『妹、分裂する』(竜田スペア:著、植草航:イラスト/KADOKAWA 富士見書房)

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「1匹みたら、100匹は居ると思え!」といわれる茶褐色のアイツ以上の繁殖能力を人間が獲得してしまったら、この世は一体どうなってしまうんだろう。そんな突拍子のない設定の小説がネットの世界を飛び越え、これからますます大きな話題を呼びそうだ。

 竜田スペア著『妹、分裂する』(KADOKAWA)は、1人だったはずの妹が日を追うごとに分裂・増殖を繰り返す摩訶不思議な奇天烈SFストーリー。「昔からうちの妹は単細胞な生き物だと思っていた。」…この物語はそんな印象的な書き出しで始まるが、まさか妹が細胞分裂(?)を繰り返すことになろうとは…!

 ある朝、主人公の花村葵が目覚めると、3歳年下の大切な妹・花村藍がふたりに増えていた。その日から藍は毎日分裂を繰り返していく。葵は妹を元に戻そうと奮闘するが、うまくいかず、妹の数は増えるばかり。家は妹で埋め尽くされ、食費も馬鹿にならない…。

 KADOKAWA×はてなによる小説投稿サイト「カクヨム」で話題となり、書籍化されたこの作品は世界の未来をかけた、シリアスなハチャメチャSFストーリーだ。「可愛い妹が日々増殖する」という設定だけを見ると、どうしてもコメディを想像してしまうだろうが、事態は危機的状況。分裂のスピードは一晩で2人、二晩で4人、三晩で8人、四晩で16人…と、爆発的に増殖中。このまま分裂が1カ月続けば、藍の人数は、日本の人口を上回ってしまうというのだから、はやく対処せねばならない。だが、事態は加速度的に悪化していくのに為す術がない。どんどん数が増えていく妹に向き合う主人公の姿はなんと切ないことか。読者は妹の数が増えて手のつけられなくなった世界の中へと溺れていく。

 おまけに妹は、ただ分裂を繰り返していくわけではない。特に、4日目に分裂した16番目の藍は他の藍とは少し違っているようで、なんだか少し不気味。ドジで少しおバカな妹とは別人のように勉強熱心で、頭がとんでもなく良いのだ。「頼れる兄」として、どこか抜けている妹を大切にしてきた葵は、妹が妹でなくなってしまったような不安を覚える。自尊心を傷つけられたような気になって、16番目を疎ましく思う気持ちが膨らんでいくのだが…。16番目の妹は一体何者なのか? どうしたら葵は、妹の分裂を止められるのか?

 とんでもないスピードで増えようが、少々不気味だろうが、妹は、葵にとってかけがえのない存在だ。多少疎ましく思うことがあったり、腹立たしいことがあったりしても、結局は、増殖し続けるすべての妹を大切に思う気持ちには変わりない。シスコンと罵られても、妹への思いは止まらない。葵は兄として妹を救えるのだろうか。妹を守る兄の闘いは、誰もが心を揺さぶられること間違いない。この前代未聞の奮闘を、どうか、あなたも見逃さないでほしい。

文=アサトーミナミ