ブロックチェーンは「あらゆる人の未来」を変える、という話

写真拡大

「ブロックチェーン」は、いまや公共サーヴィスから会社経営にまで応用されようとしている。インターネットに次ぐこの革命的テクノロジーは、どんな未来をもたらすのか?

「ブロックチェーンは「あらゆる人の未来」を変える、という話」の写真・リンク付きの記事はこちら

INFORMATION

10/19開催! オルタナティヴな未来を考える1dayカンファレンス「FUTURE DAYS」

ビジネス+カルチャー+テックのオルタナティヴな未来を夢想・構想する越境型カンファレンス、WIRED CONFERENCE 2016「Future Days」は10/19開催! 人工知能、ブロックチェーン、IoT…。新たなテクノロジーがもたらす可能性を語り、いまとは決定的に異なった「未来の日々=Future Days」を夢見る1日。

リーアン・ケンプは、ブロックチェーンを犯罪と戦うために使っている。

暗号通貨ビットコインの運営に用いられるブロックチェーンは、ドラッグの売買やランサムウェアの身代金支払いといった悪い活動を連想させがちだ。しかし、彼女が創業したEverledgerの場合は、そうではない。

デジタル台帳の可能性

Everledgerは、ブロックチェーンの技術をダイヤモンドの所有権のトラッキングに用いている。同社がブロックチェーンで可能にしているのは、貿易業者や保険業者がダイヤの出所を監視すること、そして盗品や紛争地域のダイヤを見つけ出すことだ。

これまでに858,890個のダイヤモンドが、Everledgerの台帳に記録されてきた。ダイヤは一つひとつスキャンされ、40の特徴が割り出される。そして、その特徴はケンプが言うところの「ダイヤのデジタル指紋」としてまとめられる。

その固有IDはダイヤの持ち主が変わるたびに移動するが、所有者のデジタル履歴データは改変不可能なまま残るため、必要とあらば最初の持ち主までたどることができる。

Institute for the Futureが作成したブロックチェーンを説明する動画。

Everledgerは宝石取引のためのもっと小規模でプライヴェートなブロックチェーンの構築も行っており、同社がいままでに受けてきた融資は50万ポンド(約7,000万円)に上る。

宝石取引とコンピューターテクノロジーの両方に明るいケンプは、ブロックチェーンのモデルをダイヤモンド以外にも美術品や時計、高級車などの商品に応用できる考えている。このように、モノの来歴を確認する確実な方法が発見されたことの意義は計り知れない。彼女は、次のように語る。

「このテクノロジーは、非常に大きな問題を解決する足がかりになるかもしれません。象牙の密猟、紛争ダイヤモンドなど、カルテル(独占目的でつくられる企業連合)やテロリスト、犯罪者に利益をもたらしうるあらゆる問題に対応できるのです」

アナーキストの保証人

ケンプが初めてビットコインについて聞いたとき、新しい通貨のかたちとしてのその潜在能力には惹かれなかった。彼女の関心の対象は、ブロックチェーンそのものだった。「ビットコインを知ったとき、台帳を通貨そのものと切り離して考えるのは自然なことでした」と彼女は言う。

マニアたちは、ビットコインの価格を極限まで高騰させた。しかし同時に、彼らはこの暗号通貨の不安定さに直面し、ビットコインの勢いは失われていった。だが、ブロックチェーンにはまだ可能性が秘められている。

サトシ・ナカモトが2008年にビットコインを発明したときに描いていた無政府主義・自由主義的なアイデアは、「人々が電子通貨を直接やり取りできるようにする」というものだった。

彼のモデルは、中央銀行や政府、ペイパルなどの企業といった、資本取引の番人として振舞う組織を不要な存在にした。ブロックチェーン、つまりコンピューターやノードの巨大なネットワークを行きかう取引をすべて記録する台帳が、ビットコインの「保証人」となるのである。

台帳は公開されていて、誰でもチェックすることができ、またその内容は何千台ものコンピューターによって集合的に更新される。一部のコンピューターは大きなマシンパワーを投じて、複数の取引をタイムスタンプつきのブロックへとまとめている。このプロセスが「マイニング」と呼ばれるものだ。

変容と応用

ブロックチェーンは金のやり取りのために考え出されたシステムではあるが、安全性・分散性・透明性といった特徴から、ほかの数多くの業界でも注目を集めてきた。ギリシャやエストニアといった国の政府も、役所の仕事を高速化し、不正を防止するのにブロックチェーンを活用できるかもしれないと考えている。

イギリス政府の主席科学顧問が発表した2016年のレポート(PDF)では、ブロックチェーンは徴税、福祉の給付、パスポートの発行や不動産登記といった業務で政府の役に立ち、「政府の記録管理とサーヴィスの完全性を広く保証する」可能性をもつと主張されている。

いまやブロックチェーン革命の標的だった銀行までもが、国境を越えた銀行間の資金移動を効率化するため、R3などとともに、ブロックチェーン技術を用いたプライヴェートでクローズドな台帳を構築している。

ブロックチェーンへの関心が高まったことで、そのコンセプトは新たなものへと変容を遂げた。かつてビットコインネットワークの単なる屋台骨だったブロックチェーンはいま、開放性や安全性、そして複雑性をもったさまざまな分散型台帳に応用されているのだ。

Ethereumの夢

ロシア系カナダ人のヴィタリク・ブテリンが制作したブロックチェーンのオープンプラットフォーム「Ethereum」は、「人々が電子通貨を直接やり取りできるようにする」というナカモトの前提に即してつくられている。しかし、これは金融だけでなく、あらゆる分野から中間業者を排除しようとするものだ。

Ethereumはブロックチェーンの“強化版”であり、暗号通貨よりもさらに大きな目的のために設計されている。デヴェロッパーたちはEthereumを使うことにより、いわゆる「スマートコントラクト」に記された公開ルールにのっとって、世界中で取引を行うプログラムを開発することができるのである。

Vitalik_Buterin

ブロックチェーン界のキーパーソンであるEthereum創設者、ヴィタリク・ブテリン。
PHOTO: DUNCAN RAWLINSON (CC BY-NC 2.0)

例えば、自動運転タクシーを走らせて、1回ごとの運賃をある基準に従って自動計算するソフトウェア・アプリケーションを考えてみよう。この運賃計算の基準は、ソフトウェアの契約書のなかにあらかじめ明記されていて、すべての利用客に伝わっている。

このルールに抜け道はなく、コードを書いた人間でさえルールをすり抜けることはできない。また、ルールが変わればただちに可視化される。企業が自分たちを出し抜かないかどうか、ユーザーが心配する必要もない。プログラムされた内容がすべてわかっているからだ。

こうした「スマートコントラクト」を使えば、透明性だけでなく、メインテナンスやガソリンの代金を、クルマが直接支払うこともできるようになるだろう。株主たちが会社のロゴを新しくしたいときは、スマートコントラクトがつくったルールにのっとってコンペを開催し、最終決定はアマゾンのMechanical Turkのようなサーヴィスにアウトソーシングすることもできる。スマートコントラクトによって管理される企業は、基本的には自動で運営されるようになる。

ビットコイン台帳同様に、ソフトウェアのコードやデータは特定のサーヴァーに保存されるわけではなく、Ethereumを運営するあらゆるコンピューター上に散らばっている。それゆえ、システムダウンはありえない。「Uberがスカイネットと合体する」とでも言えばいいだろうか。

不死身の会社

「産業革命によって初めて、人間の労働力を機械に代替させることが可能になった」と、2013年に当時22歳だったブテリンは『Bitcoin Magazine』に書いている。「だがそれは単に底辺を自動化しただけにすぎない。一般庶民の単純労働者が必要なくなったというだけだ。(中略)では、仕事から管理職を取り除くことはできないのだろうか?」

ブテリンの発明は、完全に透明化された、自己運営型で、かつ不死身の会社(自律分散型組織=DAOs(Decentralised Autonomous Organisations))を登場させ、加えてインターネットの分散化を引き起こすかもしれない。

2013年に構想され、2015年に最初のヴァージョンがローンチされたEthereumは、すでにマイクロソフトやIBM、 デロイトといった企業の注目を集めている。今年5月には、特定の国に拠点をもたない、株主がすべての投資先を決定する分散型ヴェンチャーキャピタル、The DAOが、Ethereumを活用した最初の企業のひとつとなった(編註:翻訳元記事は2016年6月7日公開)。

「これはガヴァナンスが完全に透明化された会社です」と、ブロックチェーン企業Slock.itのCOOであり、The DAOのフレームワークづくりに取り組んだ人間のひとりでもあるステファン・トゥアルは語る。

「この会社は、ユーザー、つまりここに投資した人たちによって完全にコントロールされています。普通の企業でしたら、ガヴァナンスのルールや意思決定の過程は、権力関係や策略、嘘で覆い隠されています。でも、ここにあるのはコードだけ。ルールも変えられません」

The DAOがどのように投資を行うかを決めるのは、取締役会ではなく株主だ。株主たちは2週間以内に提案に賛成するか反対するかを投票し、投票が締め切られると変更点がThe DAOに反映される。しかし、どこの国にも拠点がない会社の行為が、投資先の国内法の下で実効性をもつのかどうかを懸念する人もいる。

ブロックチェーン・スタートアップの台頭

The DAOがこれから検討する投資先には、トゥアル自身の会社が含まれている。彼の会社Slock.itは、ブロックチェーン技術をIoTに応用しようとしている。

ドイツのミットヴァイダを拠点とするSlock.itは、Ethereumのスマートコントラクトにのっとった、現実に存在する鍵「スマートロック」を開発した。これらの鍵の所有権と開け閉めは、ブロックチェーン上で管理できるのだ。

例えば部屋を貸すときにも、Airbnbのような企業を利用する代わりに、個々人がブロックチェーンを使えばP2Pの支払いを通じて余ったスペースの貸し借りができる。トゥアルはこのシナリオを「原子化されたシェアリングエコノミー」と呼ぶ。トゥアルの理想とする世界では、人々は自分の所有物を、ドリルでも、芝刈り機でも、クルマでも、数時間貸し出して対価を得ることができる。

Slock.itによる「スマートロック」のプレゼンテーション動画。

「ほんの1年前、ブロックチェーン関連のスタートアップは、おそらく金融関係がその4分の3を占めていたでしょう。当然のことです、ビットコインがブロックチェーンの最初の落とし子だったわけですから」と、ブロックチェーン専門の投資会社Outlier Venturesの創設者ジェイミー・バークは言う。「ここ数カ月で、(ブロックチェーン技術の)非常に幅広い応用を提案するスタートアップが爆発的に増えました」

市場予測を行うAugurからデジタル民主主義プロジェクトを手がけるBitVoteまで、ブロックチェーンは拡大し続けている。ヘルスケア分野ではHealthchainが、誰が自分の医療記録にアクセスしたかを患者がモニターできるシステムをつくっている。

「こうしたプロジェクトの多くは、非常にわかりやすいものです」とバークは語る、「しかしいまの段階では、新しいアイデアを出すことはそれほど問題ではありません。すべては、成功するシステムを構築できるかどうかにかかっています」

透明なユートピア

Outlier Venturesのデータベースによると、現在は世界各地に878社のブロックチェーン関連スタートアップが存在し、その多くがここ2年以内に設立されたものだという。バークはこのうち70パーセントは数年のうちに頓挫すると見積もっている。

これらのスタートアップは、ビットコインやEthereumのように、オープンソースやオープンなブロックチェーンの力を信じている企業と、限られた数の、特定の関係者しかアクセスできない認証型の台帳づくりを行う企業の2つに大きく分けられる。後者のアプローチは銀行や金融機関の合弁会社によくみられる。

暗号通貨産業にみられるこの亀裂は、企業が内部での情報交換のためのクローズドなイントラネットに頼っていた、インターネットの黎明期を思わせる。しかし時が過ぎて、インターネットは開放された。暗号通貨も同じ道を辿るとすれば、最大の中間業者である銀行も、最終的にはサトシ・ナカモトが構想した「透明なユートピア」を受け入れるのかもしれない。

「その当時われわれが学んだのは、イントラネットは限定された狭い範囲の仕事に向いており、それは時間が経つにつれてだんだんと安全ではなくなり、革新性を失っていったということです」。ビットコイン専門家のアンドレアス・M・アントノポウロスは言う。

「インターネット上に存在するシステムは絶えず攻撃にさらされ、どんどん堅牢になっていきます。言い方を変えれば、クローズドでコントロールされたシステムの方が安全というわけではないということです。オープンなシステム、オープンなブロックチェーンこそが安全なのです」

INFORMATION

VOL.25「ブロックチェーン」特集:10/11発売

10/11発売の『WIRED』日本版VOL.25は、「ブロックチェーンは世界を変える(いや、本当に)」。これまでの金融の仕組みを大きく変えるといわれる「ブロックチェーン」。しかし、その破壊力は、フィンテックの範疇にはとどまらない。法、会社からアートに至るまで。インターネットに次ぐ革命的テクノロジーは、何を破壊し、いかに世界を変えるのか? バルセロナのブロックチェーンスタートアップStamperyと20歳のCTOの肖像、ブロックチェーン技術の第一人者・斎藤賢爾が語る「中央なき世界」、いま注目すべきブロックチェーンスタートアップ…and more。

RELATED