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約半世紀にわたり、米国の人工衛星や探査機を打ち上げ続けてきた「デルタ」ロケットと「アトラス」ロケット。しかし近年、ロケットに使っていたロシア製エンジンと、新興のスペースXの台頭が仇となり、その地位が脅かされることになった。

そして今、起死回生をかけて次世代ロケット「ヴァルカン」の開発が始まった。米国の基幹ロケットは「長寿と繁栄」を続けることができるのか。

連載第1回ではヴァルカンが必要とされた背景について、第2回ではロケットやエンジンなどの詳細について紹介した。第3回では、ヴァルカン・ロケットが考える再使用システムと、ヴァルカンが商業打ち上げ市場に与える影響について見ていきたい。

○ファルコン9より”賢い”再使用

ヴァルカンの特徴のひとつは、再使用を考えているところにある。

ロケットの再使用というと、今一番有名なのは、スペースXの「ファルコン9」ロケットだろう。第2段と分離した後の第1段機体が大気圏を突っ切って海上や陸を目指して降下し、ロケット・エンジンを噴射させながら舞い降りる様は、いつ見ても衝撃的である。

だが、ULAがヴァルカンに導入しようとしている再使用方法はファルコン9とは大きく異なる。ULAが考えるそれは、ロケット機体からエンジン部分のみを分離し、バリュートと呼ばれるガスで膨らむ耐熱システムを展開して大気圏に再突入し、大気圏内でパラフォイルを展開。そして降下しているところを、ヘリコプターで引っ掛けて回収する、というものである。

ロケットが垂直に着陸するのと同じくらい、あるいはそれ以上に荒唐無稽に思えるが、実は過去に実績のある方法でもある。かつてデジタルカメラがなく、フィルムしかなかった時代、宇宙から地表を観察する偵察衛星もまたフィルムを使っていた。フィルムである以上、地球で回収し、現像しなければ何が撮れているかわからないし、分析のしようもない。そこで衛星からフィルムの入ったカプセルを放出し、大気圏をくぐり抜けた後、パラシュートを開き、航空機で引っ掛けて回収していたのである。

やがてデジタルカメラを使う光学センサー式の偵察衛星が主流となり、画像を電波で送れるようになったが、2004年にはNASAの探査機「ジェネシス」で、試料の入ったカプセルを回収する手段としても用いられ、また過去にNASAでは、この構想とほぼ同じ、エンジンの空中回収の検討を進めていたこともあり、技術的には可能であることはたしかである。

この方式の利点は、着陸のために必要な推進剤を積まなくても良いところにある。ファルコン9の場合、減速や着陸時にエンジンを噴射する必要があることから、そのための推進剤を抱えて打ち上げる必要がある。これは、打ち上げに使うエネルギーの損得という視点のみで見ると、無駄と言えなくもない。

一方、ヴァルカンのような方式であれば余計な推進剤を積まなくても良い。減速にはパラフォイルが受ける大気との抵抗による力が使えるし、最終的な回収もヘリコプターで行うことから、ロケット側には負担がかからない。もちろんパラフォイルを積む分は多少重くなるが、空中回収という方法をとることでパラフォイルのサイズなどシステム全体を小さくできるため、その影響は最小限に抑えられる。

ULAではこの技術を「SMART」(賢い)と呼んでいる。SMARTはSensible Modular Autonomous Return Technology(賢明なモジュール式の自動帰還技術)の略で、ここにもSensible(賢明な)という単語が入っていることからも、ファルコン9方式の"非論理的"な再使用とは違うのだ、という相当な自信が伺える。実際、ULAはこの技術について説明する際、スペースXやファルコン9という具体的な名前は出さないまでも、「ロケットを逆噴射させながら着陸するよりも優れている」とアピールしている。

もっとも、ULAとしては実際にSMARTを導入するかどうかについては判断を保留にしている。少し意地悪な見方をすれば、ファルコン9が再使用で本当にコストが安くなるかどうか、あるいは市場からの評価など、まずは様子を見て、旨味が多いことがわかればSMARTを導入する、ということだろう。

○米国の基幹ロケットから、第二、第三のファルコン9と言うべき存在へ

そしてヴァルカンのもうひとつの特徴は、明確に商業打ち上げを狙っているところにある。

ULAはこれまで、商業打ち上げにはあまり関心をもっていなかった。アトラスVとデルタIVの打ち上げ履歴を見ても、商業衛星を打ち上げた例は数えるほどしかない。これには、米空軍が開発したロケットとして、あくまで「官需打ち上げ」に主眼をおいていたこと、またアトラスVとデルタIVは高価で、商業打ち上げ市場では不利だという理由があった。

しかし、ヴァルカンの発表から今日まで、ULAは何度も「商業」(Commercial)という言葉を出している。つまりヴァルカンは商業打ち上げ市場への参入を明確に表明している。

その理由のひとつに、スペースXの存在があることは間違いない。官需打ち上げの良いところは、定期的に安定した打ち上げ数が確保でき、それによりロケットのコストダウンや信頼性向上が図れる点にあるが、スペースXはアトラスVとデルタIVが独占していたこの官需打ち上げに割って入り、今後競争が続くことになった。このような状況になった以上、おそらく今までどおりの打ち上げ数の確保は見込めない。であるならば、今度はULAが商業打ち上げへ積極的に進出し、打ち上げ数を確保し、奪われた分を補わねばならない。

これは日本にとっても、ULAのロケットの存在が、単なる「他国のロケット」から、「商業打ち上げ市場での敵」に変わることを意味する。日本のH-IIAロケットも、国内の需要だけでは生産ラインを効率的に維持するために必要な打ち上げ数には足らないため、できる限り国内外から商業打ち上げの受注を目指すという方針をとっている。とくに後継機のH3ロケットでは、検討段階からその方針がより強く押し出されている。よく「H3はH-IIAの半額を目指す」といった目標が紹介されるが、それを実現する大きな要素のひとつは打ち上げ数を増やすことであり、そのためには商業打ち上げを国内外から積極的に取ってくることが必要になる。

しかし、かねてよりの強敵である欧州のアリアン・ロケット、そして現時点でもすでに脅威であるファルコン9が立ちふさがるなか、ヴァルカンも加わることになれば、状況は今以上に受注を取りづらくなる。ロシア、インド、中国などが加わればなおさらである。現在、商業衛星の打ち上げ数は年間20〜30機ほどで、今後も横ばいか、せいぜい微増するという予測しかない。

アリアン・ロケットの最新型である「アリアン6」も、ヴァルカンも、そしてH3も、それぞれ2020年前後に相次いで1号機が登場する。スタートが同じということは明るいニュースに聞こえるかもしれないが、それは同時に開発が失敗すれば、そして運用開始から5年、10年後といった、将来を見据えた準備をしておかなければ、簡単に引き離されてしまうということも意味している。

ヴァルカンのもつ強みは、単なる"アトラスVのコストダウン版"ではなく、完全米国製の高性能エンジンの搭載(しかも保険で同等の性能のエンジンを並行開発)、これまでに例のない先進的なロケット上段機体、そしてエンジンの再使用、さらにまださわりしか明らかにされていない2030年代を見据えた開発など、アトラスVやデルタIVとはまったく違う、新機軸を惜しみなく投入したロケットになろうとしているところである。開発が成功するか、またどれだけの利点が生まれるのか、実用的になるのかもまだわからないが、虎穴に入らずんば虎子を得ずの言葉のとおり、リスクも大きいが当たりも大きい技術開発へ積極的に乗り出した。

H3もヴァルカンのように、時代のトレンドが変化した際にすぐに対応できるよう、準備を進めるべきだろう。すでにヴァルカンだけでなく、欧州もアリアン6の後継機、あるいは改良型を見据えて、そうした動きを見せている。彼らと戦うなら、少なくとも同じだけの武器を揃えることが論理的であろう。

【参考】
・Vulcan Centaur and Vulcan ACES - United Launch Alliance
 
・Vulcan Rocket - America's Next Ride to Space - United Launch Alliance
 
・ULA Innovation: SMART Reusability - YouTube
 
・Mark Peller United Launch Alliance October 8, 2015
 
・The Space Review: Vulcan’s future
 

(鳥嶋真也)