9月5日、「2019年ラグビーワールドカップ」で日本代表を率いるジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)の就任会見が行なわれた。就任は今年1月に内定していたが、スーパーラグビーのハイランダーズの指揮官を務めていた関係で、9月まで来日がずれ込んでいた。

 現役時代は豪快な突破力で、ニュージーランド代表のFWとして活躍。身長196cm・体重100kgを超す大柄な体格は、今も変わらない。ニュージーランドの先住民族であるマオリの血を引く彫りの深い顔が特徴的だが、この日のジョセフHCは、やや緊張した面持ちで会見場に入ってきた。そして、100人を超すメディアに対し、まっすぐ前を向いての第一声は、「こんにちは、みなさん。ジョセフでございます。ありがとうございます」。開口一番、ジョセフHCは流暢な日本語を披露した。

 それもそのはず、ジョセフHCは1995年から2000年まで、福岡県宗像(むなかた)市に本拠地を置くサニックス(現・宗像サニックスブルース)でプレーし、1999年のワールドカップは日本代表として出場(当時は2つ、3つの国にまたがって代表になることができた)。桜のジャージを着て、国際試合に9試合出場した経歴の持ち主だ。

 いわば、ジョセフHCにとって、日本は第二の故郷。現役を引退した後も、サニックスのアドバイザーなどを務めていた。2015年にハイランダーズをスーパーラグビー初優勝に導き、ニュージーランド代表の次期指揮官候補のひとりと評されるも、「日本が大好き。日本食は何でも好き」だったことが、日本代表HC就任へ彼の背中を押したひとつの要因となった。

 会見時、「奥さんと(4人の)子どもは日本に来るのか?」と日本語で聞かれても、「2週間(後)」と即答。ハイランダーズで4年間、薫陶(くんとう)を受けてきた日本代表SH(スクラムハーフ)田中史朗は、「ジェイミーの日本語は、エディー(・ジョーンズ前日本代表HC/現イングランド代表HC)より上手」と言っていたが、まさにそのとおりのようだ。

 サニックス時代に戦ったことのある元日本代表選手にジョセフHCとの思い出を聞くと、「お互いに熱くなってイエローカードをもらった」という。また、ニュージーランドの国内リーグでも常にライバルとして戦ってきたNTTコミュニケーションズのロブ・ペニーHCは、「彼はグッドマンですし、情熱的なコーチです。他の人と関係性を築くのがうまい」と、ジョセフHCの人柄を語ってくれた。

 対話を好むスタイルは、自分の信念と指導理論に基づき、強力なリーダーシップでチームを引っ張ったジョーンズ前日本代表HCとは、やや対照的に映る。会見に同席した日本ラグビー協会の坂本典幸専務理事は、「(ジョセフHCが)選手と対話を重ねて、そのなかで個々の選手のブランディングを作り、チームを作っていく」手腕を高く評価しているという。9月1日に来日し、すでにトップリーグの視察などを行なっているジョセフHCは、「2〜3週間かけて、トップリーグの各チームのコーチや選手に会っていきたい」と語り、今週から本格的に始動することを明言した。

 そしてもうひとつ、ジョセフHCが日本代表のヘッドコーチに選ばれた理由として、世界のラグビー界やさまざまなコーチとの人脈を持っていることも挙げられる。ワールドカップにはニュージーランド代表と日本代表で出場し、指導者になったあともマオリ・オールブラックスを率いてイングランド代表やアイルランド代表に勝利し、2011年からはハイランダーズを6年間率いてきた実績がある。前出の田中は、「人徳があり、スマートで、いろんなスタッフを連れてくることができる。日本代表にとってはプラスにしかならない」と断言する。

「プロのコーチとして12〜13年のキャリアがありますが、そのときに培った知識を日本で活かしていきたい」と、ジョセフHCは言う。ただ、彼のコーチングキャリアは、決して順風満帆だったわけではない。2013年のスーパーラグビーでは、優勝候補の一角と見られていたハイランダーズを14位という結果で終えている(それでもクビにならなかったのは彼の人徳であろう)。

 しかし翌年、三洋電機(現パナソニック)で活躍したトニー・ブラウンをアシスタントコーチに迎えると、エディー・ジャパン時代に日本代表のスクラムコーチだったマルク・ダルマゾもスポットコーチとして招聘。さらに、2014年の秋には日本代表やパナソニックの合宿も視察し、研鑽を積んだ。その結果が、2015年のスーパーラグビー初優勝に結びついたことは間違いない。

 そのブラウンは、11月にはアタックコーチとして一時的に日本代表に加わる。ジョセフHCも、「(私の)かたわらには日本を熟知しているブラウンという非常に有能なアタッキングコーチがいる」と語るように、ハイランダーズと同じく彼とのコンビで日本代表を強化していく予定だ。よって、新しい日本代表のベースは、FWのハードワークを前提として、キックをうまく使いながらボールを広く使うことに主眼が置かれるだろう。

「ラグビーの試合では、戦術が重要になってくる。相手との違いをあぶり出し、いかに強みを作ってそれを出していくか。我々のスタイルがどんなものか、話していかないといけない」(ジョセフHC)

 日本代表の新たな方向性を述べたあと、「ジョーンズ前HCと会ったか?」という質問をされたとき、ジョセフHCの負けん気、自負が顔を出した。ちょうど同じタイミングでジョーンズ前HCが来日していたため、旧知の関係のふたりは会って情報交換をしたという。

 その質問に対し、ジョセフHCはこう返した。

「私はエディー・ジョーンズではないので、彼がやってきたことはそのままやらない。自分の思ったこと、自分のゲームプランをやっていく。過去を踏まえたうえで、勝つために、アドバンテージを創出できるように考えていきたい」

 今回の就任会見で新ヘッドコーチは、「2019年のワールドカップにターゲットを置いている」という言葉だけにとどめ、明確な目標を明言することは避けた。だが、男子15人制日本代表の強化担当者である薫田真広氏は、「前回大会以上」と述べており、実際の目標はW杯ベスト8以上であるだろう。

 このゴールを実現するため、ジョセフHCは日本代表の指揮官を務めるだけでなく、スーパーラグビーのサンウルブズ、アジアの大会に出場するジュニアジャパン(日本代表に準ずる代表チーム)、U20日本代表を総括的に強化する「チームジャパン2019」の総監督にも任命された。これらのチームが統一感を持ち、同じ戦術や方向性で戦うことには大きな意義があるはずだ。

 日本代表は今年11月、アルゼンチン戦、ジョージア戦、ウェールズ戦、フィジー戦と、いずれも格上の相手との4連戦が待ち受けている。ジョセフHCは、「11月のテストマッチにフォーカスし、終わったら、全体的に日本ラグビーをもっと強くしていくにはどうしたらいいか考えていきたい」という。ハードな4連戦となるだろうが、まずは新ヘッドコーチの腕の見せどころである。

 マオリの血を引き、オールブラックスと日本代表の両チームでジャージを着てワールドカップに出場した46歳。ジェイミー・ジョセフHCは2019年のワールドカップを成功に導くことができるだろうか。

斉藤健仁●取材・文 text by Saito Kenji