試合終了のホイッスルが鳴り響くと、ラジャマンガラ・スタジアムに拍手が起こった。僕が座っていたメインスタンド左──タイのベンチの斜め裏側は、拍手に包まれた。スタジアム全体がそうだったとは言い切れないが、少なくともブーイングは聞こえてこなかった。タイのファン・サポーターにとって、受け入れがたい結果ではなかったのだろう。

 9月6日に行なわれた日本対タイ戦は、2対0の勝利に終わった。タイにはメッシがいて、中村俊輔もいて、かつて“タイのジーコ”と呼ばれた監督は試合前に不敵な笑みを浮かべ、6万人を超える観衆がアウェイの雰囲気を作り出すとのことだったが、日本が負ける相手ではなかった。

 危機感を煽る報道が悪いとは言わないし、試合前の日本に明るい材料を見つけるのが難しかったのは事実だ。それにしても、今回は大げさだった気がする。ラジャマンガラの友好的な雰囲気を完全アウェイと書いたら、サウジアラビアやオーストラリアでのアウェイゲームはどうなってしまうのか。

 日本の決定力不足は、ちょっと深刻なレベルにある。このままでは、いつまで経ってもケチャップの蓋は開かないままだ。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、誰に点を取らせようとしているのだろう。

 普通に考えれば、4−2−3−1のシステムで1トップを務める選手に、点を取らせたいはずである。UAE戦なら岡崎慎司で、タイ戦なら浅野拓磨だ。

 ならば、UAE戦の岡崎はたくさんのチャンスに恵まれたのか。そうではない。シュートに持ち込めるシーンこそあったが、彼らしい泥臭さを発揮できる場面はなかった。守備側から見れば、岡崎の怖さを感じなかったと言える。

 タイ戦の浅野はどうだったか。長谷部のタテパスをゴールへ結びつけた場面は、持ち味のスピードが生かされたものだった。それ以外に、決定的なシーンがどれだけあったか。UAE戦の岡崎と同じように、決して多くはない。

 2列目のタレントを生かす意味でも、ハリルホジッチ監督は「どこからでも点の取れるチーム」を作ろうとしているように感じる。その変わりに、ストライカーが相手守備陣にもたらす脅威度が削がれていないだろうか。岡崎や浅野にどうやって点を取らせるのかという逆算から、攻撃が組み立てられていないのだ。

 ストライカーが点を取ると、チームに勢いが生まれると言われる。ストライカー自身も波に乗る、と。

 ピッチ上に映し出される具体的な現象としては、点を取ったストライカーの動きが鋭くなり、相手守備陣にストレスがかかる。たとえば、強引にでもシュートへ持ち込み、GKが弾いたボールを2列目の選手が押し込む形が生まれる。積極的な仕掛けが、ペナルティエリア付近でのファウルを誘うこともあるだろう。

 こぼれ球を難なくプッシュすればゴールというシーンや、直接FKからゴールを狙う機会が少ないのは、ストライカーを生かしていないからでもある。

 日本にメッシはいないし、中村俊輔は代表を去った。ジーコもベンチにはいないが、日本人選手のスキルはアジアでトップクラスである。個々の攻撃性能は確かなレベルにある。

 だとすれば、ハリルホジッチ監督は選手の能力を引き出せていない、との批判は避けられない。タイに勝ってひとまず危機は去ったが、負けられない試合はこれからも続いていく。そして、拮抗したゲームをしぶとくモノにしていく勝負強さは、依然として取り戻せていないままである。