『ゴースト・ギャロップ 蒼空の幽霊機(富永浩史:著、おぐち:イラスト/KADOKAWA)

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 古来より人類は空を飛ぶことを夢みてきた。そして男たちは飛行機に魅せられた。唸り猛る内燃機関、風を切り裂く翼、高速回転するプロペラ、そして流線形の優美なフォルム……。戦場が地上から大空へと移った時代、戦闘機のパイロットは、少年たちが憧憬の眼差しを向ける天馬の騎士だった。『ゴースト・ギャロップ 蒼空の幽霊機』(富永浩史:著、おぐち:イラスト/KADOKAWA)は、そんな古き良き時代の戦闘機乗りの男と少年の大空への情熱を描いた航空浪漫活劇だ。

 主人公のヴェロス・ドロメスは、王国連合飛行騎士団所属の戦闘機乗りとして帝国との戦争で五十機撃墜を成し遂げた真の「撃墜王」。しかし、ヴェロスは不器用な男だった。腕は良いが堪え性がなく負けず嫌い、皮肉屋で周囲からは嫌われていた。そんな英雄の栄光は長くは続かず、戦争はあっけなく終わりを告げ、素行不良を理由に軍を追い出されたヴェロスは、場末の飛行機レースで賞金を稼いで暮らしていた。

 そんなヴェロスの元に、10年前に別れた妻との息子サウルが現れる。飛行機に憧れるサウルの前で見栄を張ったヴェロスは、レース中に事故を起こしてしまう。愛機を失い、酒に溺れ、臨時の仕事も長続きせず、どん底まで落ちぶれる父親の姿に、サウルも次第に呆れ果てる。そんな折、大公主催の海洋横断長距離レース「亡霊大騎行(ゴースト・ギャロップ)」の開催が告知される。過去の栄光を取り戻すため、ヴェロスはレースに挑む。

 レースに勝つためには千馬力以上の馬力を持つ現役の戦闘機がなくては勝負にならない。ほうぼうを探し回ったヴェロスは、国境近くの古戦場で壊れた戦闘機を見つける。その機体は、かつてヴェロスが空戦で敗北を喫した帝国最速の戦闘偵察機“精霊女王(ジーニー)”だった。操縦者を呪い殺すとも噂され、己とも因縁のある伝説の名機を蘇らせたヴェロスは、サウルを専属の機関士に見事予選を勝ち抜き本戦への切符を手にする。

 「亡霊大騎行」の本戦には、ヴェロスと同じく戦後に「亡霊」となった歴戦の戦闘機乗りたちが待ち構えていた。傭兵あがりでヴェロスのライバルでもあるレックス・マノー。エンジンギルドの最新鋭機”シグナス”を操る飛行騎士バタール・ジング。海外領土から参戦した謎の操縦士ユーリィ・フォーリィ。その他にも王国各地から猛者たちが集い、レース本戦はスタート前から国中が熱狂と興奮に沸いた。

 レースが進むにつれて、血気盛んな戦闘機乗りたちは互いに機銃や武器を持ち出し、妨害行為が当然のように行われ、苛烈さを増していく。それでもヴェロスは一切の武器を持たず、さらには弱視という戦闘機乗りにとって致命的ハンデを抱えながら混戦を駆け抜けていく。度重なる困難を助け合って乗り越えてゴールを目指し、ヴェロスとサウルが親子の絆を取り戻していく姿に思わず目頭が熱くなる。

 飛行機を愛する男たちの友情と家族愛。大空で繰り広げられる戦闘機乗りの意地と誇りのぶつかり合い。夢を諦めきれなかった不出来な父親の生き様。そしてゴールで待ち受ける衝撃の結末……。長く過酷なレースを通じて展開される、さまざまなドラマが読者の胸を揺さぶってやまない。いくつになっても男の中に眠っている、夢を追い求める少年の心を思い出させてくれる1冊だ。

文=愛咲優詩