半べそをかきながら読書感想文を書く…(※イメージ)

写真拡大

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「天国と地獄」。

*  *  *
 子供のころ、4チャンネル(日本テレビ)で欽ちゃんの募金活動が始まると、なんだかうすら悲しい気持ちになったものだ。アグネス・チャンにむやみにイライラし、黒柳徹子を「なにがユニセフだ!」と恨んだ。完全に逆恨みだが「ボクだって救ってほしいんだ! 徹子っ!」と夏空を仰いだ。

 永遠に続くと思うほど長かった夏休みがもうじき終わってしまう。「天国」から「地獄」へ逆さ落としだ。

「宿題をやれ」。7月から親に言われ続けてきた。そんなコトを言う親はバカだと思っていた。

 8月最終週になり、その意味がよーくわかった。毎年、わかっていたはずなのに。今年も初めてわかったかのように反省の態度を示して、親きょうだいに泣きつく。絵日記のお天気欄。

「今日までの天気、覚えてる?」

 半泣きで姉に助けを求める。「だいたい“晴れ”にしてバランスよく“雨”と“曇り”を散らしとけ!」

 そんなもんか?……と思ったが、切羽詰まっているので言われた通りに書き込む。

私「自由研究……『恐竜について』ってテーマは決めたんだけど……まだ何もやってない」
姉「広く構えすぎなんだよ。世界中の偉い学者が常日頃研究してるコトをお前ごときが夏休みでできるわけないだろう……」

 全くもってその通りである。

「百科事典をいいかんじに写して、恐竜の絵を描いておけ!」

 姉はそう言って事典にある恐竜の説明を選り抜いて、「ここを写せ」とアンダーラインを引いてくれた。下手くそなトリケラトプスの絵を描きながら、

「まさに『地獄』」と嘆いたもんだ。

 何言ってんだ。のんべんだらりと「天国」を謳歌してたくせに。自業自得もいいところ。呆れてものも言えない。

 小学生の子を持つ親になった今、我が子がまるで同じ過ちを繰り返している。俺の小学生時代を収めた教則DVDがあるのか、と思うほど同じだ。

 自分が幼い時に言われた同じコトを我が子にも言う。

「宿題やれ、早くやれ、夏休み終わっちゃうぞ、どーすんだ?」

 我が子は半べそをかきながら読書感想文を書く。世代をまたいでおんなじコトの繰り返し。

 なんだか、イヤんなるなー。これは世界から戦争がなくならないのと同じなんだろうか? 人類はホントに学習しないな。

 一方、小言を撒き散らしつつも内心は「夏休みの宿題なんて、だいたいでいーんだよ」と思ってる自分がいる。まるでやらなきゃ怒られるが、怒られるだけで済む。針の山に落とされ、血の池に沈められることもない。謝っておけば、だいたい丸く収まる。夏休みの宿題で人生が左右されることなどまずない。些末なことで子供はヒーヒー言うが、「地獄」なんてそう簡単に手に届くところにはない……。

 そんなコトは承知のうえで、一応子供の尻をひっぱたいて宿題をやらせる。

 だから今週号は我が家に送らないでほしい、担当のNさん。これを読んで我が子が「そんなものか……」と悟るとまずいから。悟るのはまだちょっと早い。

 でも、そんなものだ。夏休みの宿題なんて。命までとられるわけじゃあるまいし……これがわかったら世の中「天国」みたいなもんだ。

週刊朝日  2016年9月9日号