「幻想交流」

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 漫画や映画などで、登場人物がその世界・物語が作りものであることを肯定する表現手法を、メタフィクションという(たとえば、「自分は主人公だから、最後は助かる」と発言するなど)。まるで、私たちが住む3次元とフィクションである2次元のあいだにある「壁」を踏み越えるような、あるいはレンガの壁を透明なガラスに変えるような行為。2次元のものを3次元に引き込むことはできない。しかし、2次元を3次元の傍へ引き寄せることならできる――そう解釈するのは大げさだろうか。

 Web小説『幻想交流』(芝村裕吏)には、メタフィクション的な仕掛けが散りばめられている。この作品は、高速道路のサービスエリア・パーキングエリア(SA・PA)を運営する企業・NEXCO中日本と、ネット上でエンタテインメントコンテンツを提供する株式会社ドワンゴによる同名のプロジェクトから生まれたもの。作中には日本に実在する地名や企業が多数登場し、現実と幻想との距離を縮めている。

 物語は、2020年度に全線開通予定の新東名高速道路の建設中に、異世界“希望” (エルス)が発見され、その対応に追われる場面から始まる。エルスは過去の大きな戦争によって荒れ果てているが、もともとの地形は日本と同一。

 現実の日本と異世界との決定的な違いは、魔法のような異能力「絶技」と人間を襲う魔法兵器「戦闘騎」の存在である。絶技と戦闘機を駆使した大戦により、荒廃してしまった異世界・エルス。その現状を知り、そこに住む人との交信に成功した日本の合弁会社「NEFCO」は、エルスの支援に乗り出す。人が行き来したり物資を届けたりといった物理的なやりとりは不可能だが、日本の地図上の座標やさまざまな知識といった情報交換であれば可能だからだ。

 第1部となる「ハママツ篇」では、NEFCO社員の藤前と異世界の少女・通称ハママツさんとの交流を軸に物語が展開する。感情に左右されやすい独身男と、意地っ張りだが本当は気が小さい普通の女の子――まるでかみ合わないふたりは、口を開けば喧嘩ばかり。それでも、藤前は異世界支援のため、ハママツさんは人口過密にあえぐ故郷を救うため、旅に出る。旅の途中、藤前とハママツさんの両名に起こる苦難や、ふたりの感情の変化は、ぜひ本編でお楽しみいただきたい。

 見どころのひとつは、ハママツさんが戦闘騎に襲撃される場面。そのピンチを救う異世界の少女・ナガシノさんと戦闘騎・シタラによる、戦闘シーンのスピード感は圧巻だ。戦闘後のハママツさんやナガシノさんたちの、ほのぼのとした会話とのギャップも魅力的である。

 同プロジェクトはWeb小説に留まらず、9月2日よりプロジェクト第二弾となる4コマ漫画も開始されており、さまざまな媒体への進出が見込まれている。現にキャラクターデザインは、『涼宮ハルヒ』シリーズの挿絵などで知られる、いとうのいぢ氏をはじめ、著名なイラストレーター6名が担当。今後はニコニコ動画や紙媒体にも展開していくという。ゆくゆくは、アニメ化も期待できそうだ。小説では想像するしかなかった戦闘騎の風貌や絶技の演出など、将来的な映像化への興味は尽きない。

 また、「ハママツ篇」の終盤では、現実の読者の意見や応援メッセージをネット上で募集し、その結果を最終話に反映していた。一読者の言葉は、ほかの読者にも伝わり、作者のもとにも届いていく。「言葉だけのつながり」が主題ともいえる作品なだけに、こうした読者を巻き込む取り組みを、9月2日(金)より連載開始された「スルガ篇」でも続けてもらいたいところだ。

 ちなみに8月9日に完結した「ハママツ篇」は、日本最大の書評サイト「読書メーター」内で図書券3000円分が当たるレビューキャンペーンが実施されている。これを機会に2.5次元の世界観に触れてみてはどうだろう。

文=上原純(Office Ti+)