【日本代表コラム】“チャレンジ”した監督、“チャレンジ”できなかった選手

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▽「本当に心の底からガッカリしている」。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の口から最初に出てきた言葉だ。埼玉スタジアム2002に集まった58895人の観衆、テレビの前で観戦した人、スマートフォンやパソコンの前で文字情報を追っていた人──この一戦の結果を気にしていた多くの人が、同じ感想を抱いたのではないだろうか。

▽日本の立ち上がりは悪くなかった。11分にMF清武弘嗣のFKをFW本田圭佑がヘディングで合わせ、幸先良く先制する。これで勢いに乗りたかった日本だが、ボールを握るもミスが目立ち決定機を作れず。すると20分にA・ハリルに直接FKを沈められ、同点に追いつかれる。

▽同点ゴールを許した後もペースを握った日本だったが、MF香川真司が決定機を逸したり、細かいパスミスが目立つなどして時間が経過。同点で迎えた後半は立ち上がりにPKからA・ハリルに逆転ゴールを許し、そのまま1-2で敗れた。

▽この試合を前に、日本はDF長友佑都、MF柏木陽介とレギュラーとしてプレーした2選手をケガで欠くこととなった。長友の代役はDF酒井高徳が濃厚とされていたが、柏木の代わりをどの選手が務めるのかに注目が集まっていた。そして、ハリルホジッチ監督は、柏木の代役に日本代表初キャップとなるMF大島僚太を選択した。

▽ワールドカップの出場権を懸けた最終予選、そしてホームでの初戦ということを考えれば、MF山口蛍という選択肢もあっただろう。しかし、ハリルホジッチ監督は大島を選んだ。個人的には、この決断は賛成だ。経験値を考えれば山口の方が優勢だったが、川崎FやU-23日本代表で見せていた大島のゲームメイク力は、柏木が抜けた日本にとっては必要だった。

▽前半は、UAEも香川や本田、清武、FW岡崎慎司と言ったネームバリューのある前線の選手を警戒しており、大島の前にはスペースができることが多かった。しかし、川崎FやU-23日本代表で見せた鋭い縦パスや、大きなサイドへの展開、思い切りの良いミドルシュートは見られなかった。

▽「こういう試合で恥ずかしさを見せるところがあった」(ハリルホジッチ監督)と試合後の会見で語ったが、状況を考えれば当然かもしれない。また、リオ・デジャネイロ オリンピックから帰国したあと、インフルエンザでコンディションを落としながらもリーグ戦2試合に出場。コンディションが上がってないことも影響したはずだ。ただ、A代表に選ばれた選手と考えれば、残念に感じる部分でもあった。

▽しかし、大島のプレーが悪かったのかと問われたら、期待通りのプレーではなかったかもしれないが、問題は別のところにあるように思う。それは、ピッチの幅を使えなかった部分だ。

▽「縦に早いサッカー」とハリルホジッチ監督は口にする。しかし、UAE戦の攻撃はスピード感はなかった。むしろ、手数をかけ過ぎて、UAEの守備陣に余裕を与えていた印象だ。ダイレクトパスを繋いで、ボックス内に侵入したプレーがいくつあっただろうか。判断が遅く、プレーの選択肢が狭まってしまったシーンも多く見られた。

▽また、サイドを効果的に使えなかったことが停滞した大きな要因だろう。清武、本田とサイドにポジションを取る2人が中を向いてプレーする。しかし、2人が空けた裏のスペースに両サイドバックが上る機会は少なく、上がった際もタイミングが遅い場面が散見された。攻撃時にサイドの枚数を増やせば、UAE守備陣を混乱に陥らせることはできただろう。ダイレクトパスで崩すことも可能だったはずだ。

▽UAE戦の日本は、中央に攻撃が偏り過ぎたように見えた。しかし、警戒されていた香川にボールは収まらず、効果的な崩しはできていなかった。ハリルホジッチ監督が大島を抜擢した意図を汲み取れば、サイドバックがスペースに上がって展開する形や、2列目が裏に飛び出す動きがもう少しあっても良かっただろう。特に両サイドバックの動きは、物足りないものだった。

▽ハリルホジッチ監督は、大島という新たな可能性を信じ、「負ければ予選突破の確率が0%」と言われる大事な一戦で起用する“チャレンジ”に出た。しかし、ピッチに立った選手たちは、監督が求めるプレーを行えず、「自分たちのサッカー」とも言える中央を遅攻で崩す形に拘った様に見えた。過去に何度も苦しんできたアジアでの戦いで、同じ手で仕掛け、失敗したように思う。新たに入った大島の特長を生かそうという“チャレンジ”は、していなかったのではないか。

▽埼玉スタジアムの不敗神話が崩れ、W杯最終予選の初戦で敗戦。出遅れたことは事実だ。ネガティブな雰囲気が蔓延するのも当然だ。それでも、残りは9試合。悪い雰囲気を払しょくするためにも、まずは6日に行われるタイ代表との第2戦でしっかりと勝利し、10月のイラク代表、オーストラリア代表との2試合を迎えたい。

《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》