ネットニュース編集者の中川淳一郎氏

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 ネットで盛り上がっても、現実の世界には反映されづらいとよく言われる。ところが、最近ではそうとも言い切れない事象が起きつつある。不誠実な販売方法によってネットで炎上、株価が半値以下に急落した企業もあれば、ネット選挙解禁で落選運動への効果を発揮した例もある。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、「所詮ネットだから…」と軽視しないほうがよい事象について紹介する。

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 東京都議会の川井しげお議長(自民党・68)が、ネットで取り沙汰されるようになっている。都議なんて一体誰がいるのやらよく分からないが、小池百合子新知事誕生に伴い、「最も有名な都議」の一人に躍り出た。

 川井氏が名を馳せたのは何といっても小池氏が挨拶に行った際、「知事と議会は両輪です。一輪車にならないように」と訓示めいたものを与え、写真撮影を拒否する大人げない行動に出た時のこと。

 この段階でネットは沸騰! 上質のヒール(悪玉)登場に色めき立った。その後も川井氏は東京パラリンピック関連イベントで小池氏と目を合わせず会釈さえしない。小池氏からは川井氏に会釈をしたり、挨拶に出向いたりしているだけに、ネット民から見ると、川井氏が単に偏屈なクソジジイであるといった印象になっている。

 となれば、ネットで発生するのが来年夏の東京都議選での川井氏に対する落選運動である。2013年の都議選で中野区から出馬した川井氏は2万8832票を獲得しトップ当選。5位の落選者が1万1693票なだけに盤石ではあるが、今後も「小池いじめ」を続けると、中野選挙区が途端にネットではアツく注目されることとなるだろう。とにかく今、「川井×落選」で検索をかけると出るわ出るわ。

〈利権の塊内田茂と川井議長は、来年の都議会議員選挙で落選させるべし〉
〈川井議長の大人気ない行動に理解出来ません。みんなで落選させましょう! それが国民のためです〉

 メディアの側も、「大人げない川井VS大人な小池」というストーリーを繰り出し、その都度ネットで川井氏叩きが始まるという構図が誕生した。9月28日から始まる都議会でも川井氏の一挙手一投足が注目され、態度を変えぬ限り落選運動が盛り上がることだろう。

 2013年の参議院選挙から「ネット選挙」が解禁されたが、私が唯一効果があったと考える落選運動がこの時発生した。それは改選定数「2(当時)」の宮城選挙区での岡崎トミ子(民主党)VS和田政宗(みんなの党)だ。

 この選挙区は自民党の愛知治郎氏が圧倒的に勝てる状況で2位争いは岡崎氏が優勢と見られていた。だからこそ和田氏は2位を狙い、元国家公安委員長でもある岡崎氏が、かつて元慰安婦支援団体がソウルの日本大使館前で開催した反日デモに参加した写真を紹介。これにネットが沸騰し落選運動が開始。最終的には和田氏が5000票差で勝利したのだ。その頃岡崎氏の名前を検索すると「売国奴」や「反日」といったキーワードが並び、岡崎氏に票を投じるのを躊躇した効果はあったのだ。

 川井氏の側は「どーせワシは地盤がしっかりしてるんで、ネットのバカどもが大騒ぎしてもどーってこたぁない」とナメていることだろう。しかし、将来的に川井氏の弟子筋やら親族が地盤を継ぐ時、「あの小池百合子恫喝ジジイの親族らしいぜ」ってな話になり、選挙民の中心がネット世代になったらどうなるか。そこは甘く見ない方がいい。

●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。

※週刊ポスト2016年9月16・23日号