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●「怪獣ブーム」とは
 今から50年前の1966年1月2日、記念すべきウルトラシリーズの第1作目『ウルトラQ』が放送を開始した。『鉄腕アトム』や『鉄人28号』などのアニメを見ていた子供達は、一斉に怪獣の虜となった。すでにゴジラ映画は6本を数え、前年の1965年にはガメラがデビューした。『ウルトラQ』終了後、これに拍車を掛けたのが同時期に始まった『ウルトラマン』と『マグマ大使』。見た事もない巨人が大怪獣を退治していく雄姿に、日本中の子供達のパッションがマックスで弾けた。
 これに触発された東映も『キャプテンウルトラ』『ジャイアントロボ』『仮面の忍者赤影』と次々に怪獣の登場する番組を制作。大映はガメラのシリーズ化に併せて『大魔神』を発表し、日活と松竹も大手の意地を見せて参戦した。そして少年誌はこぞって怪獣特集記事を組み、怪獣関連の出版物や玩具が記録的セールスを計上した。これは「怪獣ブーム」と呼ばれる社会現象となり、『ウルトラセブン』が終了する1968年まで続いた。
 ちなみに『帰ってきたウルトラマン』『仮面ライダー』が始まる1971年から1974年にかけて再ブームを起こすが、これは「第二次怪獣ブーム」(「変身ブーム」ともいう)と呼ばれ、最初のブームは「第一次怪獣ブーム」として厳密に区別されている。

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 凄かったねえ〜『シン・ゴジラ』。庵野秀明のセンスに脱帽し、その原点である1954年版『ゴジラ』(54年)を改めてリスペクトしたのだが、東宝にはゴジラ作品以外で「怪獣映画の最高傑作」とマニアから称賛される作品が存在する。それは後にクエンティン・タランティーノや『進撃の巨人』に多大なるインスピレーション、そして私やみうらじゅんさんなど、当時の子供達に深々とトラウマを与えた「東宝フランケンシュタイン」2部作だ(みうら氏が両作品の熱烈ファンである事は業界で有名)。

 毎年8月6日(広島)と8月9日(長崎)に原爆忌の慰霊式典が執り行われるが、原爆投下からちょうど20年目の1965年8月8日、『フランケンシュタイン対地底怪獣(「バラゴン」とルビ)』が公開された。1960年生まれの私が5歳の時に生まれて初めて映画館で観た映画がこの作品で、時代背景としては「怪獣ブーム」の前年だった。

 終戦直前、ナチスドイツから広島市内の陸軍病院に、不死身の兵士を作る「フランケンシュタインの心臓」と呼ばれる人工臓器が極秘裏に運び込まれる。そこへ原爆が落ちて15年後、被曝治療に献身するアメリカ人科学者が勤める広島国際放射線医学研究所に保護された浮浪児は、助手の季子(怪獣ブームPART1『怪獣大戦争』の水野久美)に「坊や」と可愛がられながら、驚異的なスピードで成長していく。「フランケンシュタインの心臓」は原爆にも耐え、異形の怪人に変貌を遂げていたのだ。

 檻の中にいる怪人は場面が変わるたび、『進撃の巨人』でいう「4メートル級」に始まり「7メートル級」の身長に巨大化していく。このサイズがリアルに怖くて、『進撃の巨人』のルーツをまずそこに見る。やがて怪人は研究所を脱走し20メートルに成長を遂げ、人間や家畜を食い漁る地底怪獣バラゴンと富士樹海で激突し、果てしない死闘を繰り広げる。

 そして翌年、『ウルトラマン』の放送開始(7月17日)により加速された怪獣ブーム真っ只中の夏休みに、東宝は姉妹編となる『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』を公開する。ちなみに姉妹編と書いたのは、世界観の繋がりはあるが、独立した作品として成立させる都合上、登場人物や設定が微妙に違っていて、完全な続編とは言えないからだ。

 前作で死んだと思われたフランケンシュタインの怪人が、山に棲む兄「サンダ」と、海に棲む弟「ガイラ」に細胞分裂する(民話『海彦山彦』からのインスパイアだが、兄弟が逆)。茶色の体毛で覆われた身長30メートルのサンダは、育ててくれたアケミ(前作から続投の水野久美だが役名は変更)への恩義を忘れていない温厚な性格。一方、後から育った身長25メートルのガイラは海藻のような緑色の体表が不気味で、めくれたような上唇が凶暴な性格を体現している。両者をデザインしたのは、ウルトラマンとウルトラセブン、そしてカネゴン、バルタン星人など多くの有名怪獣を意匠した前衛芸術家・成田亨だ。

 さて、怪獣映画史上最凶と言われたガイラの悪役ぶりが、放送禁止級のヤバさだ。まずガイラは夜の海で漁船を襲う。全体重を掛けてユッサユッサと船を揺さぶり、海に投げ出されて必死に泳いで逃げる船員達を、後ろから追いかけメダカのように次々とすくい上げてムシャムシャ。羽田空港では管制ビルの窓に手を突っ込み、花束を持った女性を虫のように捕まえて口に放り込み、モグモグしてから花束だけを「ペッ」と吐き出す。海外公開版では、ボロボロになった女性の衣服を吐き出し、そっちの方がさらに怖かった。

 私は『ジョーズ』(75年)より8年先に、「海で何かに食われる」という恐怖感をこの映画でインプリントされた。しかもサメより人型の怪獣、つまり巨人が人を食うビジュアルの方がカニバリズムを想起させ生理的に怖い。それは『進撃の巨人』で証明済みであろう。「キシェーッ」という狂的な鳴き声もイヤだ。スーツに入っていたのはゴジラの中島春雄で、このガイラがベストワークと本人が認める円熟の極みだった。

 一方、ガイラを攻撃する陸上自衛隊の超兵器「メーサー殺獣光線車」のカッコよさにメカ萌え! パラボラ型の先端部から光線が命中するたび、メチャメチャ痛そうに苦悶してのたうち回るガイラ。その周囲で木々が吹っ飛ぶ演出も細かい! これに「ゴジラのテーマ」を作曲した伊福部昭による勇壮かつ流麗なマーチ曲が被さり戦況を盛り上げる名シーン中の名シーン! 30数年前、私の怪獣ソフビ・コレクター仲間の知人は、この場面に痺れて怪獣と戦いたくなり、本当に陸上自衛隊へ入隊してしまった。

 さて、人間に育てられた「良い子」のサンダは、人間を食べる「悪い子」のガイラを叱り飛ばしてボコボコに折檻する。だが発達障害の弟は逆ギレし、世紀の兄弟喧嘩に発展! ラスト、2大怪獣の死闘は、丸の内から晴海ふ頭、そして東京湾へともつれ込む。この辺の肉弾戦を見れば「あ、『進撃の巨人』!」とすぐに気付くであろう。

 また日本の怪獣映画が大好きで堪らないタランティーノ監督は、その格闘シーンをDVDでユマ・サーマンとダリル・ハンナに見せ、『キル・ビルVol.2』(04年)における演技プランとした。他にも井筒和幸監督の『岸和田少年愚連隊』(96年)に登場する不良兄弟サンダとガイラ(本当の双子役者)など、『サンダ対ガイラ』は国内外のクリエイターに広く影響を与えているのだ。

 今回はいつものようにストーリーは紹介しなかった。もしこの2作品を観ていない怪獣好きの読者がいるならば、死ぬまでに1度は観て欲しいからだ(PCやスマホで観ちゃダメ)。怪獣ブームを原体験した我々オジサン達にとって、それがいかに強烈な存在だったかを感じてもらえるであろう。

(文/天野ミチヒロ)


『世界大怪獣カード』(現代芸術社、1966年発行)の中の1枚。成田亨自ら描いたが、どっちも緑色。成田先生、サンダの色を忘れちゃったのか? ※筆者私物