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●国内の約30万人のうつ病患者への治療が難航
金原出版はこのほど、東京都内にて「うつ病の新しい治療法」に関するセミナーを開催。同セミナーでは、国立精神・神経医療研究センター病院 精神先進医療科医長の鬼頭伸輔氏が、国内に30万人いると推計されている薬物療法抵抗性うつ病患者向けの新たな治療法「rTMS療法」を紹介した。

○30〜50代でうつ病になりやすい

現在、日本国内に100万人以上いると推計されるうつ病患者。その基本症状は「抑うつ気分」と「興味・関心の喪失」で、気分が落ち込んだり、趣味や娯楽、テレビなどに興味がなくなったりしてしまう。症状が深刻になると、自殺や休職、休学などにつながりかねない。

鬼頭氏は「30〜50代のちょうど社会的生産性が一番大きいときにうつ病になりやすいです」と、社会的損失の大きさからうつ病を社会から減らしていかないといけないと指摘する。

うつ病は自殺リスクが高いとのデータもあり、自殺者の約3分の1はうつ病や双極性障害だという。働き盛りの年代でうつ病を発病し、自ら命を絶つ人が続出するようならば、社会における経済損失は増えていく一方だし、超高齢社会にますます拍車がかかることも懸念される。日本にとってマイナスだらけなわけだ。

うつ病患者に対応する効果的な治療法としては、「休養」「環境調整」があると鬼頭氏は話す。

「職場での転勤や異動がストレスになり、そうしたことでうつ病になることもあります。残業が増えてくることも理由の一つですね。昔からうつ病の第一の治療は休養で、環境調整もしましょうとされてきました」。

中等度以上のうつ病患者になると、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬を用いた本格的な薬物療法を実施する。ただ、薬物療法への抵抗性もあり、すべての患者に対して薬が有効なわけではない。そのほかにも、患者の「思考の癖」を改善し、認識を変えて行動に移せるようにする認知行動療法などの精神療法を行うケースもある。

○rTMS療法の仕組み

だが、休養と環境調整、抗うつ薬などのあらゆる手段を用いても、約3割の患者はうつ病がよくならないと考えられている。日本国内に約30万人いるであろうと推計されているそのようなうつ病患者にとって、有効な治療手段と期待されているのが「rTMS(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation: 反復経頭蓋磁気刺激)療法」だと鬼頭氏は話す。

うつ病におけるTMS療法は、8の字型の電磁石などを用いて脳の背外側前頭前野を磁気刺激で活性化して意欲や思考力を正常に機能させ、二次的に扁桃体の過剰な活動を抑制させる治療法だ。

rTMS療法は脳に規則的な刺激を繰り返し与えて脳の活動を変化させることで、抗うつ薬の効果が得られない薬物療法抵抗性うつ病患者に対しての有用性が期待されているという。2008年に米国食品医薬品局(FDA)で承認されたのを皮切りに、海外ではすでにうつ病の新たな治療法として認可されている。

●rTMS療法で情動を司る領域の活動を抑制する
rTMS療法は通常、1日に40分程度の治療時間を要する。急性期は週に5日の治療を4〜6週間にわたって実施し、徐々に週に3日、2日と回数を減らしていく。必ずしも週に5日である必要はないそうだが、少しずつ量を減らしていくのが一般的だとのこと。

○辺縁を抑制し、前頭前野を活発に

ではなぜ、rTMS療法によってうつ病の症状が快方に向かうのだろうか。その秘密は、脳が刺激している部位にある。

うつ病になると、扁桃体をはじめとする情動に関連している辺縁領域の活動が活発になる。そのため、ちょっとしたことで悲しくなったり、悲観的な思考に陥ったりしてしまう。

と同時に、背外側前頭前野の活動が鈍くなる。この領域は、認知や遂行機能に深く関わっている。例えば遂行機能に障害が出てくると、物事が順序だててできなくなる。料理で言えば、材料を買って、切って、調理して、味付けをするといった工程が正しくできなくなるわけだ。そうなれば当然、仕事や家事、日常生活に支障が出てくる。

rTMS療法で背外側前頭前野の働きを活発化させ、落ち込んだ認知・遂行機能を向上させることと並行して、辺縁領域の過活動を正常化させ感情の起伏を穏やかにする――。この機序によってうつ病の症状が治まるのではないかと考えられている。

米国で実施されたうつ患者に対する大規模研究「STAR*D試験」では、薬物療法におけるrTMS療法の一定の優位性も示されている。

うつ病の症状の評価に使用されている「ハミルトンうつ病評価尺度」を用いての「寛解率(うつ病における寛解は正常、もしくはうつ病の症状がないことを指す)」を計測したところ、今まで抗うつ薬で治療を受けたことがない人の寛解率は27.5%だった。だが、最初の抗うつ薬治療で失敗し、2種類目の抗うつ薬を試したときの寛解率は21.2%に落ち、同じく3種類目では16.2%、4種類目では6.9%まで減少していた。

一方で、TMSを用いた場合、2種類目の抗うつ薬を試したときの寛解率は25.6%と、「非TMS群」に比べて4ポイントほどの開きがある。同様に3種類目では17.9%、4種類目では18.2%と「非TMS群」の約2.6倍の寛解率だった。この試験におけるTMS患者の症例数は少ないものの、抗うつ薬への抵抗性がある患者に対する一定の効果は期待できると鬼頭氏は話す。

そのほか、rTMS療法を行って寛解した患者の約6割は、その直後にすぐTMSをやめてしまったとしても、3カ月後も寛解を維持していたとする研究も報告されている。残りの再発してしまった4割の患者へ向けて、再発防止のための研究も進んでいるとのこと。

●国内におけるrTMS療法の現状と問題点
すでに国内でrTMS療法を自由診療として実施しているクリニックなどもある。ただ、もしも受診・治療するとなったら、「rTMS専門でやっている医療機関より、うつ病の治療と診断をきちんとやっている医師や医療機関の方が包括的に治療ができてよいのでは」と鬼頭氏は指摘する。

実際、ある医療機関でrTMS療法をやってから、セカンドオピニオンの意味も兼ねて基幹病院を訪れ、「あの治療は本当に効くのですか」などと医師に尋ねる患者もいるとのこと。また、パーソナリティー障害が主体の患者など、そもそもうつ病ではない患者にrTMS療法を実施している例も散見されるという。rTMS療法を含めたうつ病治療を包括的かつ効果的に提供してくれる医療機関は、現時点ではまだ限られているようだ。

また、副作用の問題もある。治療を重ねるうちに自覚する痛みはなくなってくるそうだが、rTMS療法患者の2割から4割は刺激部位の痛みなどを訴えてくると鬼頭氏は話す。また、副作用としての頭痛を感じている患者も3割から5割程度いるそうで、けいれん発作を起こす割合も0.10%と低いがゼロではない。

○ストレス社会では誰しもうつ病になる可能性が

うつ病は当事者だけではなく、家族やパートナー、友人にまで影響が及ぶ。もちろん、当事者もなりたくてうつ病になったわけではないが、ストレス耐性も人によって異なる。同じ量の仕事をしていても、物足りなさを感じる人もいれば、過度の負担に感じる人もいる。

そして、いつ・何がきっかけでストレッサーが自分の身に襲い掛かってくるかは誰にもわからない。ストレス社会に生きる私たちは、誰もがうつ病になってもおかしくないと言えよう。

そんなうつ病に悩みながら、現状の治療法では症状が回復しない人たちにとって希望の光となり得る可能性を秘めたrTMS療法。現在、日本ではうつ病治療機器として薬事承認審査中で、保険収載のための適正使用指針を準備している段階とのことで、広く一般の人たちが利用できるのはまだまだ先かもしれない。

もしも今すぐにrTMS療法を希望するというのであれば、うつ病に関する包括的ケアができる施設探しのため、信頼できる医師に相談するなどして、適切な医療機関を見つけることが治療への第一歩となるだろう。

(栗田智久)