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今回のテーマは「テレワーク」である。

最新のITワードであるはずなのに、なぜか昭和の臭いを感じてしまうのは、まず頭に「テレクラ」が思い浮かぶからだと思う。では、これが新たな紳士淑女の社交場かというと、全くそんなことはない。むしろ、「テレ」の大先輩であるテレクラパイセンに対する敬意が全く感じられない意味であった。

テレワーク:情報通信技術(ICT)を活用し、時間や場所にとらわれず、柔軟に働くことができる勤務形態(日本テレワーク協会Webページより抜粋・編集)。

○テレワークとノマドの違い

時間を問わずどこでも仕事ができる形態ということだが、お前ら、そんなにエブリデイエブリタイム仕事がしたいのかと驚愕した。こんなものを国を挙げて推進しているなんて、とんだ変態国家である。

だが、これなら少し前に流行した「ノマド」と何が違うのか、という話だ。ノマドと言うのは、正確に言うとMacBookを持ってスタバで仕事をすることだが、もっと広義で言うと「遊牧民」という意味の言葉で、特定の仕事場を持たず、ノーパソ片手に至るところ(主にスタバ)で仕事をするスタイルのことを指す。

「何がノマドだ、住所不定と言え」と、Windows入りのノーパソでノマドたちの頭をかち割って回ったのも、はや数年前のことになる。ノマドをやっていたのは主に個人事業主だったようだが、テレワークの場合は一応会社に雇われている者を指すらしい。

そうは言ってもいろいろなパターンがあり、社員であるが毎日出社はせず、在宅で仕事を行う雇用型の者もいれば、テレワークの仕事をあっせんする会社に登録してそこから仕事をもらったり、社員ではないが会社から仕事を請け負ったりと、いわゆる在宅の派遣社員のような非雇用型の者もいる。これらを総称してテレワークと呼ぶようだ。

ともかく、指毛を数える行為の次に時間の無駄である出勤などという行為は前時代的であり、そんな時間があったら一秒でも多く働けよというのが、変態国家の推奨する新しい働き方だそうだ。

テレワーク推進派としては、育児や介護で家を出られない人も仕事ができていいじゃん、という考えのようだ。しかし、そもそも育児や介護が仕事の片手間でできるものという認識から問題のような気がするし、家事、育児、介護などに時間を取られて仕事のノルマをこなす事ができなかったら、結局労働時間を増やすしかない。

また、専門的な技術が必要な仕事ならともかく、データ入力などの単純作業の場合は単価がバカ安いらしく、時給にしたら100円程度ということもザラだそうだ。確かにこれは、在宅ブラック企業という新しい働き方である。

○テレワークの重大な落とし穴

それに、出社を省くことによりコストや時間の節約ができると言っても、一つ重大なことを忘れている。家ほど労働に適さない場所はないのだ。我々作家の中にも、家で仕事ができるのに、わざわざ喫茶店など外で仕事をする人がいる。何故かというと、家じゃてんで仕事ができないからだ。

そもそも、家というのは自分が最もリラックスできる場所だ。常にヒリついていたいから、部屋で虎を放し飼いしているという人もいるかもしれないが、大体の人は気の抜ける環境にカスタマイズしているはずだ。だが、仕事中に気が抜けるようではダメなのである。

それに何せ自分んちだ、己の好きな漫画やゲーム、自分好みの女優が出てくるセクシーDVDなどが置いてあるはずである。そして何よりオフトゥンがある。こんな状況で仕事をしろなど正気の沙汰ではない。ブッダでさえ、10回は失敗する修行である。

認めたくないことだが、会社ほど仕事に適した環境はないのだ。漫画やゲームはおろか、全然好みじゃない女優が出てくるセクシーDVDすらも置いていない。また他の社員などの衆目があるため、そうそうサボることもできない。そして何よりオフトゥンがない。

よって、通勤時間をなくすことで節約できた時間を、そのまま家でゲームやDVD、またはオフトゥンの中で浪費してしまっている可能性は大いにあるのである。

○地獄がオシャレな名前でやってきた

それに経費の問題もある、会社で働く場合はPCをはじめ、備品は全て会社持ちであるし、それを使う電気代も会社負担だ。自由に飲めるコーヒーとかが置かれた会社もあるだろうし、少なくとも水道水はフリードリンクだ。便所だって、小をしたにも関わらず大で流してもまあ構わない。

しかし、テレワークの場合、PCが支給されるところがなくはないだろうが、非雇用の場合PCは自前だろうし、少なくとも光熱費は自腹だろう。もちろんウンコも自腹で流さなければいけない。スタバで仕事をしようとすれば、もちろんなんとかフラペチーノ代がかかる。この時点で、テレワークはかなりの個人負担があるのがわかる。

出社せずにどこでも仕事ができる、というのはいかにもメリットがあるように聞こえるが、「会社が与える場所で、与えられた物を使って仕事ができる」というのも、実はすごく大きなメリットなのである。

私などは兼業作家なので、奇しくも会社での仕事と在宅の仕事を両方やっているのだが、一つ言えることは「どれも辛い」ということだ。仕事というのは、どんな仕事を、どこで、どんな方法でやろうが、辛いのである。ただ名前が変わっただけに過ぎず、ノマドとか、テレワークとか、地獄がオシャレな名前でやってきただけなのだ。

働き方にしろ、肩書きにしろ、クールに見える仕事はたくさんある。しかし内容までクールな仕事なんてほとんどないのである。それから逃れるには仕事を辞めるしかないが、今度は金銭的に困るという事態がやってくる。

仕事はあってもなくても地獄、よって「今は片方の地獄から逃れている状態」と思うしかないのである。

<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年〜)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年9月5日(火)掲載予定です。

(カレー沢薫)