1−2で敗れた9月1日のUAE戦のあと、FW本田圭佑がこんなことを言っていた。

「苦しい状況になったが、このあとは(9試合)全勝するぐらいの気持ちでいく」

 翌日にはハリルホジッチ監督も、選手たちにこんな言葉でハッパをかけている。

「残り9戦すべて勝つ」

 9月1日に開幕したロシア・ワールドカップ・アジア最終予選。ホーム&アウェー方式が採用された1998年フランス・ワールドカップのアジア最終予選以降、初戦を落としたチームはすべて予選で敗退しているという事実が、日本代表に重くのしかかる。

 初戦に敗れたチームが過去に出場権を掴めていないのは、それだけ敗戦のショックやダメージが、その後の戦いに影響を及ぼすということだろう。残り9試合、全部勝つ――。本田やハリルホジッチ監督がそう言って、タイとの2戦目からの巻き返しを誓うのは、当然のことだ。

 もっとも、初戦を落とし、追い込まれた状態の日本代表にとって、「残り9試合、全部勝つ」という目標は、最終予選を戦ううえで"落とし穴"になりかねない。「全勝する」という目標に意識が傾き過ぎて、力んだりするようだと、危ない。

 ホームで痛恨の逆転負けを喫したUAE戦。誤審があったのは間違いないが、目を逸らしてはならないのは、真っ向勝負を挑んできたUAEに敗れたという現実だ。

 UAE戦は、アジア勢とのホームゲームでよくあるように、ベタ引きする相手を攻めあぐんだわけではない。リードを奪った後半はともかく、それまでの時間帯では、UAEはラインを高く保って攻撃を仕掛けてきた。

 そんなUAEに対して日本はパスをつながれ、何度かチャンスを与えてしまった。シュート数は、日本の22本に対してUAEは9本。ボール支配率も、日本の64%に対してUAEは36%だったが、日本の決定的なチャンスは5回ぐらいしかなかった。

「我々は日本代表をずっとフォローしてきたし、2011年のアジアカップのパフォーマンス(日本が優勝を飾ったカタール大会)も見ているが、今日は最悪な状況に見えた」

 試合後の会見では、外国人記者からこんな質問が飛んだ。また、内弁慶の傾向が強い中東のチームであるUAEに、日本のホームゲームで真っ向勝負を挑まれたという事実からも、日本代表のチーム力が衰えてきているという現実が浮かびあがる。

 一方、タイはUAE同様、近年メキメキと力をつけているチームだ。

 アウェーで迎えた最終予選初戦のサウジアラビア戦では0−1で敗れたが、内容は互角以上。30分にはペナルティエリア内で受けたファウルがエリア外と判定されてPKを見逃され、終盤には微妙な判定で逆にPKを宣告され、決勝点を奪われてしまった。

 それだけに、ホームでの初戦となる日本戦は必勝態勢で臨んでくるはずだ。チケットはすでに完売で、収容人数6万5000人といわれるラジャマンガラ・スタジアムは大観衆で埋まることが予想される。

 そんな相手に「絶対に全勝する」と力んでゲームに入り、必要以上に前がかりになったり、強引に中央からこじ開けようとしたりすれば、待っているのは"自滅"だろう。

 必要なのは、「絶対に全勝する」と力むことではなく、エースのティーラシン・デーンダーを中心に猛攻を仕掛けてくるタイをいなし、逆にカウンターを見舞う冷静さとゲームコントロールだ。

 タイはサウジアラビアでの試合を終えてホームに戻ってくるわけで、コンディション面に不安がある。それゆえ、"前半勝負"を仕掛けてくる可能性がある。それなら、"後半勝負"を描いたゲームプランを立てるなど、戦略面をしっかり整理して臨む必要がある。そのあたりのゲームコントロールを、まさにベテランの本田やMF長谷部誠に求めたい。

 1試合を残して突破した2014年ブラジル・ワールドカップのアジア最終予選。5勝を挙げた日本は首位でグループBを戦い終えたが、それでも2分1敗を喫している。

 2010年南アフリカ・ワールドカップのアジア最終予選では、日本は4勝3分1敗の成績で、グループAの2位となったが、それでも2試合を残して突破を決めている。

 今回の最終予選も、ホーム&アウェーで10試合を戦う長丁場。「全勝するぐらいの気持ち」で球際での勝負に挑み、終了のホイッスルが鳴る瞬間まで走り続ける必要はあるが、必ずしも全勝する必要はない。

 初戦に敗れた今、必要なのは「全勝を狙う」と自らにプレッシャーをかけることではなく、まだまだチャンスが十分あることを認識し、肩の力を抜くことだろう。

 日本には、5大会連続ワールドカップに出場するなかで培ってきた、アジアの戦いにおける"経験"と、修羅場を勝ち抜いてきた"歴史"がある。それに、これだけ多くの欧州組が集まっているのだから、勝負どころを見逃さなかったり、冷静に戦況を見極めたり、たとえ劣勢でも最後に決勝ゴールをもぎ取ることが、本来なら可能なはずなのだ。

 あとは、指揮官が冷静かつ的確にチームをマネジメントしてくれれば......。現状の最大の不安が、そこになる。

飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi