『できる大人の「見た目」と「話し方」』(佐藤綾子著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、日本における「パフォーマンス学」の第一人者である著者が、「見た目」と「話し方」についてのエッセンスをまとめた書籍。

パフォーマンス学とはあまり聞き慣れませんが、説明によればそれはパフォーマンスを日常生活における自己表現と位置づけた考え方。

そして著者は35年間もの長きにわたり、自己表現を「科学」として研究してきたというのです。

■人は34秒以上笑顔で快適になる

話を聞いてくれている相手が微笑むと、自分が受け入れられたような気持ちになってうれしくなるもの。

しかし逆に、無表情でただ話を聞いているだけだったとしたら、気詰まりで話すのをやめたくなったとしても無理はありません。

このように笑顔には、相手の話を弾ませたり、あるいは止めたりする「言語調整動作(レギュレーターズ)」という役割があるわけです。

では私たちは、人前でどのくらいの時間笑っているのでしょうか?

このことについて著者は、二者間での対話の実験をしたことがあるそうです。

相手と話していて「快適な会話」の笑顔の時間を調べた結果、1分間あたり平均34秒だったのだというのです。

つまり半分以上の時間、相手が笑顔であれば快適に感じるということ。

■意識的なスマイルの表情が大切!

口のまわりの筋肉は、「あいうえお」という音と言葉の使い分けのため、縦に長くなったり、あるいは閉じたり、いろいろな形に動くもの。

とはいえ、ただ話すためだけに口のまわりの筋肉(口輪筋)を動かすだけでは不十分。

たとえば相手に「おもしろい話ですね」と楽しさや喜びの感情を伝えるためには、発声のための動きだけではなく、唇の両サイドをほんの少し上に引き上げる“意識的なスマイル”の表情が必要だという考え方です。

笑うことに使う筋肉は、総称して「笑筋(しょうきん)」と呼ばれるそうです。つまり、口のまわり、目のまわり、頬の筋肉、これらが緩んでいるのがスマイルだということ。

そして笑顔などの表情を意図的につくることが、「表情統制(フェイシャルコントロール)」。

モデルさんが微笑んでいるポスターの写真を見てみると、口はたしかに笑っているのに、目が妙にキツかったりします。

そんなところからもわかるとおり、楽しい気持ちがまるでないのに、表情筋を無理やりコントロールしてつくった笑顔には、わざとらしさを感じる場合があるわけです。

■日本語のわからない人にも笑顔で

「おはよう」「こんにちは」など日本語のわからない外国人に挨拶をする際には、にっこりと微笑みかけ、挨拶の気持ちを伝えることが大切だと著者はいいます。

そんな場合は、笑顔が親しみの言葉や挨拶の代行をすることになるわけです。

このような笑顔は、相手と親しくなりたいという親密欲求が出ているので、自然なります。

先に触れたとおり、笑顔は秒数を守ることも大切。

しかし本当に楽しいという気持ちや感謝、親しくなりたいという気持ちを込めて、すべての表情筋を動かすことがもっとも重要だというのです。

■笑いと楽しい気持ちはワンセット

さて、ここで持ち出されているのは、「笑い講」という日本の古い祭についての話題です。本当におもしろいことがあるわけではないのに、「ワッハッハ」と声を上げて笑うというもの。

はじめはぎこちなくても、目の前の人の奇妙な顔を見たり、自分の顔も変だろうなと想像したりするうちに、だんだん本気で笑ってしまうというのです。

「笑う」という動作は、喜びや楽しさ、滑稽さやおもしろさなどの感情が心のなかにこみ上げてくること。脳から表情筋に対して「動け」と命令が行き、引き起こされるのだそうです。

しかし「笑い講」は、逆方向で成り立っているわけです。おもしろくなくても大笑いするうちに楽しくなり、連体感にまでつながってしまうということ。

「笑い講」で使うのは、とびきり大きなスマイル。なぜなら相手と「ここはひとつ、一気に仲よくなろう」というときに、小さなスマイルでは不十分だから。

ケラケラと笑う、あるいはおなかを押さえて笑い転げるくらいの大きなスマイルが有効だということです。

笑っているうちに気持ちも楽しくなり、さらに笑いが広がるということ。

いってみれば、「笑い」と「楽しい気持ち」は、いつもワンセットなのです。

他にも本書では、相手と共有関係を築くために必要なコツが数多く紹介されています。どれもすぐに試せることばかりなので、きっと役に立つはずです。

(文/作家、書評家・印南敦史)

 

【参考】

※佐藤綾子(2016)『できる大人の「見た目」と「話し方」』ディスカヴァー・トゥエンティワン