東北医科薬科大学キャンパス

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 2016年4月、東北医科薬科大学に医学部が開学した。なぜ、37年ぶりの医学部新設が実現したのか。そこには東北地方に根差した医療問題があった。週刊朝日ムック『医学部に入る 2017』で、「新設」医学部が日本の医療に果たしうる役割とその可能性を探った。

 医学部が新設される背景には、「医師不足」の問題が大きく重なる。

 1979年の琉球大学医学部設立以来、医学部新設は見送られてきた。医療費膨張の懸念などから、医師数を抑制するためだ。だが、2000年代に入ってから患者のたらい回しや医療事故が相次ぎ、医師不足が顕在化。「医療崩壊」が叫ばれるようになり、政府は06年に新医師確保総合対策を、07年に緊急医師確保対策を決定。08年から医学部定員の増加策が始まった。

 09年、時の民主党が、医師養成の質と数の拡充を図るべく、「経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の平均的な人口当たり医師数(当時、人口1千人当たり医師3.1人)を目指す」と提言。「大学医学部定員を1.5倍にする」と公約を掲げ、政権交代を果たした。その後、10年に文部科学省が医学部新設の方向性を打ち出した。

 民主党政権は12年に崩壊したものの、安倍政権が13年、東日本大震災の復興目的で医学部新設の方針を表明。16年4月に東北医科薬科大学医学部の開学を迎え、37年ぶりに医学部が新設された。

 医学部の定員は、16年までの9年間で1637人増えた。この数は、17医学部の新設に相当する。

 とはいえ、日本は先進7カ国(G7)のなかで人口1千人当たりの医師数が最も少なく、医師不足は、当面続くとみられる。

 そんななか、「異論」もわき起こる。25年には医師数がOECD平均並みになるとして、「医学部新設=医師数増加」に反対する声が、医療界を代表する重鎮から上がったのだ。翻って、新設推進派は医師数がOECD平均に達しても、将来的な医師数が充足することはないと主張している。

 なぜ、主張が分かれるのか。焦点は、人口動態と需給バランスにある。前述のとおり、25年には医師数がOECD平均並みになり、人口が減少していく社会で供給過剰になる、というのが医療界の主張だ。

 だが、東京大学の研究グループが、日本医療を予測した論文(12年発表)によると、総人口は、10年の1億2700万人から35年の1億1千万人へと13%減少。35年には65歳以上の高齢者が総人口の39%を占め、日本は人類史上前例のない高齢化社会を迎える。さらに総死亡者数は、10年から35年の25年間で42%増加する。75歳未満の死亡者数が28%減少する一方、75歳以上の死亡者数は88%増加するので、後期高齢者の看取りは現在のおよそ2倍になると目される。

 医師数はどうか。35年までに27.1万人(10年)から39.7万人と46%も増加する。ただ、「現役世代」である60歳未満の医師数は21.6万人から25.5万人の18%増加にとどまる一方で、60歳以上の医師数は5.5万人から14.1万人へと155%増加。つまり、医師数は増加するが、高齢医師の増加分がきわめて大きくなることがわかる。高齢者が高齢者を診る「老老医療」の時代が到来するのだ。

 現在、日本人の78.4%は病院で死亡している。在宅医療の普及が望まれるが、入院患者が劇的に減少する見通しは立っていない。総死亡者数が42%増加したとき、はたして医療現場は耐えられるだろうか。加えて、現役世代の医師数は18%しか増えないのであれば、医師の需給バランスが取れているとは言い難い。

 医療界は、医師が都市部に集中して地方に根差していない“偏在”が問題だとし、この解決を強く望んでいる。しかし、医師の「選択の自由」を認めている以上、早期に解決するめどは立たない。

 新設反対派の主張のなかには、医学部定員の増加で学生の質が低下したとの声もあるが、医師不足に伴って教員も不足しがちとの指摘もある。

 医師不足に伴い、医療現場が疲弊しているとの声も上がっている。もっとも、医師不足の“ツケ”を本当に払わされているのは一般市民だ。医学部新設と医師数をめぐる問題について、国民的な議論が必要なのかもしれない。(文・加藤弥)

※週刊朝日ムック『医学部に入る 2017』より