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出演強要問題に揺れているアダルトビデオ(AV)業界。業界歴約30年の男優「辻丸」(つじまる)さんも、女優を拷問、罵倒するなどのサディスティックな作品で、人権侵害的な撮影を経験してきたという。「昔と比べてクリーンにはなったけれど、グレーな体質は残っている」(辻丸さん)

辻丸さんは「AVで食ってきたので是非もない」として、男優を続けているが、女優に対する後ろめたさから、ツイッターやブログで業界の問題点を独自に発信している。辻丸さんによると、AVを取り巻く問題の根幹には、男社会における女性の自由意志や解放などの「女性問題」があるという。どういうことなのだろうか。

●「男尊女卑」「女の敵は女」という考え方

−−強要問題に対する業界内の反応をどう見ていますか?

「男尊女卑」と「女の敵は女」という2つの問題があると感じています。まず「男尊女卑」ですが、今回の問題で意見を発信しているのは女優ばかり。業界の男は一部を除いてほとんど何も言っていません。

たとえば、6月に大手プロダクションの元社長たちが逮捕されたとき、ツイッターでは所属女優が事務所側をかばう投稿をした。なんで女の子たちに言わせるのか。本来、プロダクションがコメントを出さないといけない場面だったと思います。

「AVAN」という出演者の権利団体もできましたが、その中心になっているのも元女優・川奈まり子さんです。業界の男は表に出てこなくて、女性ばかりが動いている。いざというとき、本当に女の子を守ってくれるのか分からない。

−−「女の敵は女」とは?

今回の業界の反応は、「学校のいじめ」に似ていると思うんです。「AV村」というクラスでいじめが起きたけど、みんな「今時、聞いたこともない。私たちのこんな楽しい学校で、いじめなんてあるはずない!」と見て見ぬふりをしていた。

確かに業界は30年でかなりクリーンになりましたが、体質的にグレーな部分はまだ残っている。業界から大事にされている売れっ子ほど、怪しげな部分と「一緒にしないでよ」という気持ちが強いと感じます。

ツイッターの投稿を見ていると、業界内部では「被害者の選別」が起きているように見えます。被害を訴えても、同性の女優がなかなか手を差し伸べてくれない。たとえば、出演強要の被害を告白した女優の香西咲さん。彼女は業界にとって、「都合の良い被害者」です。騙されてAV女優になったけど、悪いのは一部のプロダクション。今は業界愛に満ちている。だから、業界の女性たちも香西さんには賛同しています。一方で、業界愛のない被害者の事例は無視するか、「例外」であることを強調している印象があります。

●稼げない、立場の弱い出演者はどうなるのか

−−業界内では健全化に向けた動きが進んでいるようですが…

今回、僕は健全化の名の下に、一番立場の弱い人たちが真っ先に切り捨てられるんじゃないかと危惧しています。

大手AVメーカーなどでつくる「知的財産振興協会(IPPA)」が健全化に向けた声明を発表したり、「AVAN」が契約書の問題に取り組んだりしていますが、多くの女優はプロダクションと良好な関係を築いています。

本来的な意味での「健全化」を必要としているのは、立場の弱い女優や男優のはずです。今は全部、業界の「上のほう」で盛り上がっていて、無名に近い出演者たちが置き去りにされているように感じます。これから具体的な方向性が示されていくと思いますが、出演者の声が反映された健全化になることを期待しています。

キャンプ場でAVを撮ったということで、7月に出演者ら52人が書類送検されましたよね。今後、集団物の撮影は難しくなるかもしれない。そういうジャンルに出演していた女優や男優をどう守っていくのかが大事だと思います。

−−人権団体についてはどのように見ていますか?

人権団体が8月に出した「AV業界に対する要請書」では、「本番」をしないことや拷問・レイプ物の禁止などが挙げられていました。これは「出演強要」と直接関係ないのでは。僕は読んでいて、「業界潰し」のようにも感じられました。

もちろん、出演強要は問題です。ですが、直接関係ない本番や特定ジャンルまで禁止してしまうと、好きでやっている女優はどうなるのでしょうか。そういう撮影をしないと稼げない、立場の弱い女優・男優の仕事はどうなるのでしょうか。人権団体には、望んでAV女優になる子がいる、ハードな作品でも積極的に出演したい子がいることも分かってほしい。

●「AV業界人も当たり前の人間と認めて」

−−業界外からの偏見を感じますか?

今、風俗や売春が「女性の貧困」と結びついて社会問題化していますよね。風俗や売春は古くから文学や映画のテーマとしても扱われています。でも、AVは違う。ただただ怪しくて下劣な業界だと思われている。

その理由のひとつは、積極的に人前に出る仕事だから。世間はその感覚を理解できないんだと思います。なので、「芸能人にならないか」と騙され、無理やりAVに出演させられても同情されにくい。人権侵害的な撮影をされても、望んでAV女優になったのだから、「何をやられても良いだろ」と言われてしまう。男性に「どうせ女だから」という気持ちはないでしょうか。同性の女性から、嫌悪の対象として見られている部分はないでしょうか。

AVに対する偏見は絶対になくならないでしょう。でも、これだけAVが出回っていて、見ている人はたくさんいるわけです。せめて、「AV業界人も当たり前の人間」だということは認めてほしいです。欠点や問題も多いかも知れませんが、普通に泣いたり笑ったりしている世界なんです。特に女優さんたちにとっては経済的・精神的・性的の3つのセーフティーネットになっている、極めて現代的な問題を含んだリアルで切実な業界なんです。

AVの問題はやはり「女性問題」だと思います。AVをセーフティーネットとする女性に対し男女からどういう目線が向けられているのか、AVにどれだけの偏見があるのか、なぜ彼女たちはそれでもAV女優を選ぶのか。そこを社会が認識しないと、AV絡みの問題を根本からなくすのは難しいと思います。

(前編:『AV業界30年の男優・辻丸さん「次に検挙されるのは僕かも」撮影現場の実態語る』はこちら→https://www.bengo4.com/internet/n_5043/)

(弁護士ドットコムニュース)