおごりとか、生じてくるんですよね。それが初心を忘れさせ、怠惰や堕落につながる……。よくあることだと思います。しかし進化くんの場合、それが「大量絶滅」という、巨大すぎる失敗を招いてしまったのが痛いところです。彼はほとんどウツ状態に陥りましたが、生物多様性くんの献身的な支援のおかげで、元の自分を取り戻しました。このあたりは感動的で、涙なしには読めません。

――進化くんと生物多様性くんの関係って、なんとういうか、その……。

早川さん:ええと、あの、まあ若い男性が二人きりということで、ずっと一緒にいるわけでして、その関係というと何というかまあ、どっちが受けなのかなあとか、いろいろと。

――はぁ?

早川さん:いやあの、ぼくはぜんぜんわからないんですが、まあ読者の中にはこれはBLだとかいう人もいて、まあ言われてみればたしかに、なんて思うところもあるようなないような、いやあの、勘違いしないでくださいね。お年寄りからちびっ子まで、安心して読める楽しい本ですから!ほんと、ほんとですから! えーと、こ、この本に出てくる動物で一番好きなのはゴマフホウズキイカです!とってもかわいくて、あの、えーと。

――ありがとうございました。

「教えて!goo」では、「動物の進化について」ということで皆さんの意見を紹介中だ。

●「進化くん」を紹介した飛鳥新社のホームページ●「進化くん」(飛鳥新社、税抜き1,500円)

(武藤章宏)

教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)