山本耕史「舞台は自分を試すチェックポイント」――問題作『マハゴニー市の興亡』に挑む
NHK大河ドラマ『真田丸』では圧倒的な存在感で石田三成を演じ、視聴者の心を掴んで離さない。さまざまな映像作品で活躍する山本耕史は、一方で「舞台こそ、自分のいるべき場所」と言い切る。そんな彼がこの秋に挑むのは、過去にナチスが上演を禁止し、日本でもほとんど上演例のない『マハゴニー市の興亡』。現代社会への警句とも言われる難解な作品に挑む山本に、現在の心境を聞いた。

撮影/伊藤大介 取材・文/江尻亜由子

演出家・白井 晃への絶大なる信頼



――舞台『マハゴニー市の興亡』への出演を決めた最大の理由は、演出の白井 晃さんとの信頼関係だそうで。

そうです。白井さんが演出されるということだったので「じゃあ、やります」と。

――それはどういうことなんでしょう?
 
僕、白井さんと初めてお会いしたのが17歳のときで。『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』って、それもまた難しい作品だったんですけど。

――当時は、俳優同士での共演ですよね。

そうです。そのときに、体育会系な先輩方がたくさんいるなかで、白井さんだけがすごくジェントルだったんですよね。僕ね、体育会系の人って、ちょっと苦手なんです(笑)。アメとムチじゃないけど、無駄に厳しく接したりとかするじゃないですか。それが芝居にいい影響を与えるとは、あんまり感じないんですよね。その中で、白井さんだけがホントにジェントルで。

――そういう姿が印象的だったんですね。

こういう人って好きだなぁと思ってね。それから、いろんな作品で一緒になったりして……で、僕が25歳のときに、フィリップ・リドリー作の『ピッチフォーク・ディズニー』で、初めて白井さんの演出を受けたんです。

――今度は、演出家と俳優という関係に。

それまでは俳優の白井 晃さんという印象だったんだけど、作り手の、演出家としての白井さんはこういう顔なんだ、と思ったんですよね。すごく丁寧で、ものすごく探求心があって、演劇に対する諦めない執着心というかね。こう聞くと面倒くさそうですけど(笑)。僕自身は、没頭するタイプではないんです。

――そうなんですか?

でも白井さんのそういう姿を見ていると、何を見ようとしてどこに向かっているんだろう?その先に何があるんだろう?っていうところを見たくなるんですよ、一緒に。だから僕は、作品自体に没頭しているというよりは、白井さんのことを見て、白井さんが求めているものをいち早く見つけ出すことをしたいんです。

――白井さんと山本さんは、実は全然違うタイプなんですね。

そう。それなのに、一緒に作業していて面白いというか。しかも白井さんとやっていると、必ず見つかるっていうかね。『Lost Memory Theatre』って2年前にやった作品もそうなんですけど、どういうものになるのかわからない作品って、俳優としては非常に怖いんですよ。ただ、全然わからないけど何かしらいい作品になるんだろうなっていうカンが、僕の中にありまして。

――音楽家の三宅 純さんが2013年にリリースしたアルバム『Lost Memory Theatre』を舞台化するという、挑戦的な試みでした。

で、まぁ稽古も、何を稽古したらいいかわからないような状況だったんですけど(笑)、白井さんは「こんなことをやってみようか」っていうのが明確にあって。「なるほど、じゃあこう演じてみましょうか」っていう、僕の俳優としてのパフォーマンスがあって。そのすり合わせにより道が拓けて行く。その道が正しい、正しくないは別にして、白井さんと僕が思う道になっていくんです。まぁ一筋縄ではいかないんですけどね。

――今回の『マハゴニー市の興亡』は、欲望だけが支配する街・マハゴニーの隆盛と衰退を描く物語。舞台上に「マハゴニー市民席」という客席を作り、観客も市民として作品に参加するという試みも斬新です。

そういう演出に加えて、(音楽監督のスガダイローさんによる)新たなジャズのアレンジとか、今の時代の若い振り付けの女性(Ruuさん)が参加するだとか。それが、中尾ミエさん、上條恒彦さん、古谷一行さんといったベテランのみなさんの演技にプラスされていく、振り幅が広い作品になると思います。デキる人たちが集まって、すごく難易度の高いことをやろうとしているっていうのは間違いがないですよね。

――山本さんが演じる青年のジムは快楽を求め、酒や女、ギャンブルといった欲望が渦巻く街にやってきます。出演を決める際には、そういった内容や役柄は先に聞かれるんですか?

聞かないですね。『三文オペラ』を作ったブレヒトとヴァイルの作品なんだなーっていうくらい。少しは調べましたけど、台本を見てみないとどうせわかんないし、白井さんにゆだねればいいかって(笑)。



エネルギーを発散するのではなく、あえて…



――では実際に台本を読み、稽古に入られて。作品全体にどういう印象を抱かれましたか?

なんかねぇ……。ふたりの僕がいるとして、ひとりの僕は、まったくわけわかんないんですよ(笑)。これは一体、何をしてるんだろう?って。

――(笑)。

もうひとりの僕も、わけはわかってないんだけど、自分が出てないシーンを端から観ていたら、なんかヘンなオーラを感じたんです。「何なんだろう、この不思議な感じは」「もしかしたら、スゴいことになるんじゃないか」みたいな印象を受けたんですよ。それはでも、もうひとりの「まったくわかんない」って言ってるほうの僕も、感じてるんですよね(笑)。 

――わからないけど、なんだかスゴい…?

たとえば「気持ちいい」でも「気持ち悪い」でも、「スゴい」でも「スゴくない」でも、「二度と観たくない」でも「もう1回観に行きたい」でもいいんだけど、何らかのインパクトを残せないとダメだと思うんです。「がんばってたね」とかじゃなくて(笑)。

――確かに、そうですね。

だから、そういう何かしらのオーラを感じたってことは、そこに道筋があるんだろうなと。その答えをつかんだときの喜びも、つかまないままもがく在り方っていうのも、白井さんに経験させてもらったので。

――つかまないまま、もがく在り方…?

『Lost Memory Theatre』のとき、「何もやってないのに大丈夫なのかな?」って思いながら舞台に立ったんですけど、逆にその「何もしてない」のがいいんだって思ったんです。俳優ってもっと、自分からやらなきゃいけないものだと思っていたんですけど、エネルギーを発散して出すだけが見せ方ではなく、温存というか、ずっと溜めるという方法もあるんじゃないかなと。

――溜める…?

俺たちがエネルギーを出して、お客さんがそれを吸うっていう考えもあるんだけど、実は観ている人たちがエネルギーを出していて、僕らがそれを吸い取るっていう考えもあるんだなって。今回はそれとはまた違う作品なんだけど、もしかしたらそういうシーンもあるんじゃないかなって、ちょっと思うんですよね。

――なるほど。

無理にわかろうとして、やりすぎてることってすごく多いなと思って。僕ら俳優って、やるからには何か…!って思っちゃいがちなんだけど、学生時代だって、いくら勉強してもテストの点数が上がらないことはあったしね(笑)。やりゃあいいっていうもんじゃないことを、白井さんに経験させてもらったから。

――白井さんとの信頼関係が築かれているからこそ、ですよね。演出家によっては、山本さんの取り組み方も変わってくるんですか?

あははは、もちろん。稽古初日に「あ、この演出家はヤバい」って思ったら、その人の話は聞いてるフリだけしてほとんど聞かず、全部自分で決めちゃいますよ(笑)。でも今回はそうじゃないので。白井さんに、そしてこの作品に身を任せている状態です。



歌も英語もギターも…「習うより慣れろ」



――本作は音楽劇ということで、歌のシーンもたくさんありますよね。舞台での山本さんの歌唱力には定評がありますが、ボイストレーニングをされたことがないと伺いました。

僕の歌なんて、そんなたいそうなもんじゃないですけど…。でも確かに、ボイストレーニングをしたことはないですね。

――独自のトレーニング法を見つけられたということですか?

そういうわけでもなくて。僕ね、歌がまったく歌えなかった人が、習ったことでものすごく上手くなること、たぶんないと思うんですよ。

――(笑)。才能の面が大きい、と…?

いや、そう言うとなんだか誤解を招きそうですけど(笑)。もともと歌は好きだし、「下手!」って言われたこともないし。だからこそ「もっと上手くなろう」って思って習ったこともないし。習ったところで……ねぇ。逆に、習ったことでものすごく上手くなった!っていう人も、あんまり見たことがないんですよね。あくまで僕の見方なんですけど。

――そうなんですね。

人間って、習うことで安心するでしょ。僕、英語がそんなにペラペラなわけじゃないけど、人に習っても全然ダメだったのが、自分でやったらものすごく上達したんです。それから僕はギターも弾くんだけど、レコーディングで「こう弾いてください」って言われるとうまくできないのが、自分で考えて弾くとできたりするんですよ。

――なるほど。「習うより慣れろ」ということですね。

ボイストレーナーに「お腹をおさえて、こう」とか指導されるんだったら、自分で気持ちよく発声したほうがいいんじゃないかと思うし。僕が以前、演出をやったときに、出演者の男の子が歌う箇所で高いキーがあって。その子の声を聞いてると、出るはずの音域なんですよ。でも、声を出すことを怖がっていた。

――その人に対して、山本さんはどう指導を…?

たぶんボイストレーナーは「ここから音を抜いて、こう声を出して」みたいに教えるんだろうけど、僕は「家に帰ったら、喉をつぶしてもいいから、布団をかぶってその音を出し続けてみて」って言ったんです。そしたら、すぐ出るようになったの。要するに「声を枯らしてもいいから」って言ってあげたことで、怖がらず高い音を出せるようになったんだよね。

――枯らしても大丈夫なものなんですか?

喉は筋肉だからね、やればやるだけ強くなるわけですよ。声なんて枯らせばいいのにって僕は思うんだけど。声を枯らさないで高い音を出しましょうって、それは、筋肉を使わないように100kg持ち上げましょう、みたいなこと。そんなの不可能だから。

――なるほど…!

筋肉を使わないように声を出そうとするから、発声法がみんな似てくる。だから僕は、個性的に声を使うなら、どんどん喉を使うほうがいいと思ってるんだけど、それが全員にあてはまるかはわからない(笑)。

――言われている方法を鵜呑みにしないで、自分で考えることが大事なんですね。

僕はただ「ホント?」って思うことを、やりたくないだけなんです。お芝居も「こうやってみて」って言われると、「じゃあ俺より上手くできるの? 先にやってみて」って思うしね(笑)。



ごまかしが利かない、本質が問われる場所



――山本さんは映像でも幅広くご活躍されていますが、一方で「舞台こそ、自分のいるべき場所」だとおっしゃっていますよね。

もともとの出発点というか、自分が大人たちに囲まれてスゴい世界にいるなって思ったのは、やっぱり舞台なんですよ。

――10歳のときの『レ・ミゼラブル』が舞台デビューですもんね。

そう。そこで、大人たちが本気で芝居に打ち込んでいて、泣いたり笑ったりしながら過ごしている。じゃあ映像は違うのかっていうと、そんなことはないんだけども。俳優ひとりが自分のカラダで何かを表現している場として、舞台は職人の場所なんだなって思うんですよね。

――ごまかしが利かないのは、観客として観ていてもわかります。

そう、ごまかしが利かない。テレビではわからない実力が、舞台だとすぐわかったりしますよね。たとえば、テレビではいい味出してるって言われている人が、舞台に上がった瞬間に、声が全然届かなかったりとか。

――舞台では、その人の実力がすべてあらわになるという。

そう、だから舞台に立ち続けないと、俳優としての筋力が衰えるんじゃないかって。テレビばっかりだと、テレビでの技術は磨かれるかもしれないけど、根本的な力強さみたいな、地に足がついてる感じというか、そういうものが衰えるような気がするんですよね。

――なるほど。

そういう意味でも、舞台ってそのときの自分を測るというか、試すためのチェックポイントでもあるんです。年を取ったから「あ、これがキツくなってる」と思うこともあるし、若い頃よりも、息づかいとかいろんな技術が身に付いていて、「あのときよりも動けるようになってる」って気づくこともあるし。だから舞台に立ち続けることは、自分にとってとても大事だなと思っています。



【プロフィール】
山本耕史(やまもと・こうじ)/1976年10月31日生まれ。東京都出身。B型。0歳の頃からモデルとして活動し、10歳のときに『レ・ミゼラブル』で初舞台を踏む。以降、数々の舞台に出演するほか、映像へと活躍の場を広げ、2004年のNHK大河ドラマ『新選組!』では土方歳三役を演じ、実力派俳優として人気と知名度が飛躍的に上昇。昨年のNHK連続テレビ小説『あさが来た』に同役で登場し、「待たせたな」のセリフでファンを歓喜させたことは記憶に新しい。


■舞台『マハゴニー市の興亡』
http://www.mahagonny.jp/


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