29機目の打ち上げを翌日に控えていたファルコン9ロケットが、ケープカナヴェラル空軍基地の発射台で爆発事故を起こした。搭載されていたイスラエルの通信衛星「エイモス6」はロケットから転げ落ちて失われてしまった。


ファルコン9はアメリカのスペースX社が開発した宇宙ロケット。2002年にベンチャー企業として創業した同社だが、今や5000人もの従業員を擁する巨大企業に成長した。ちなみに日本の宇宙機器産業の従業員は8000人程度だから、スペースXだけで日本の宇宙機器産業全体に迫る。


まさに破竹の勢いのスペースX。宇宙開発には失敗もつきものであり、爆発ぐらいは想定内とも言えるが、本当に死角はないのだろうか。


年間20機も打ち上げるファルコン9



スペースX社の主力ロケットがファルコン9シリーズだ。これまで28機が打ち上げられ27機が成功したファルコン9だが、打ち上げペースは年々上がっている。2010年の初打ち上げから2015年末までの6年間で20機打ち上げた(うち1機は失敗)ものが、2016年は既に8機が打ち上げられ、今回失敗した29号機を含めて19機の打ち上げが計画されている。2017年はなんと26機だ。ちなみに日本のH-IIAロケットが年間4機程度、開発中のH3ロケットが6機程度を目標としているので、ファルコン9の打ち上げ機数がいかに途方もないかわかるだろう。


当然、これほど多くのロケットを一挙に生産するには設備も人員も必要になる。スペースXは今年10月には、回収したファルコン9の1段目ロケットを使った初の「再使用」を予定しており、これがうまくいけば大幅なコストダウンが見込めるうえ、新規製造する機数を減らすこともできるだろうが、いきなり多数の再使用ができるとも考えにくい。本当に可能なスケジュールなのだろうか。


商業フライトで技術試験をするスペースX



10月に打ち上げる「再使用ロケット」は試験機ではなく、ルクセンブルグの衛星通信企業「SES」の通信衛星を搭載している。SESはファルコン9をこれまで2機使用しただけでなく、今後も継続的に使用する予定で、初の再使用というリスクのあるフライトも購入したお得意様だ。


これまでもスペースXは顧客の貨物を載せた「商業フライト」で技術を試験してきた。1号機は自社の技術試験に使ったものの、2号機はドラゴン宇宙船の試験飛行で、ロケットとしては実運用と言って良い。6号機は早くも全面改良型のファルコン9 1.1の初飛行、7号機では初の静止衛星(これもSESの衛星)を打ち上げている。6号機以降では第1段の逆噴射で降下テストを繰り返し、20号機で初の地上着陸、23号機では海上の台船に着陸することに成功した。以後、ファルコン9は第1段を回収するのが基本になっている。また、20号機以降はさらに改良型のファルコン9フルスラストと呼ばれるタイプになった。


スピード感と背中合わせの不安定感



こういったテストを繰り返しているということは、毎回のように何らかの設計変更があると想像できる。しかも6号機から現在まではわずか3年しかなく、その間に20機以上のロケットを製造して打ち上げ、膨大な試験を行ったことになる。これを肯定的に考えればスペースXの「ベンチャー企業」的なスピード感だと言えるだろうが、信頼性や安定感という観点からはやや難があるようにも思われる。


また、今回の爆発でケープカナヴェラルのLC-40発射場は大きく破損したと思われる。スペースX社は、隣接するケネディ宇宙センターのLC-39B発射場(以前はスペースシャトルの打ち上げに使われていた)をファルコン9用に改造しており、10月の打ち上げから使用する予定だが、LC-40発射場の修復に時間がかかれば今後の打ち上げにも影響するかもしれない。なにしろ年内だけでもあと9機、来年は26機の打ち上げが控えているのだ。


溜めすぎた契約、スケジュールの遅れは致命傷にも


衛星を運用する企業は、衛星を利用したサービスを行うビジネスだから、打ち上げが遅れれば顧客へのサービス開始が遅れることになり、利益を逃してしまう。顧客が希望する時期に衛星を打ち上げるのはロケット打ち上げの基本だ。


従来、商業衛星の打ち上げで最大のシェアを誇ってきたロケットは、ヨーロッパのアリアン5だ。そして低価格を武器に参入したロシアのプロトンなどがシェアを分け合っていたのだが、プロトンは2010年以後毎年打ち上げに失敗し、その都度打ち上げが遅れて信頼を落としてしまった。そこで、入れ違いのように登場した新参のスペースXが大幅にシェアを獲得したのは低価格だけでなく、アリアン5の独占を衛星運用企業が嫌い、対抗馬を育てたかったという事情もある。


こうして大量の受注を獲得したスペースXだが、2016年と2017年で40機以上の打ち上げを計画しているのは顧客がこの時期に集中したからではなく、これまでの打ち上げが遅れて溜めに溜めてしまった結果だ。2015年は6月に6機目で打ち上げに失敗、12月にようやく1機を打ち上げた。2016年は9月に9機目が失敗。結果的に、月1機ペースの打ち上げですら途中でトラブルを起こし、後半ストップする格好になっている。どうも、年20機前後のペースで打ち上げるという計画に無理があるようにも見える。


2010年代前半は、衛星運用企業も「ファルコン9がスケジュール通り上がるとは思っていない」と暖かく見守っていたのかもしれない。しかし2年連続で打ち上げに失敗し、年20機ペースの計画を立てながら実績では10機程度しか打ち上げられないという状況では、今後の新規受注どころかキャンセルも出かねない。


信頼を失ったロケットが契約を失った例は、日本にもある。H-IIAロケットはH-IIロケットの価格を大幅に抑えたロケットのため、開発中に30機ぶんもの商業打ち上げ契約を獲得していた。ところがH-IIロケットが2機連続で打ち上げに失敗、H-IIAロケットも開発が遅れると、この30機の契約は全てキャンセルされてしまった。以後、H-IIAロケットの商業契約は長い苦戦の時代に入ってしまったのだ。スペースXもこうならないとは断言できない。


2020年代のロケット低価格化競争で生き残れるか



ファルコン9は圧倒的な低価格を武器に衛星打ち上げ市場に参入したが、2020年頃にはヨーロッパのアリアン6、日本のH3などコストを抑えた新型ロケットが次々に登場する。従ってスペースXは今後数年でファルコン9の低価格化を図って、これらのロケットを突き放さなければならない。その切り札が再使用だ。


また、ヨーロッパや日本の新型ロケットが主に政府資金で開発されているのに対して、スペースXは投資などで開発資金を得なければならない。ロケットの開発費は数百〜数千億円程度にもなるが、1機のロケット打ち上げ価格はファルコン9で60億円程度で、今後さらに値下げしていく。相当な数を打ち上げなければ資金的に苦しくなるだろう。そう考えるとスペースXは、できるだけ安い費用で次世代機を開発し、できるだけ安い価格で顧客を獲得し、大量のバックオーダーで投資家を説得するという「宇宙自転車操業」の状態にあるとも言える。スペースXが提唱する火星探検も派手な再使用実験も、こういった「将来有望な企業」だということをアピールする意図があるのは明白だろう。


事実上人類初と言っても良いであろう、総合宇宙開発企業に発展しつつあるスペースX。しかし、バラ色の未来を描いて莫大な投資を集め、夢と終わった企業もまた、歴史上にいくらでもある。スペースXが乗り出した宇宙の海原は、まだまだ波が高い。


Image Credit: SpaceX