領土紛争問題に詳しい矢吹晋・横浜市立大名誉教授は、このほど都内で講演し、南シナ海仲裁裁定によって、沖ノ鳥島が「岩」とみなされ、排他的経済水域(EEZ)確保を狙って日本政府が約800億円を投じた埋め立て工事が無駄になると強調した。写真は講演風景。

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領土紛争問題に詳しい矢吹晋・横浜市立大名誉教授は、このほど都内で講演し、南シナ海仲裁裁定によって、沖ノ鳥島が「岩」とみなされ、排他的経済水域確保を狙って日本政府が約800億円を投じた埋め立て工事が無駄になると強調した。同氏は日米中関係を主に専攻し、『朝河貫一とその時代』『尖閣問題の核心』『南シナ海―領土紛争と日本』など著書多数。

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矢吹氏の発言要旨は次の通り。

グローバルコモンズ(国家の管轄外にある公共財) の思想が南シナ海の領土・領海紛争にとって教訓となる。南シナ海の仲裁判断には、この論点が盛り込まれ、判断の基軸に据えられていた。

フィリピンと中国が争っている南シナ海問題で、仲裁裁判所の判断が示された直後の新聞社説は「中国は法秩序を守れ」「海洋の常識が示された」「法の支配を尊重せよ」などと、海洋法順守を求めるものばかりだった。

果たして日本は海洋法を守り、法秩序を順守しているのか。海洋法を守ると、日本が800億円以上を投じて埋め立てを続けてきた沖ノ鳥島がどうなるのかについて言及した論調は皆無だった。日本の行為は中国が南シナ海で行っている埋め立てと同様である。

岸田文雄外相は7月15日午前の記者会見で、沖ノ鳥島の判断も含めて判決を支持するのか?との質問に対し、「今回の仲裁判断は沖ノ鳥島等の法的地位に関する判断ではない。今次仲裁裁判に拘束されるのは、当事国であるフィリピン及び中国のみである」と答えたが、全くの誤認。裁定判断は紛争当事者を拘束すると同時に、「判例としての普遍性」を持ち他の事例も拘束する。これが法の世界の大原則だ。

500頁にも及ぶ今回仲裁裁定書は5つのパラグラフ(段落)で「沖ノ鳥島」に言及している。中国・韓国の言う「沖の鳥岩(the rock of Okino-tori)」の呼称さえも、用いている。沖の鳥「岩」から大陸棚延伸を要求するのは、グローバルコモンズに対する重大な侵害となる、という一節を引用している。今回仲裁は、4年前に中国が日本政府の沖ノ鳥島論を批判する文脈で提起した論点を直接引用して、南シナ海の島しょに適用した。排他的な経済圏や大陸棚延伸の特権を、沖ノ鳥島のような「人間の居住」ができず、「経済生活を行っているとはみなしがたいものに付与するのは合理的ではないとの主張だ。

論点は、200カイリの排他的経済水域(EEZ)及び350カイリまでの大陸棚延伸の権利を持つ「島」の条件を厳密に規定し、この条件を欠くものは「岩」と認定したことだ。これは判例として今後も踏襲されることになる。

沖ノ鳥島で日本政府が800億円以上もかけて造成し、大陸棚延伸の権利を要求しているが、全くの無駄となる。この判決が沖ノ鳥島を直接拘束することになるが、この巨額工事の責任はだれが取るのか。(八牧浩行)