毒をもって毒を制す。「がんを破壊する」新ウイルスを東大が発表

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食の安全を考えるうえで、ネガティブなイメージがつねに付いてまわる「遺伝子組み換え」。だがその技術を用いれば、人間にとって厄介な存在のはずのウイルスが、がん細胞を死滅させる。今、がん治療の最前線で「第4の治療法」と呼ばれる療法が注目されている。

ウイルスの遺伝子を組み換え
がん細胞撃退の特効薬に

2016年8月28日、「がん細胞を破壊する新たなウイルスを東京大学の谷憲三郎特任教授らが開発した」と日本経済新聞電子版が報じた。

10年ほど前から進められてきた研究は、サルを使った非臨床実験でその安全性と有効性が確かめられたことで、今後、がん細胞を持った患者の腫瘍に直接注射する臨床研究を2年以内に始める予定、と。

今回開発されたウイルスは、成人の大腸などにいる「コクサッキーウイルス」をがんの治療用に改良したもので、がん細胞を死滅させる効果があるという。

がん治療といえば、外科的手術や抗がん剤による治療、放射線治療などが主な選択肢。ここに近年「第4のがん治療法」として、大きな期待が寄せられているのがウイルス療法だ。

この革新的な療法の扉を開いたのが、他でもない遺伝子組み換え。この技術無くして、ウイルス医療は実現していないというから面白い。

毒をもって毒を制す
がん細胞を死滅させるウイルス

インフルエンザ、エイズ、エボラ出血熱、ジカ熱…、これまでウイルスによる感染と常に闘ってきた医学が、その感染力を逆手に取りがんの治療に役立てる。まさに“毒をもって毒を制す”的発想。

人間の体内に存在するウイルスの遺伝子を、一部改変してがんの治療に用いる。こうした研究は、革新的ながん治療法として、これまでにも様々なウイルス種で臨床化を目指した研究が行われてきた。

今回の谷教授の研究グループの他にも、東大医科研、岡山大学、さらには名古屋大と三重大とタカラバイオの共同チームら然り。抗がん剤や放射線治療で対処できない事例にも治療効果が期待できる新医療は、世界中の先進医療の現場で関心が高い。

なぜ、ウイルスを使えば
がん細胞を破壊できるのか?

じつはこうしたウイルス療法は、100年近く前から研究が続けられていたらしい。それが1960年代に、たまたまウイルス感染したがん患者の腫瘍が収縮した症例に着目した研究者らが、「がん治療に有効かもしれない」と仮説の検証に乗り出した。

けれど、当初投与されていたウイルスは、人間の手を加えない野生型のもの。そのため病原性を制御できず、がん細胞は破壊できても正常な細胞まで破壊してしまい永らく確立できずにいた、と東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授は「先進医療推進機構(AMPO)」に説明している。脳外科医で脳腫瘍が専門の同教授は、がん治療ヘルペスウイルス(G47デルタ)を開発した人物だ。

1980年代に入り、遺伝子組み換え技術が発達したことや遺伝子の機能が解明したこともあって、ようやくウイルスを制御できるところまで科学が追いついてきた。ウイルスの病原性の制御に遺伝子組み換えあり、という訳。

遺伝子を人工的に改変することで、病原性を自在にコントロールする。すると、正常の細胞では増殖できないものが、がん細胞でのみ増殖し細胞内から破壊。これにより正常な細胞を傷つけることなく、がん細胞だけを死滅させていくという、ウイルス療法の概念が完成した。

がんの多様性に対し、
ウイルスを使い分ける時代

けれど、臨床実験による安全性が示されてようやく製品化へと段階が進む。実用化に向けた道のりはつねに一歩ずつだ。

それでも、がんの多様性に対応する特効薬として、さまざまな機能を持ったウイルスを使い分ける時代がやってくる。がん治療革命の幕開けに期待する人は少なくないのだから。

Reference:日本経済新聞,東京大学医科学研究所付属病院,AMPO