安倍晋三公式サイトより

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 ロシアを訪問した安倍首相はプーチン大統領と今年12月に山口県長門市であらためて会談を行うと発表した。自分の地元で北方領土交渉の成果をあげて支持率に繋げたいというパフォーマンス欲が見え見えだが、じつは安倍首相、今回の重要なロシア訪問の前日である9月1日に、またしてもメディア関係者たちと会食を行っていた。

 しかも、そのメンバーには保守系新聞メディアの経営陣がずらりと並んでいる。同日の時事通信の「首相動静」を引用しよう。

〈午後7時57分、東京・大手町の読売新聞東京本社ビル着。渡辺恒雄読売新聞グループ本社主筆、橋本五郎読売新聞東京本社特別編集委員、福山正喜共同通信社社長、熊坂隆光産経新聞社社長、芹川洋一日本経済新聞社論説主幹、評論家の屋山太郎氏らと会食〉

 新聞社幹部が雁首を揃えて、よりにもよって読売という報道機関の本社で安倍首相を囲む......。これまでも安倍首相のメディア幹部との"癒着"ぶりは散々批判されてきたことだが、"安倍政権広報紙"と化している読売・産経2紙のトップをはじめ、共同や日経を交えて仲睦まじく会食とは、あまりに露骨すぎる。

 だが、こうした読売本社での安倍首相を囲む会合は、これがはじめてではない。昨年5月18日にはやはり今回と同じくナベツネと橋本氏、芹川氏、屋山氏に加えて、当時の産経新聞社会長で現相談役の清原武彦氏と、次期NHK会長とも目されているNHKエンタープライズ社長(当時)の今井環氏が参加。さらに今年1月21日にも同じメンバーに『報道ステーション』コメンテーター就任前の後藤謙次氏を加えて読売本社にて会食を行っている。

「この読売での会食は渡辺氏が音頭をとって去年くらいから始まったものですが、安倍首相とマスコミ幹部の会食の中ではもっとも重要視されているものです。安倍首相と渡辺氏のお眼鏡にかなったマスコミ幹部や評論家だけが呼ばれ、今後の政局や政策に関するかなり重要な話がかわされるようです」(全国紙政治部記者)

 たしかに、第二次安倍政権発足以降、安倍首相と渡辺氏の関係の濃密さは目を見張るものだ。現に、メディア関係者との会食を頻繁に繰り返す安倍首相だが、そのなかでもナベツネとの会食回数は抜きん出ている。

 また、特定秘密保護法案を強行採決した2013年12月6日前後にあたる同月2日や19日、14年7月1日の集団的自衛権行使容認の閣議決定に向けて動いていた6月13日といった重要な節目の前後には必ずと言っていいほど安倍首相はナベツネにお伺いを立ててきた。そして、前述した昨年5月の読売本社での"安倍首相を囲む会"は、その4日前に国会に提出した安保法案の成立に向けて開かれた会合だった。

 では、今回はどういうテーマだったのか。前出の政治部記者はこう推測する。

「今回は、憲法改正についてもかなり突っ込んだ話が出たんじゃないかといわれています。改憲は安倍首相と同様、渡辺氏にとっても悲願ですからね。改憲派の熊坂産経新聞社長ともども、憲法改正に向けた戦略を語っていた可能性はかなり高い」

 安倍首相と読売、産経の癒着はいまに始まったことではないが、密室会合で日本の将来を左右するような政策が決まっているとしたら、恐るべきことではないか。

 しかも、唖然とするのは、そこに中立系のメディア幹部までが嬉々として馳せ参じていることだ。

 たとえば、今回、初めて参加した福山正喜共同通信社社長。政治部時代から小沢一郎氏と近く安倍首相と距離があった福山社長だが、とくにこの1年半ほどはまったく相手にされていなかった。

「共同は沖縄2紙を追いかけるかたちで、かなり基地問題を熱心にやっていた。翁長知事を支持する姿勢を強く打ち出し、翁長氏の訪米の直前には単独インタビューもしましたし、高江のヘリパッドの問題も沖縄の2紙以外で唯一、熱心に報道していた。これに怒った官邸が共同に嫌がらせに近いような仕打ちをしていたんです。現場の記者にはほとんど情報を与えず、福山社長も何度安倍首相にアプローチしても、面会を拒否されるという状態だったらしい」(官邸担当記者)

 それが急にこの会合に招かれたのは、共同通信が基地問題の報道スタンスを変えるシグナルを送ったからではないかと言われている。

 実は最近、共同では、基地問題報道を後押ししていた河原仁志編集局長が退任し、元政治部長の梅野修氏が名古屋支社長から昇格するという異例の人事が内示された。

「この梅野氏は、政治部時代から菅義偉官房長官に非常に近いことで知られている人物なんです。梅野氏が編集局長になれば、沖縄の基地問題のスタンスが変わるのは確実。福山社長はこの人事を土産に安倍官邸にアプローチしたのではないかといわれています」(ベテラン政治記者)

 安倍首相に気に入られたいがために沖縄米軍基地報道のスタンスを変えるとは、日本最大の通信社の社長がやることなのか。

 しかし、だらしないのは、会合に参加していないリベラルメディアも同様だ。たとえば、今回のナベツネによる"安倍首相を囲む会"について、朝日新聞の「首相動静」はこう伝えている。

〈7時57分、東京・大手町の読売新聞東京本社ビル。渡辺恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆らマスコミ関係者と食事〉

 この記述では、ナベツネ以外、どんなマスコミ関係者が揃っていたのかがわからない。なぜ、こんな記述の仕方になってしまったのか、その理由は今年1月の首相動静にある。朝日は1月に同じ会合が開かれた際、細かくメンバーの名を挙げていたのだが、そのなかに出席していなかった早野透元朝日新聞編集委員を含めてしまっていた。その後、朝日は早野氏は同席していなかったとして訂正を行ったが、Web版では情報を更新させた際、早野氏のみならず清原氏や、後藤氏、芹川氏の名前も一緒に削除したのだ(ちなみにその後、なぜか再び名前を戻している)。

 首相動静では各社こうしたミスはめずらしくないし、"誤報"などとあげつらうようなものでもない。だが、それしきのミスを気にしたのか、今回、会合に同席したメディア関係者の詳細を伏せてしまったのだ。

 じつは、この1月の会合については、池上彰氏が同紙のコラム「池上彰の新聞ななめ読み」で取り上げ、各紙が首相動静の欄でどのように伝えていたかを読み比べしていた。そして、日経は自社の論説主幹である芹川氏の名を伏せていたことや、読売や毎日も同席メンバーを一部省略していたことを指摘。そんななかで朝日は参加者全員の名を挙げていることを〈朝日新聞の記述によって、会食参加者の顔ぶれが判明しました。記事はこうでなくてはいけません〉と評価していた。

 これは池上氏の言うとおりで、マスコミ関係者、とくに幹部は権力とは一定の距離をとるべきであって、会食参加者の名はきちんと明かされなくてはならない。しかも、池上氏は朝日のミスも取り上げ、〈事実確認はむずかしいものですね〉とコラムを締めている。たんに朝日を批判したのではなく、事実確認はむずかしいが会食参加者の顔ぶれは伝えるべき、という姿勢に変わりはない。だが、こんなエールを送られながら、今回、朝日は半端な記事で終わらせてしまったのだ。

 安倍政権のマスコミ支配が強化されていくなかで、「たかだか首相動静」などと軽んじることはできない。そもそも、朝日は木村伊量社長(当時)や曽我豪編集委員、毎日も朝比奈豊会長や山田孝男特別編集委員といった幹部の人間が安倍首相と会食をしてきた。

 共同は社長が安倍首相に媚びを売り、朝日はへっぴり腰──。中立、リベラル系報道機関が次々に安倍政権に屈していく様を目の当たりにすると、この先、安倍首相やナベツネが目論む改憲に向けた動きに対し、きちんと批判ができるとは到底思えないのだ。
(編集部)