イノセント、ナイーブ……その表現はチームとしての未熟さ、幼稚さを意味する。2年前のブラジルではザックを上回ったハリルだが、状況は今の方が深刻だ。 写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 昨年3月、ヴァイッド・ハリルホジッチが日本代表監督に就任した時のことだった。
 
 もう忘れられているかもしれないが、日本国内では一定の人気で迎えられていた。弁舌家であることは一目瞭然。イビチャ・オシムの時のように、「言葉の魔術」が期待されたのだろう。
 
 その一方、「戦術への挑戦状」(東邦出版)の共著者で、ワールドサッカーダイジェストで20年近く連載を続けるスペイン人記者ヘスス・スアレスが、2014年のブラジル・ワールドカップでハリルホジッチが率いたアルジェリアを分析し、面白いことを書いていた。
 
「アルジェリアは競争力の高いチームで、実にアグレッシブだった。しかし、はっきりと弱点が見えた。意欲(インテンシティー)が空回りし、制御できず、攻守のバランスがひどく悪かった」
 
「前へのスピードばかりを追い続けた結果、守備の穴がたくさんできていた。相手のカウンターに3、4人で対応する状態であり、得点はできても、失点も多いチームだった。勝ち進むための戦術が浸透していなかったと言える」
 
 それは、適切な指摘だった。
 
 日本ではハリルホジッチを、攻撃を高速化させる救世主のように迎えていたが、欧州では、その戦術は“イノセント”と捉えられていた。そして現実は、今になって白日の下に晒されつつある。
 
 ハリルホジッチが就任後、初めての試合に勝利した後の記者会見で、先任者のアルベルト・ザッケローニ監督を引き合いに出しながら、勝ち誇ったように話している。
 
「(ザッケローニ監督の試合ビデオを観たが)6、7人も攻撃に関与していることがあって、とても“ナイーブ”だった」
 
 このフランス系ボスニア人は、批評的意見を口にした。それは、分析としてはとても正しかったし、あしざまに言ったわけではないかもしれない。
 
 しかし、現場を預かる指揮官として、前任者の仕事を語ることに違和感があった。言うまでもないことだが、ハリルホジッチは批評家、ジャーナリストではない。現場の選手たちを率い、能力の全てを出させ、勝利に導くことを仕事とする監督なのだ。
 
 そして結局、ここまでハリルホジッチは、日本代表の戦い方の欠点を修正することができていない。
 
 9月1日に行なわれたロシア・ワールドカップ最終予選のUAE戦、日本の選手たちは前のめりになり、いたずらにピンチを招いていた。
 
 トップの岡崎慎司、トップ下の香川真司、サイドアタッカーとして起用された本田圭佑、清武弘嗣は中央に入り、SBの酒井宏樹、酒井高徳が、なんと同時にウイングに近い位置まで上がり、ボランチもいずれかがアタックラインに入るという、あまりにイノセントな戦い方だった。
 
 1失点目に繋がったファウルは、敵陣でのパスをインターセプトされ、逆襲に狼狽したことから生まれている。
 驚くべきことに、UAE戦で指揮官は90分間、この攻守が歪んだ戦い方を何ひとつ修正できていない。もし、相手がカウンター精度の高いチームだったら……。きっと、失点を重ねていただろう。
 
 ザッケローニ監督が率いた日本代表も、無垢さが目立つ集団ではあった。ブラジルW杯では、らしさにこだわってポゼッションに殉じた。
 
 しかし、「左で作り、右で仕留める」という得点パターンを確立。コンフェデレーションズカップでは、イタリアとも真っ向から渡り合った。敗れた事実は動かず、勝負弱さを否定できないが、高い位置でボールを持った時の選手たちは、可能性を示していた。
 
 ハリルホジッチは「アルジェリアをW杯ベスト16に導いた指揮官」という触れ込みだった。「縦の速さ」「デュエル」「インテンシティー」――。好んで使うフレーズは、確かに当時のアルジェリアの代名詞だったかもしれない。しかし……。