『みうらじゅんと宮藤官九郎の世界全体会議』(みうらじゅん、宮藤官九郎:著/集英社)

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 子どもにはわからないことも大人になるとわかるはず―。きっと多くの男性たちはそう思いながら生きてきたはずだ。しかし、社会人になり、結婚をして、子どもが生まれてわからないことはわからない。それどころか、変に知識がついてしまったがためにますます悩みは深くなっていく。じっくり考えてみようにも日々に忙殺されて、気がつけば中年にさしかかる。

 そんな忙しい男性たちの代わりに世界の難問題を徹底的に話し合ってくれる二人がいる。週刊プレイボーイの連載を一冊にまとめた『みうらじゅんと宮藤官九郎の世界全体会議』(集英社)は中年男性たちの憧れとも言うべき二人が、エロや人生、社会問題にいたるまで様々な議題を語り明かした記録である。大きな謎から小さな謎まで、アホらしくも男性にとっては大問題なテーマに中年の星たちはどのように斬り込んでいくのだろうか。

 プレイボーイ誌といえば、松本人志やリリー・フランキーなど錚々たるメンバーが歴代務めてきた人生相談のコーナーが有名である。しかし、本書は相談に対する答えを二人が返してきてくれるわけではない。答えなき問題に対して延々と二人で頭を悩ませていくのが印象的だ。あまりにも悩みすぎているがゆえに、話はすぐ脱線し、しょうもない下ネタが繰り出されるのが通例になっていく。例えば、モテない男なら誰もが知りたい「モテる男はどんなセリフで美人を口説いているのか?」というテーマではこんな風だ。

官藤 うーん。じゃあ、その「セックスしよう」のもうひとつ手前、限りなく近い意味なんだけどニュアンスが絶妙に違う、魔法の言葉っていうのがあるんじゃないですか。
みうら 「キミの瞳に乾杯!」的なこと?
官藤 映画の『カサブランカ』ですか。
みうら なんならもう一歩だけ踏み込んで「キミのアソコに乾杯!」とか(笑)。
官藤 その一言で了解する女の気が知れませんけどね。
みうら だよねぇ(笑)。

 こんな調子で官藤は生活感たっぷりに日々の疑問をぶちまけていき、茶々を入れるようにみうらがオヤジギャグを挟んでいく。二人のやりとりが軽妙と言うべきか軽薄と言うべきかは相当微妙なラインではあるのだが、ページをめくりながら吹きだしてしまうほどに面白い。「スマホは人を幸せにしているのか?」という時事問題や「なぜ人はコンプレックスを持つのか?」という哲学めいた問いかけに挑むときも結局はゆるい調子で結論は持ち越しである。

 しかし、二人が不真面目に問題をはぐらかそうとしているのかというとそうではない。珍しく終始シリアスなトーンで進行していった「なぜ戦争はなくならないのか?」というテーマの回で二人は“正義”について言及する。

官藤 (中略)自分たちの正義を証明しなきゃいけないから戦争をするっていうか
みうら それそれ。その正義って言葉がね、クセモノなんじゃないかなって。

 世の中に絶対的な正義、万人にとっての正しいことなどあるのだろうかと二人は考える。そして、敵か味方かだけの二元論が浸透し、どちらともつかない「グレーゾーン」を狭めていく社会の傾向を危ぶんでいる。

 本書を通じて二人が行っていることは「わからないことはいくつになってもわからない」という真理を証明するための議論のように見える。だからといって議論を放棄していたのでは、「絶対的な正しいこと」を妄信するのと変わりがない。そう、人生とは不安や不満の連続だ。だからこそ誰もが手軽に正解を求め、何かを心の底から信じたいと願うようになる。しかし、みうらと官藤の中年コンビの結論なき会議の連続は、「こんな気楽な考え方もあっていいのか」と社会に新しいベクトルを投げかけてくれる。そして忙しい現代人に「グレーゾーン」の大切さを再認識させてくれるのだ。

文=石塚就一