大手チェーン店の魚はなぜマズい?焼かない“焼き魚”の謎

レアな事件かもしれないが、ここ何年か、外食チェーンでいろいろな問題ーー食品偽装問題からブラックバイト問題までーーが起きているように見える。いったいなぜなのか? 食品安全教育研究所代表・河岸宏和氏に話を聞いた。
◆安い給料で真空パックを茹でてくれる人が求められる
河岸氏は、「利益優先で人材を育成しないビジネスモデルが限界を迎えている」と指摘する。
「例えば焼き鮭ひとつとっても、今は職人が焼いているチェーン店なんてほとんどありません。火が通った状態でパックされたものを湯煎するだけ。企業にとっては『食の感動』よりも『いくら儲けるか』が重要なのです。
つまり、鮭を上手に焼ける人よりも、安い給料で真空パックを茹でてくれる人こそが求められる。それが今の外食産業の本質なんです」
「合理化」という名目のもと、単純化されていく仕事。でも、一生真空パックを茹でることで満足する人などいるはずもない。
「成長を感じられない職場に人は残りません。大根の桂剥きを教えてもらい、苦労してできるようになった。この実感の積み重ねが『職人=プロ』をつくり上げていくのです。真空パックを茹でる作業をいくら繰り返したところで、手応えも成長もなければ、続けるモチベーションも湧かず、適当な仕事になるのは仕方がないことです」
◆技術がないから、刺し身から水が出て…
現場がやる気のない素人だらけだったら、形だけ職人の真似事をしてみたところでうまくいくはずもない。
「ある居酒屋チェーンが豆腐を自家製にしたまでは良かったのですが、提供前に小分けにしているため、水分が出てまるでおいしくない。はたまた高級魚のフェアを売りにしても、調理技術がないものだから、刺し身から水が出て食べられた代物じゃない。
本部の試食では、すくいたて・切りたてなのでしょうが、現場にプロがいない限り、行き届いた品質管理は難しいのです」
魅力を失った業界では、ふらふらと店を渡り歩く「半人前」の料理人はいても、しっかりとした技術を持つ“本物のプロ”は絶滅危惧種になっているという。
「技術とは、時間とコストをかけて受け継いでいくもの。今後、人材を使い潰す利益至上主義のチェーン店は衰退の一途でしょう。反対に、地域密着で地道に営業している個人店のほうが信頼できる。ただ、個人店は二極化が激しく、ハズレを引くととんでもない店があるので、利用者の目利きが試されるでしょうね」
「まっとうな店を見分ける客」が増えない限り、個人店でもチェーン店でも、まっとうな店は増えないのかもしれない。
―こんな店で食べたくない![飲食業界]の裏側【10】―