『キカタン日記 無名の大部屋女優からAV女王に駆け上った内気な女の子のリアルストーリー』(上原亜衣/双葉社)

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 2016年5月でAV女優を引退した上原亜衣。5年間の活動期間で総出演本数は約1,000本。本数だけではなく、DMM.R18アダルトアワード2014では最優秀女優賞プラチナを獲得するなど、名実ともに日本トップクラスのAV女優だった彼女の引退は多くのファンに惜しまれた。ふだんAVを見ない層でも、テレビのバラエティー番組で彼女を認識していた人は多かったはずだ。

 そんな彼女自身の手による自伝が『キカタン日記 無名の大部屋女優からAV女王に駆け上った内気な女の子のリアルストーリー』(双葉社)である。本書で描かれているのは上原亜衣の生い立ちと、知られざる「キカタン=企画単体女優」の日常。普通の女の子だった彼女がどうしてハードな世界の頂点を極められたか、その真実を読者は知るだろう。

 意外だったのは、今でこそ熱烈な支持を集めている彼女の生い立ちがコンプレックスにまみれていたという事実だ。顔に歯並びに内気な性格に、自分の欠点を数えながら自信を持てずに生きてきた彼女は、専門学校時代に知人からの紹介でAV事務所に所属することになる。内向的だった彼女を決心させたのは「人前に立つ仕事をすれば、自信を持てるようになるよ」という知人の一言だった。自分を変えるチャンス、上原はそう考えてAV業界に足を踏み入れる。

 しかし、そこで彼女を待ち受けていたのは現実の洗礼だった。「企画女優」、それが彼女に与えられた肩書きだったのである。

 AV女優には2種類ある。一つは「単体女優」。その名の通り、自分の名前を単独で作品に冠することができる女優のことだ。事務所に入ってきた女性に顔、スタイル、キャラクターなど何か秀でているポイントがあると判断された場合、単体女優としての待遇が保証される。いわば、映画界でいうところのスター女優だ。

 二つ目は上原がキャリアをスタートさせた「企画女優」。企画女優の役どころはその他大勢の一人であり、ナンパものAVの仕込みや、単体女優の引き立て役などの仕事が回される。その名前が作品にクレジットされることは滅多になく、待遇も単体女優と比べて格段に悪い。いわば、個人の楽屋が用意されない「大部屋女優」である。そして、企画女優の中でも単独で作品に出演できる女優を「企画単体女優」、通称「キカタン」と呼ぶのだ。

 デビュー作はレズナンパもので仕込まれた相手役、主演は人気女優、大槻ひびき。完全なる引き立て役だった。その後も回ってくる仕事はオムニバス作品の素人役ばかり。元々3カ月で辞めるつもりだったという彼女だが、いつモチベーションに変化が訪れたのか? それは、同じ事務所の新人として小島みなみが入ってきたときだったという。抜群のルックスと男性受けするキャラクターを持っていた小島は即座に単体女優として契約を結び、メーカーとの専属も決定する。その待遇はAV界の花形中の花形。そして、間近で小島の躍進を見ていた上原に“負けず嫌いスイッチ”が入る。単体女優への猛烈な憧れを抱くようになった上原は一つの結論に辿り着く。

あらゆる作品に出まくれば、人気も出るかもしれない!

 そして、彼女は撮影におけるNG事項を取り払う。何でもありのキカタンとなった上原、そこから彼女の快進撃が始まるのだった。他の女優が嫌がるプレイもすすんでこなし、挙句の果てにはアフリカ原住民との撮影までOKしてしまう彼女の姿には、キカタンとしての雑草魂を感じる。「潮吹き」ができる女優は重用されると聞いて自宅で熱心に特訓するくだりは、まるでスポ魂を見ているような熱い展開だ。

 また、キカタンとして生きるハードな毎日と、ブログのような文体のライトさとのギャップが面白い。例えば、「私は過去に、潮吹きで高価なカメラを2台も壊しております(笑)」などは、間違いなく本書でしか遭遇できない日本語の並びだろう。

 本書で興味深いのは厳しい世界に身を投じていたにもかかわらず、振り返る上原の語りにはどこか愛しさが漂っている点だ。それは、キカタンの日々が内気な女の子に自信を与え、生きる道を示してくれたという恩恵を感じているからなのだろう。引退してもAVには関わっていきたいと語る彼女。今度は監督としてファンの前に戻ってくる日を願って止まない。

文=石塚就一