『文豪アクト』(真崎福太郎/徳間書店)

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 「役者」という生きものは、不思議だ。ドラマや映画、舞台の世界で生きる彼らは、誰よりも人間の感情というものを豊かに表現する。時に狂気的であったり、時に絶望的であったり、それは観客を圧倒し、あっという間に心を奪ってしまう魅力を持っているのだ。一方で、普段の彼らは控えめだったり、不器用だったりもする。ライターという仕事をしていると、役者さんにインタビューする機会も多く、そのギャップに驚かされることもしばしば。そしてあらためて、「演じること」の凄まじさを痛感させられるのだ。

 このたび登場した『文豪アクト』(真崎福太郎/徳間書店)は、高校演劇部を舞台に、芝居にスポットライトを当てた作品だ。描かれるのは、演劇に情熱を捧げる高校生たちの青春。自分たちの「表現」に向かってひたむきに走り続ける彼らは、決してスマートではなく泥臭い。しかし、それがなによりも読者の心を揺さぶるのだ。

 主人公は、高校2年生の八熊太平。クラスメイトから「二児の父親らしい」「昭和生まれらしい」などと噂され、陰で「文豪」と呼ばれるような威厳のある顔立ちである(本人はそれを「老け顔」と自嘲しているが)。そんな彼の趣味は、物語を執筆すること。とはいえ、みんなが噂するように彼が書いているのは小説ではなく、セリフの掛け合いとト書きで構成される「脚本」なのだ。

 けれど八熊は、自らの脚本で舞台に立ちたいわけではない。いや、むしろそんなことをすれば、ただの笑いものになることなんてわかりきっている。それでも彼は、自身の中に眠る表現欲求を抑えることができず、たったひとつの脚本で人生が変わった映画スターに憧れ、自分自身を変えるために脚本を書き続けているのだ。

 そんな彼の前に現れたのが、ゲリラ演劇部を立ち上げた鶴舞翔子、金城ユカ、荒畑凪子の3人。そして彼女たちが部員募集のために打った一芝居に騙され、彼は半ば強制的に入部させられることになる。しかし、彼女らが立ち上げたのは、あくまでもゲリラ的な部活動。つまり、正式に認められているものではない。それはなぜかというと、もうすでに正式な演劇部は存在しているから。そして、彼女たちはそこからゴミみたいに追い出され、一矢報いるために新しい部活動を立ち上げたのだ。

 そこに立ちはだかるのは、正式な演劇部を率いる立田佐織。彼女は自分の芝居のためならば、後輩たちの努力すら無駄にしてしまう容赦ない人物だ。そんな彼女に宣戦布告をしたゲリラ演劇部、そして八熊。果たして彼らは、観客の心を奪うような演劇を作り上げることができるのか。容姿に対するコンプレックスを抱えた八熊は、演劇を通じて生まれ変わることができるのか。「演じること」をとことんまで追求する彼らの姿からは、現実の役者さんも抱いているであろう情熱や想いを感じとることができる。

 ちなみに、本作の作者・真崎さんは演劇部出身とのこと。なるほど、作中の彼らが妙にリアルで生き生きとしているのは、作者自身の経験が活かされているからなのだろう。ということで、幕を開けた『文豪アクト』。その終幕がどうなるのかを予想しながら、彼らの青春を追いかけてみてほしい。

文=五十嵐 大