■連載/ペットゥモロー通信

家畜化された動物の中で、人間ともっとも古いつきあいがあるのは犬だ。彼らは、いったいいつから「犬」になったのか? その起源、いつどこで家畜化が起こったのか?ということについては長い間議論が交わされ、調査研究が行なわれてきた。

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オーストラリアの野生犬ディンゴ。現在では、いわゆる一般的な犬との交雑化が進んでいることが危惧されている/©Pmoon

近年では、ヨーロッパにおいてすでに絶滅している狼から犬が派生し、そこで家畜化が起こったとする説(フィンランドのトゥルク大学の進化遺伝学者Olaf Thalmann氏らによる研究チーム)、東アジアで約3万3000年前に初期の家畜化が起こり、約1万5000年前には飼い馴らされた犬となって世界に広まっていったとする説(スウェーデンの王立工科大学の遺伝学者Peter Savolainen氏らによる研究チーム)などがある。

つまりは、DNA解析をもってしても未だ確定的なものはなく、ロマンを残す部分があるということ。世界には非公認のものも含めると700〜800種の犬種が存在すると言われ、またすでに姿が見られなくなった犬種や野生犬、素性はよくわからないものの確かに存在する(した)とされる犬種も含めると1000種を超えるとも言われる犬だけに、一つにはその多様性が家畜化ルーツ探求を複雑にさせているのかもしれない。

そんな中にあって、つい先日、また新しい研究結果がオンラインの「サイエンス」に発表された。

イギリスのオックスフォード大学の進化遺伝学者Laurent Frantz氏らによる研究グループは、アイルランドの東海岸にあるニューグレンジ遺跡から発掘された犬(新石器時代後期、4800万年前)の内耳骨から核DNAを採取し、解析を行った。

そして、現代の605頭におよぶ犬の核DNAと比較し、系統図を作成してみたところ、ニューグレンジから出た犬やゴールデン・レトリーバーのようなヨーロッパ系の犬グループと、シャー・ペイおよびチベットやベトナムにいる野犬のようなアジア系の犬グループとでは大きな隔たりが見られたという。要するに、犬は2つの大きなグループに分けられるということだ。

さらに、遺伝子変異率を計算してみると、この東西の隔たりは1万4000年〜6400年前の間に生じたのではないかと考えられるそうだ。その間にアジア系グループの犬が人間に伴ってユーラシア大陸を横断し、西側のヨーロッパのほうへ流入。

実は、考古学者によってドイツで発見された犬の骨は、1万5000年以上前のものと言われている。一方、現代の犬の多くは、そのルーツがアジア系にあるとか。ということは、この段階でヨーロッパ系の犬グループとアジア系の犬グループとではおよそ1000年の開きがあることになる。

このことも含め、ヨーロッパとアジアでは別々の狼からそれぞれに犬が家畜化されたものの、アジア系の犬グループがヨーロッパに流入した頃には、元々ヨーロッパにいた犬の多くが消滅しており、そこで新たな家畜化が起こったのではないか?と研究グループでは考えているようだ。

しかし、他の研究者の間では、たいへん価値ある研究結果だとする意見もあれば、疑問があるという意見もあり、さらなる研究が望まれるというのが実情。古代の犬や狼の資料がもっと集まれば、研究も加速するのかもしれない。

いずれにしても、時を超えた犬の家畜化をめぐるルーツ探しの旅はまだまだ続く。

参考資料:
Laurent A.F.Frantz et.al/Genomic and archaeological evidence suggest a dual origin of domestic dogs/Science 03 June 2016, Vol.352, Issue 6290, pp.1128-1231, DOI:101126/science aaf3161
Dogs may have been domesticated more than once/Science

「Double domestication for dogs?」

文/犬塚 凛(ペットゥモロー編集部)