『貸し物屋お庸 娘店主、想いを秘める』(平谷美樹/白泉社)

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 人気作家・平谷美樹が手がけるエンタメ時代小説「貸し物屋お庸」シリーズの最新作『貸し物屋お庸 娘店主、想いを秘める』(白泉社)が9月2日に発売された。
 2015年1月、白泉社の時代小説専門レーベル・招き猫文庫で産声をあげたこのシリーズは、同年5月に第2作、2016年1月に第3作と好調なペースで書き継がれており、作者がいまもっとも力を入れている作品のひとつであることがうかがえる。

 時は元禄、15歳になる娘・お庸は、腕のいい大工の棟梁である父親に可愛がられ、不自由のない生活を送っていた。しかしある夜、家に強盗が押し入ったことで、生活は一変してしまう。凶悪犯に両親を殺され、自らも大けがを負ったお庸は、犯人に仇討ちすることを決意。貸し物屋の主人・湊屋清五郎に「力を貸してほしい」と依頼する。貸し物屋とは現代でいうレンタルショップのような商売で、なかでも湊屋は「無い物はない」といわれるほどの大店だった。
 敵討ちに力を貸す損料(レンタル料)として店主の清五郎が要求したのは、お庸が湊屋で働くこと。こうして出店の一軒を任されることになったお庸は、清五郎へのほのかな恋心を胸に秘めつつ、お客の依頼に応えるために今日も江戸の町を駆けまわる、というのが基本的なストーリー。
 古いザルを貸してほしい、高価な三味線を探してほしい、大きな俎(まないた)を貸してくれ…そんな風変わりの裏にある意外なドラマが、少しずつ明かされてゆくところに各エピソードの面白さがある。

 第1巻『貸し物屋お庸 江戸娘、店主となる』ではいきなり出店の一軒を任されて戸惑っていたお庸だが、第2巻の『貸し物屋お庸 娘店主、奔走する』になると少しずつ店主らしさが板についてきて、「母親を貸してほしい」といった変わった依頼にも自分なりの解決策を見つけようと工夫している。第3巻『貸し物屋お庸 娘店主、捕物に出張る』になると誘拐事件を解決したり、お嬢様のために猫を探したりとさらに大活躍。湊屋店主の清五郎や、しっかり者の手代・松之助など、お庸をとりまくレギュラーの個性も際立って、ますます目が離せないシリーズに成長してきた。

 そして今回刊行されたのが第4巻。その特徴を一言で表わすなら「恋愛要素、大幅アップ!」ということになるだろう。これまでにもお庸が清五郎にほのかな想いを寄せているという描写はたびたびなされていたが、今作ではお庸は自らの気持ちをはっきりと自覚、その恋心がストーリーを動かしてゆくことになる。

 葛葉(くずは)という大人っぽい美女が現れて、簪(かんざし)を貸してほしいとお庸に依頼してくる。どうやらその女性、清五郎と浅からぬ因縁がある様子。いつもは男勝りでべらんめぇ口調のお庸も、悶々と悩む日々が続いて…という巻頭作「萱草(かんぞう)の簪」がその典型。思わぬライバル出現に自信を失ったお庸が、はたしてどんな行動を取るのか。ミステリアスな清五郎の心情がちょっとだけ明かされる場面もあって、ファンには見逃せないラブコメ回になっているのでお楽しみに。

 残る4話の内容もざっと紹介しておくと、「六文銭の夜」は幽霊少女・おりょうとお庸がさまよう死者たちのために力を尽くす心あたたまる怪談。お庸を支える手代・松之助の意外な過去が語られるのが3話目の「秋時雨の矢立」。生臭坊主の瑞雲がおりょうの頼みで108体の人形を集めてまわるコミカルな幻想小品が4話目の「人形」。素行の悪さで周囲を困らせている大名の嫡男・小太郎のしつけ役にお庸が抜擢されるというのが最終話の「初雪」だ。

 ミステリーあり、人情ものあり、ちょっぴり不思議な怪談あり、「貸し物屋」という魅力的な設定をフルに使ったバラエティ豊かな5つの短編が、読者をにぎやかな元禄時代へと誘ってくれる。

 前作あたりから不穏な動きを見せはじめた、陸奥国神坂家の侍たちもますます気になるところ。ひそかにお庸を監視している彼らの目的はいったい何か? 今回もその謎は解かれなかったが、彼らの真意はシリーズが展開するにつれて少しずつ明らかにされるだろう。お庸の恋愛模様とともに、こちらも先が気になって仕方がない。

 時代小説というと、現代とは生活スタイルが異なるのでちょっと敷居の高さを感じる…という人もいるかもしれない。しかし本作では江戸時代特有のキーワードについて、随所に分かりやすい説明がなされているので心配ご無用。時代小説に初挑戦という人でも、ストレスフリーで作品世界に没頭できるだろう。

 お仕事小説、恋愛小説、青春小説、ミステリーに怪談。面白い物語のあらゆる要素を詰めこんで、ますます好調に走り続ける「貸し物屋お庸」シリーズ。今回4巻目が出たのを好機として、エンタメ文芸好きはぜひフォローしてみてほしい。

文=朝宮運河